第三幕 第二場
朝日が昇りおっぱい王国を明るく照らす頃、お城の玉座の間には王様に大臣達、それに従者キュルトヘンをはじめとする臣下達が一同に集まっていた。そしてみんなが注目する玉座の間の中央に立つのは、巨乳姫マンスロートに変装した鵞鳥番のリーゼルだった。
「さきほど説明した通り」王様が言った。「ここにいるリーゼルには我が娘マンスロートを演じてもらう。みなのものよ、おっぱい王国の命運のためにも全力を尽くして協力するのだ。ここにいる者以外の人々には、決してその正体を見破られてはならないぞ。よいな」
一同が返事をする。
「よし」
王様はそう言うと、右隣に立つ太った大臣に顔を向ける。
「シュルツよ。マンスロートの捜索状況はどうなっておる?」
「巨乳姫様の捜索については未だ何の進展もありません」
太った大臣が言った。
「そのため誘拐の可能性も考え捜索範囲を広げ、聞き込みを続けております。なお昨夜の賊を追っていったゲオルクとベンヤミンの二人の騎士は未だ帰ってきておりません。帰還しだい、王様のところへ報告に向かわせます」
「うむ」
王様はそう言うと、左隣に立つやせた大臣に顔を向ける。
「ミハエルよ。シュヴァンツ王国の王子の歓迎式はどうなっておる?」
「つつがなく進んでおります」
やせた大臣が言った。
「シュヴァンツ王国の第二王子ローラント様は、明日我がおっぱい王国に到着します。その日は旅の疲れもあるためお城でお休みになってもらい、次の日劇場にてティーア劇団の演劇を見てもらう手はずになっております」
「うむ」
王様はそう言うと、玉座の間の中央に立つリーゼルに顔を向ける。
「リーゼルよ。我がおっぱい王国のためにもマンスロートを演じ通しておくれ。頼んだぞ」
リーゼルは神妙な顔でうなずいた。
「わかりました。私の肩におっぱい王国の命運がかかっているというのならば、私はりっぱにマンスロート姫様を演じてみます」そこで一呼吸間を置いた。「でもやはり、演じきれるかどうか少し不安です」
「案ずるなリーゼルよ」
王様がリーゼルの不安を取り除こうとにっこりと笑いかける。
「お前ならきっと出来る。父親の私ですら、いま目の前にいるお前の事を本気でマンスロートだと、錯覚してしまいそうなぐらいそっくりだ。それにお前の歌はマンスロートの歌声そのものだった。自身を持っていい。お前にならマンスロートを演じれる。お前はマンスロートだ」
リーゼルは巨乳姫に変装するため、胸に詰め物をした偽乳に両手を組むようにしてあてると、目を閉じた。二、三度深呼吸すると目を開ける。その顔つきは決意に満ちていた。
「はいわかりましたお父様」リーゼルは言った。「私は今からマンスロートです」
「うむ」王様は満足げにうなずいた。「それでよい。さすが我が娘マンスロートだ」
突然玉座の間の扉が大きな音を立てて勢いよく開いたか思うと、数人の兵士達が玉座の間へと、まるで吹き飛ばされたかのごとく飛んできた。兵士達は玉座の間の床に叩き付けられる。
玉座の間の中央に立っていたリーゼルは運悪く、飛んできた兵士の一人とぶつかってしまった。リーゼルは気を失い倒れ、それにおおいかぶさるようにして兵士がのしかかる。
王様をはじめとする玉座の間に集っていた人々は唖然とする。
「私はかごの中の小鳥」
誰かが歌いながら玉座の間にやってくる。
「いつか自由になる事を夢見て歌うの」
一同が顔を向けると、そこにいたのは長い黒髪の少女だった。少女は肌着姿で、両手首にはちぎれた鎖がまかれている。
少女はゆっくりと歩を進めながら歌い続ける。そして玉座の間の中央に立つと、そこから奥にいる王様をにらみつけた。
「私はなんてかわいそうな小鳥なんでしょう」
そこで長々と間を置くと、先ほどとは打って変わって笑みを浮かべる。
「そう思いませんお父様」
王様は信じられないといった様子だった。
「ま、まさか……マレーンなのか?」
「お父様、娘の顔も忘れたのかしら」
少女は楽しそうに笑い声を漏らしている。
「でもそれも無理もない事。七年もの間、一度たりとも私のもとを訪れてはくれなかったのですからね」
「ど、どうして、お、おまえが、こ、ここに」
王様は酷く動揺している。
少女はしたり顔になり、玉座の間に集った人々を見回すと声高に叫ぶ。
「私はおっぱい王国第二王女マレーンである。臣下達よ、今すぐに風呂と着替えの用意をしろ」
一同が困惑のていでざわめき始めた。どうやらたちの悪い冗談だと思っている様子だ。
「貴様!」
太った大臣が怒鳴った。
「亡くなったマレーン姫様の名をかたり、この場を騒ぎ立てるとは不埒な者め。誰か兵を呼んでこいつを引っ捕らえよ」
「止せ、やめないかシュルツ」
やせた大臣が太った大臣に言った。
少女が太った大臣に向かって右腕を伸ばし、その手のひらを見せた。
「反抗的な臣下は必要ない。この私に暴言を吐いた罪、あの世で詫びろ。ブリックレーブ——」
「よすんだマレーン!」王様が叫んだ。「頼む。事を荒立てないでくれ」
少女が腕を下ろした。
「でしたらお父様。物わかりの悪い臣下達のためにも、私の事をちゃんと紹介してくださいよ」
「み、みなのものよ」
王様は苦虫をかみつぶしたような顔つきで言った。
「ここにいる少女はまぎれもなく我が娘、おっぱい王国第二王女であるマレーンだ」
王様にマレーンと紹介された少女は言う。
「とある事情で死んだ事にされ地下に監禁されていたけど、それはもう昔の話」
そこでにっこりと笑う。
「みなさん今日から仲良くしてくださいね」




