第二幕 第八場
日も沈み夜が訪れる頃、おっぱい王国の城下町にある酒場にやってきたちょびヒゲを生やしたタキシード姿の男。それはティーア劇団の座長クレープスだった。
クレープスは店の奥にあるカウンター席に座ると、目の前にいるバニーガール姿のマルタに注文する。
「とりあえずビールをくれ。あ、あと適当になにか食べ物をお願いするよ」
「あいよ」マルタは返事を返すとカウンター奥へと姿を消す。
クレープスはちょびヒゲをなでると息をつく。
「やっと落ち着けるよ」
「あれ、動物の劇団の座長さんじゃないですか」
そう言ってカウンターから顔を覗かせたエプロン姿の女の子は、グレーテルだった。
「たしかクレープスさんですよね」
「そうだよお嬢ちゃん」クレープスはにっこりと微笑む。「また会ったね」
「今朝方ぶりですね。調子はどうですか?」
「いいあんばいだよ」
「はいよお客さん」
そう言ってやってきたマルタが、クレープスの前にビールと数品の料理を置いた。
「ビールにクヌーデル。豆料理のリンゼにタマネギ料理のツヴィーベルクーヘンだよ」
「おおこれはうまそうだ」
クレープスはそう言うと料理に手を付け始める。
「ねえクレープスさん、料理の味はどう?」
グレーテルが訊いた。
「ここの料理はね、全部私が作ってるんだ。私はこの酒場の料理番なんだよ」
「こいつはたまげた」
クレープスは感心した様子だった。
「こんな小さいお嬢ちゃんが、こんなにも料理ができるとはすばらしい」そこでウインクする。「そして味も抜群だ」
グレーテルは嬉しそうに笑った。
「へえ〜、あんたが噂のティーア劇団の座長クレープスかい」マルタが言った。
「そうですとも兎ちゃん」
クレープスは微笑むとマルタに手のひらを差し出す。
「もしよろしければ、今夜お仕事が終わりしだい、私と一緒に遊びませんか」
マルタは人差し指でクレープスの手のひらの上に円を描く。
「百万グンデル用意しな」
クレープスは差し出した手でマルタの手を取った。
「おやすいごようですよ兎ちゃん」
「えっ?」予想外の返答にマルタは驚く。「本当にくれるの?」
クレープスは何も答えず、マルタを見つめ微笑んでいるだけだった。
「ねえクレープスさん」グレーテルが問いかける。「いったいどんな劇をするの?」
クレープスが笑いを漏らした。
「その質問をされるのはこれで二度目ですな」
「二度目?」グレーテルが言った。「私の他にも訊いた人がいるの」
「ええそうなんですよ。仕立て屋のハンスルさんに靴屋のプフリームさんですよ」
「そういえばあいつらこの店の常連なのに」マルタが店を見回す。「今夜は姿を見せないね」




