第2話 将来 side B
蒼汰「行ってきまーす。」
母「行ってらっしゃーい。」
兄「気をつけてな~。」
家族に見守られ家を飛び出す。
蒼汰「よっと!!」
3階から地面に向かって飛び降りる。
曲げた膝が衝撃を吸収し、そのしびれが脳に伝わる。
蒼汰「っつ~。流石に3階は響くなぁ…」
蒼汰は数秒しゃがみ込んだ末、立ち上がり全力で走り始めた。
*
体育館内にはボールがバウンドする音が響いていた。
「蒼汰!」
バスケットボールをパスされる。
しかし周りには身長の高いバスケ部が取り囲んでいる。
「絶対に通さないぞ!」
「バスケ部舐めんな!いくら蒼汰でも――」
重心を後ろに送り意識を逸らす。
ゴールを見つめ、ボールを振りかぶる。
瞬間、視界の端が歪んで見えた。
蒼汰「!?」
その歪みに意識が持っていかれボールの軌道がわずかにそれる。
『バアン!』
大きな音を立てボールがバックボードに当たる。
「リバウンド!!」
蒼汰「遅い!」
「!?」
はじかれたボールに全員の意識が集中しているうちに蒼汰はバスケ部の包囲を抜ける。
そして、大きくジャンプし空中でボールを掴むと、
『ダァン!!』
ゴールに叩きつける。
「マジかよ…」
「えぇ…」
バスケ部は頭を抱えていた。
その様子を先生は茫然と眺めていた。
「ナイス!!蒼汰!!」
「神プレイ!!流石~!!」
蒼汰「イエーイ。」
チームメイトとハイタッチをし、勝利を噛み締める。
汗だくのクラスメイトと違い、蒼汰の額は乾燥していた。
*
先生「返見。本当に大学に行く気は無いのか?」
放課後面談では先生から将来について何度も質問を飛ばされる。
蒼汰「はい。」
先生「うーん…」
先生はペンの背で頭を掻きながら資料を見つめている。
先生「…理由を聞いてもいいか?」
蒼汰「はい。うちは母子家庭でずっと母と兄に育てられました。きっといろんな負担を掛けてきたと思います。だから、大学にはいかず働いて家にお金を入れたいんです。」
家族の為。そのためなら自分を捨てる覚悟はできている。
何かどす黒い感情が自分にのしかかる。
先生「…」
先生は黙って理由を聞き、とある大学のパンフレットを取り出した。
先生「返見。その考えは素晴らしいことだ。先生は否定しない。でも、大学に行きながらでも家にお金を入れることはできるんじゃないか?アルバイトとかすれば…」
蒼汰「でも、大学ってお金がかかるんですよね。家族にこれ以上負担はかけれません。」
先生「…返見。今からでも部活に入ってみないか?」
蒼汰「え?」
先生はパンフレットを開く。
先生「この大学はな、スポーツに力を入れているんだ。返見の運動神経なら、きっとスポーツ推薦を得られる。それどころか今から部活でいい成績を残せば、特待制度も受けられるかもしれない。」
蒼汰「特待…制度…」
先生「ああ。特待のランクによっては無料で大学に通えるかもしれない。」
パンフレットには今先生が言ったことと同様の内容が書かれていた。
先生「どうだ?考えてくれるか?」
蒼汰「…」
蒼汰の心は揺れていた。
蒼汰「か、家族に…相談してみます。」
その声は確かに震えていた。
先生「そうか、沢山悩め。返見の人生だ。」
先生からパンフレットを受け取り、席を立つ。
ぺこりと先生に頭を下げる。
蒼汰「っ!」
顔を上げると先生の奥の窓が歪んで見えた。
最近疲れがたまっているのだろうか。今日は早く寝た方がいいかもしれない。
蒼汰はゆったりとした足取りで教室を後にした。
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