第3話 世界 side A
魔族を狩り、力をつける。
全ては世界の平和のために。
レギスの手が血で汚れていた。
ベクト「最近一段と力が入っているなどうかしたか?」
レギス「別に、どうというわけではありません。ただ、頑張らないと。魔王が生まれる前に世界を平和にしたいんです。」
ベクト「…そうか。勇者の子としての自覚を得たといったところか?だが、あまり無茶するな。お前はまだ若い。成長ってのは時間がかかるもんだ。」
レギス「…はいベクトさん。」
魔界に近づくにつれ、魔族の力は上がっていく。
何度か危ない場面もあった。そのたびにベクトさんに助けられ、自分の無力さを痛感した。
もっとだ。もっと強くならないと。じゃないと、世界は平和にならない。
*
家に帰り、書斎に向かうと父と母がまじめそうに部屋で話をしていた。
レギス「た、ただいま。父さん。母さん。」
バウンド「…レギス。ちょっといいか。」
レギス「え?は、はい。」
マージ「…昨日父さんから聞きました。あなたの予想。転移魔法による世界の横断。次元転移魔法と名付けました。」
レギス「…え?」
バウンド「つまり、本格的にレギスの仮説を検証するということだ。」
レギス「そ、それって?」
バウンド「この仮説が認められたということだ。良くやったぞ、流石は俺と母さんの子だ。」
父と母が近づき頭をなでる。その手はとても温かかった。
レギス「て、てことは。もし、仮説が正しかったら!」
マージ「ええ。この戦争は終わるわ。」
父と母の優しい笑顔。そして自身の考えが本当に戦争を終わらせるのかもしれないという期待。
バウンド「だが、まだまだ先だ。修業は続けろよ。」
心臓は大きく高鳴っていた。
*
【3年後】
大きな木がいくつも生えた森の中心。木漏れ日の下で剣を構える。
周りには数匹の魔物が取り囲んでいた。
飛び込んでくるオオカミ型の魔族フェンリルの攻撃を避け、がら空きの腹に剣を滑らせる。
血を流し倒れたフェンリルを前に体をひねる。
背後から飛び込んでくる別のフェンリルにひねった体で剣を刺す。
口から脳天に突き刺さり、フェンリルは口を閉じることなくうなだれる。
群れで動くフェンリルは威嚇をしながらレギスの周りを囲む。
「グルルルル」
だが、その強さを前に飛び込んでくる者はいない。
レギス「どうした、来ないのか?」
血の付いた剣先が太陽の光を反射している。
剣を構え群れの中で最も大きい個体を強くにらみつける。
レギス「…来い!!」
その声に反応するようにフェンリルが飛び込んでくる。
*
全身かえり血まみれでフェンリルの死体を引きずり、森を抜け隊に戻る。
ベクト「おお。レギスまたずいぶんと暴れたようだな。」
レギスが引きずっている大きなフェンリルの死体を見てベクトはフッと笑った。
レギス「大したことありませんよ。それより、まだ死体が残っています。フェンリルの毛皮は使えます。回収をお願いします。」
「「「は!」」」
数人の兵が森へと消えていく。
ベクト「ずいぶんと強くなっちゃって。勇者が板についてきたんじゃないか?」
レギス「…別に、勇者は何かを成し遂げたものの称号であり、役職じゃない。」
ベクト「ほぉ~言うようになったなぁ。」
レギス「見ていてください。俺がこの戦争を終わらせます。そうして初めて俺は勇者と呼ばれるんです。」
空を見上げる。
あんなに遠くに見えていたはずの赤色の空が、もう目前に迫っていた。
「レギスさん!伝令です!」
レギス「ん?どうしました?」
「お父様がおよびです。今、転移魔法部隊を招集し空間を繋げています!」
レギス「分かりました。」
次元転移魔法の研究の副産物として、複数人で空間の一カ所に魔力を込めれば転移魔法を行えることが分かった。
それにより物資の供給や、人員の派遣がスムーズに行えるようになった。
あれから3年。人間の快進撃は止まらなかった。
そして今日、父からの招集。きっと、これは…
ごくりとつばを飲み込み、呼吸を整える。
握りしめた剣先は血で汚れていた。
*
レギス「今帰りました。」
バウンド「帰ってきたか。レギス。母さん。説明を。」
マージ「…次元転移魔法を試します。」
全員の顔は真剣だった。
マージ「原理は複数人で行う転移魔法と同じです。一カ所に多くの魔力をとどめる。転移魔法と違うのは魔力の残骸を探し繋ぐのではなく、込めた魔力で空間に穴をあけ、強制的に別の空間と繋ぐんです。」
母は早口で話していた。
マージ「しかし、私たちの手ではこの空間に穴をあけることは不可能。どれだけやっても空間が歪む程度で穴は空きませんでした。そこでひらめきました。開かないなら開けさせればいい。」
母は目の前で、手で丸をつくった。
マージ「歪んだ空間に別次元にいる魔王に魔力を込めて何らかの攻撃を行わせる。でも、魔王がどこにいるか分からない以上、打つ手なしと思っていた。そこで目を付けたのが父の腕。」
父は肘から下の無い腕を上げる。
マージ「ここに残存している魔王の魔力を探知する。同じ、遺伝子を継ぐ魔王の子ならきっとこれに反応する。」
レギス「…?つまり?」
マージ「転移魔法の要領でこの世界と魔王のいる世界を繋ぎ、その空間を魔王が何らかの方法で攻撃すれば、その空間は裂ける。そのさきには魔王に近い存在がいる。ということです。」
バウンド「あくまで仮説だ。だが、可能性はある。それも高い確率で。ということらしい。」
父は母の方をチラリとみる。
母の目は自信に溢れていた。
レギス「…空間がつながった先の魔王を倒すのは、自分の役目ということですね。」
マージ「…ええ。お願いしますよ。レギス。」
*
母に連れられ外に移動する。
そこにはローブを来た魔法使いが数人集まっていた。
マージ「この仮説を立証するには、当然莫大な魔力が必要でした。なので、世界中にいる、私と同等、もしくはそれ以上の存在を揃えました。」
レギス「母さん以上の魔法使い?いるんですか?そんな人が?」
マージ「ええ。あなたが父を超えようとするように、私を超えようとする者もあらわれる。リム!」
母の掛け声に反応し、自分と同い年くらいの眼鏡を掛けた三つ編みおさげの少女がパタパタと走って近づいてくる。
リム「どうかしましたか?マージ様?」
マージ「ほら、この子が前に私の話した息子で、次期勇者。」
そう聞くと少女はパッと顔を明るくして、こちらに目線を向ける。
リム「初めまして。私リムと言います。マージ様にはとてもお世話になっていて!!」
年の近い子が周りにいないためか、とても嬉しそうに彼女は話していた。
レギス「はじめまして。レギスと言います。」
挨拶を済まし、母に目線を向ける。
母は何も言わずに他の魔法使いの元に足を運ぶ。
リム「レギスさんは今回魔王を倒す1番重要な役割なんですよね?」
レギス「ええ。そう聞いています。」
リム「気を付けてくださいね。相手は魔王です。何があるかわかりませんから、空間が繋がったらすぐに切りかかって下さい。一瞬の躊躇が命取りになると思います。」
彼女の目は真剣だった。
レギス「ええ。分かっています。この日のために修行を続けてきました。」
レギスは剣を強く握る。その手には自信が溢れていた。
*
マージ「いくわよ!!」
「「「「「はい!!」」」」」
母の声に合わせて魔法使いたちが一カ所に向けて手をかざす。
途端空間が大きく渦を巻くように歪む。
見ているだけで吸い込まれそうな、不思議な感覚。
マージ「っく…みんな頑張って!!」
膨大な魔力を使うようで魔法使いたちの顔には汗がにじんでいた。
リムは顔を真っ赤にしている。
レギスは姿勢を低くし、剣を抜く。いつ空間が繋がっても飛び込めるように、足には力が込められていた。
数秒この状況が続く。全員の緊張感がこの数秒を永遠にも錯覚させていた。
すると、渦の中央が小さく、だが確かに燃えた。
瞬間その火が渦全体に広がり、空間がこげ落ちる。
マージ「今です!レギス!!」
地面を蹴り、空間の先にいる人物にとびかかり、剣を振る。
その先にいたのは、
エプロンを付けキッチンに立つ主婦だった。
首の飛ぶ彼女を両目でしっかりととらえる。
視界の端には驚いた顔をした2人の男が映った。
次からが本番です。
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