第2話 将来 side A
マージ「転移魔法は残留させた魔力を見つけ出し、そこに自身の魔力を使ってトンネルを作り出し、自分と仲間だけが通れる高速移動の空間を作るんです。」
学校では教卓に母が立っている。
マージ「お手本を見せると、こうなります。」
『ブゥオン』
目の前の空間が大きく歪み、穴が開く。
穴の先には綺麗な花畑が広がっていた。
マージ「このようにして、空間を繋げることで転移魔法が可能となります。ただしこれには莫大な魔力を消費します。」
「先生すげーー!!」
「流石!勇者様と一緒に世界を救った伝説の魔法使いさんです!!」
クラスのみんなは声を上げ大きな盛り上がりを見せている。
マージ「この魔法は大きな魔力を持った人にしかできない高等な魔法です。できないからと言って落ち込まないようにしてくださいね。」
母の目線は自分に向いていた。
レギス「はい。分かっています。」
マージ「よろしい。」
にこりと笑う母の顔を見て思わず顔を伏せた。
母のように魔力を多く持って生まれていれば。
胸の内にジトっとした感情が広がった。
*
家に着いた時、空はもう暗くなっていた。
バウンド「…クソ、どこに行ったんだ。あの時魔王城にはすでに魔王の子の姿は無かった。それどころか王妃も、幹部の1人ライログもいなかった。」
バウンドは書斎で本を片手に考えていた。
バウンド「…奴は厄介だ。転移魔法を得意とする。何度も逃げられた。奴が一緒にいるうちは…クソッ」
『ドンッ』
呼吸を荒くし本を机に叩きつけるように置いた。
その目は真っ黒だった。
『ガチャ』
レギス「父さん?」
バウンド「…レギスか。おかえり。」
バウンドは何事も無かったように優しく微笑み車いすを操作した。
レギス「う、うん。ただいま。」
レギスはその優しい顔の奥にある闇を感じ取り、声が震えていた。
レギス「今日も、魔王の子の行方について考えていたんですか?」
バウンド「…ああ、まぁ。そんなところかな。」
バウンドは歯切れが悪そうに呟いた。
レギス「…あ、これって。」
父が机に叩きつけた本。
『世界の神話』
バウンド「ああ。ちょっと魔王について知るためにな。神話から学び直そうと思ってな。」
そこにあったのはこの世界の神話が書かれた書物だった。
バウンド「だが、ダメだな。神話は所詮神話だ。役に立つようなことは――」
ペラペラと本をめくる。
レギス「もしかして…」
バウンド「ん?」
レギスの脳裏にある予想が浮かび上がる。ばかばかしく、現実味も無い予想が。
レギス「もしかしたら、魔王の子はもうこの世界にいない…?」
バウンド「…?どういう意味だ?もう死んでいると言いたいのか?」
車いすが軋む音を立てて近づいてくる。
バウンドの顔には、先ほどまでの優しさはなかった。
そこにあったのは、魔王への憎しみだった。
レギス「ええと、そう言うわけでは無くて。ここ、世界の空が裂け、魔族がやってきた。この部分です。」
バウンド「ここがどうかしたか?」
レギス「この空が裂けるっていうのは、ずっと何かしらの災害的なものかと思っていました。でも、もしかしたら、ここって、転移魔法なのかも…」
バウンド「…どういうことだ?」
いつの間にか父は目の前まで近づいていた。
レギス「あ、いえ、ただの妄想で――」
バウンド「構わない。話してみろ。」
父の目は真剣だった。
レギス「きょ、今日、学校で母の転移魔法を見たんです。その、空間が歪んで穴をあけていて、それでふと思ったんです。もしかしたら、この空が裂けたっていうのも、そうした魔法なのかもって。」
父は黙って聞いていた。
レギス「ほ、ほら、魔王って魔力が凄いから、もしかしたら別の世界を行き来するような魔法が使えてもおかしくないかもって。」
バウンド「…」
父はずっと黙り、口元を手で押さえている。
レギス「あ、アハハ。なんて、ばかばかしいですよね。ごめんなさい。」
やがて、小さく呟く。
バウンド「……ありうる。」
レギス「え?」
バウンド「それなら今まで魔王の強い魔力を感じ取れなかったことや、人間軍がここまで領土を取り戻しても、未だ姿を現さないことにも説明がつく…」
レギス「あ、あの。父さん?」
バウンド「レギス。やはりお前は母さんの子だ。お前は将来、父さんを超える立派な勇者になるだろう。」
父はそう言ってレギスの頭をなでる。
バウンド「今日はもう寝なさい。明日も行くんだろ?ベクトの元に。」
レギス「は、はい!父さん!」
父に褒められた。
それだけで、心は大きく弾んだ。
俺が勇者になって世界を救う!
本当にこの戦争を終わらせられる。
将来の夢は次第に目標へと変わっていった。
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