第1話 平和 side A
外では雷が鳴っている。
紫色の体液の付いた剣先をバウンド・シフは丁寧に拭きとり、呼吸を整える。
勇者としての役目を果たす。その目にあるのはそんな力強さだった。
マージ「大丈夫ですか?」
魔法使いのマージが心配そうに杖を構えている。
バウンド「ああ。大丈夫だ。ありがとう。」
2人の目の前には大きな扉。
この先に魔王がいる。
震える体を深呼吸で落ち着かせ、扉を開けた。
バウンド「魔王!!今日ここで、1000年続いたこの戦争に決着をつける!!」
扉の先にいた魔王はこちらに背を向けていた。
魔王「…よく来たな。」
振り返ったやつの目には涙が浮かんでいた。
魔王「勇者よ!!!」
魔王の振り上げた手には強い魔力が込められていた。
*
【14年後】
[人魔戦争 最前線 ベクト隊]
目の前で弱っている緑色の小さいゴブリンに剣を振り下ろす。
首筋に刺さった剣から紫色の血しぶきが飛び、顔に付着する。
??「流石、勇者のご子息様。13歳とは思えない強さだ。」
大きな斧を持った筋骨隆々な男が話しかけてくる。
レギス「からかわないでくださいよ。ベクトさん。僕なんかまだまだです。」
剣を抜き取り、付着した血を丁寧に拭き取る。
レギス・シフ。
勇者バウンド・シフの息子。
ベクト「からかったつもりは無いさ。むしろ感心してるんだよ。」
レギス「ありがとうございます。」
ベクトは斧を地面に立て、空を見上げる。
ベクト「このまま、残りの魔族を一掃できれば平和で終わるんだがな。」
ベクトは空に向けて指を突き立てた。広がった青空は線がひかれたように赤へと変わっている。
ベクト「あの先の魔界に魔王の子がいるはずだ。それを倒さないと平和は訪れねえ。」
レギス「今は、人間界にいる魔族の殲滅が最優先です。」
ベクト「分かっているよ。いずれの話さ。」
*
14年前、父バウンドと母マージの手によって魔王が倒された。
魔界に建てられた魔王城に攻め入り、退治した魔王は強く巨体だったらしい。
だが、父は勝った。
あれから14年。今、人間界では大幅な魔族狩りが行われている。
目指すは人間界の奪取。
各国の王は協力し、父バウンドを指揮官に据えた全面的な領土奪還作戦が行われた。
魔王亡き今が好機。平和な世界を取り戻すため多くの部隊が奮闘を重ねている。
このベクト隊もその1つ。
隊長のベクトさんはその昔、父と一緒に魔界に行ったことがあるらしい。
*
ベクト「ま、今日はこの辺までだな。これ以上先は危険が多い。」
魔物や魔族の死体から爪や牙などの使えそうな部位をはぎ取り二人は振り返る。
ベクト「よし、お前ら!今日はここまでだ!夜営班はテントの準備をしろ!」
「「「っは!」」」
鎧を身にまとった兵隊たちはその命令に従い荷物を取り出し始める。
ベクト「この調子じゃあ、もうじきこの地区は人間の手に返るな。」
徐々に人間のテリトリーは広がっている。
レギス「帰りましょう。ベクトさん父も良い報告を待っています。」
ベクト「おう、そうだな、ちょっと待ってろ。」
2人はゆっくりと歩きながら戦線を後にする。
ベクト「ところでレギス。転移魔法は使えないのか?」
レギス「…まだ、勉強中です。」
ベクト「そうか、まぁあれは難しいからな。よほどの魔力が無いと使いこなせない。人間で使えるのはお前の母さんくらいじゃないか?」
レギス「…いつか使えるようになって見せます。」
2人が歩く道に魔族はもういない。
*
レギス「父さん…今、戻りました。」
大きな豪邸に帰ってきたレギスは父のいる書斎へと足を運んだ。
バウンド「おお。帰ってきたか。」
父親は木製の車椅子を器用に操作し、振り返った。
右足が無く、右手は肘より下が無い。
欠損した体の部位は魔王との死闘によるものだと聞かされた。
魔王は死の間際、父の体を空間魔法で引き裂こうとした。
だが、度重なる父の猛攻により狙いが右半身へとそれた。
結果として命は残ったが、もう二度と戦線へは浮上できない体になってしまった。
父の姿を見ると魔王への、いや。魔族への怒りが溢れてくる。
レギス「父さん。今日は異形の森前の平原にいた魔族を倒しました。」
バウンド「そうか、よくやったな。すまないな、まだ若いのに戦場に連れ出させてしまって。」
レギス「ううん。大丈夫です。父さんが戦えない今、戦力は少しでも欲しい。それに実戦が一番力をつけられます。」
バウンド「ッフ。母さんが心配するぞ。」
父の笑顔は柔らかいものだった。
レギス「っう。それは…申し訳ないけど、でも早く人間界を取り返して、魔界にいる魔王の子を倒さないと!この戦争はいつまでたっても終わりません!」
バウンド「…そうだな。」
父の顔が険しくなる。その顔からは歴戦の猛者としての威厳が感じられる。
バウンド「絶対にどこかにはいるはずなんだ。だが、魔王の持つ大きな魔力は感じ取れない。まるで、どこか別の世界に逃げ込んだみたいだ…」
レギス「大丈夫です!父さんくらい強くなって俺が見つけてみせます!」
レギスは拳を握り、胸をドンと叩く。
バウンド「そうか。頼もしいな。」
バウンドは車いすを移動させ、レギスの頭を撫でた。
良いと思ったら、感想、ブックマークお願いします。喜びます。




