第19話 境界線の復讐者 side AB
レギス「…なに、してんだ?」
小さな船に乗るレギスを蒼汰は見下す。
蒼汰「…」
蒼汰は無視して手に力を込める。
『ミシシシ』
空間が大きくきしみ、ひびはどんどん大きくなる。
レギス「リム、飛行魔法だ。俺が奴を止める。」
リム「分かりました。」
リムはレギスに両手をかざす。
レギスの身体がゆっくりと宙に浮く。
両手にはしっかりと剣が握られていた。
レギス「何してんだって、聞いてんだよ!!」
とびかかるレギスに対し、蒼汰は手の力を緩めない。
『バキッ』
レギス「!?」
レギスの目の前の空間に大きな亀裂が入り、思わず足が止まる。
蒼汰「…」
蒼汰はただじっと睨みつけている。
レギス「…何か言えよ、頼むから…言ってくれよ…」
蒼汰「…魔界を閉じる。」
レギス「え?」
蒼汰「戦争を終わらせる!」
まるで後頭部を殴られたようだった。
レギス「なんだよ、それ…お前は魔王だろ?なんで、そんなことしようとしてんだよ…」
蒼汰「…魔王だからだ。魔界の責任は全て俺にある。お前も勇者なら協力しろ。」
レギス「…っく。リム!今すぐ魔界にいる全兵士を人間界に帰るよう伝えるんだ!」
リム「え!?」
レギス「転移魔法だ!お前ならできるだろ!」
リム「わ、分かった。でも、レギスは!?」
レギス「俺は…あの相手をする。」
レギスが睨みつけたのは蒼汰のさらに奥。
何体もの魔族が蒼汰に向かって飛んできていた。
舟の上にはゲートを通り抜けるリムの姿が映る。
蒼汰「…俺はお前を許さない。」
レギス「分かってる。俺も許されようとは思っていない。でも、今はお互い平和のために。」
レギスは飛んでくる魔族に向かい突撃する。
勇者と魔王で全て終わらせる。
*
ゲートの先はレギスの家の会議室。そこは魔王の復活により混乱を極めていた。
リム「急いで魔界にいる部隊にゲートを繋いでください!」
リムはマージを見つけると叫んだ。
マージ「え?急にどうしたの?リム?」
リム「良いから!私もよくわかってないんですけど!レギスにそう言われたんです!」
ベクト「レギスが!?」
バウンド「…!」
マージ「え?どういうこと?」
リム「説明してる暇はありません!早く!」
リムの顔は焦りで険しくなっていた。
マージ「で、でも…」
バウンド「リム。なぜだ。」
バウンドは強くリムを睨みつける。
その圧に慌しかった会議室が静かになる。
リム「…戦争を、終わらせるためです。」
バウンド「…」
バウンドは目を瞑り数秒黙ると、1度頷き口を開いた。
バウンド「マージ。ゲートを繋げ。」
マージ「は、はい!」
マージは空中に手をかざし、ゲートを開く。
リム「バウンド様!マージ様!」
マージ「今、他の魔法使いにも知らせて他の戦地にもゲートを繋いでもらうから、ちょっと待ってて。」
リム「お願いします!」
リムはゲートをくぐる。魔界の地面は酷くぬかるんでいて気持ちが悪かった。
兵士たちの顔は皆疲弊しきっている。
空のひびはどんどん大きくなっていく。
リム「魔界にいる全兵士に命令します!撤退です。今すぐ人間界に避難してください!」
「え?」
「何で…?」
兵たちは状況を掴みきれていない様子だった。
「まさか…人類の敗北という事ですか…?」
「そ、そんな…」
リム「な、違…!」
「まだ!まだ戦えます!」
「平和のために…家族の為に、戦わせてください!」
ぬかるんだ地面が嫌に重たく感じた。
リム「え、ええと…」
ベクト「馬鹿野郎!」
「え?」
「ベクトさん!?」
ゲートを抜けたベクトがぬかるんだ地面に足をつける。
ベクト「敗北じゃねえ!勇者が、レギスが戦ってんだ!」
「え?」
「レギス様が?」
ベクト「終わるんだ!戦争がよ」
暗かった兵士たちの顔に光がともる。
魔界の赤い空は綺麗に見えた。
*
剣を振るう。
「あの男を倒せ!」
剣先は魔族を撫でる。
「人間界を閉じさせるな!」
飛行魔法のおかげで普段できないような動きが容易に行える。
「人間界を手に入れるんだ!邪魔はするな!」
『ミシミシミシ』
悔しいが、俺は今、魔王のために戦っている。
罪悪感で押し潰されそうになる。
俺のせいで…あの人を孤独にさせてしまった…
「死ねぇ!」
一瞬の思考で目の前に魔族が来ていた。
レギス「っグ!」
剣で受け身を取る。しかし飛ばされる先には別の魔族。
レギス「まずい!」
『バキ』
「ぐえ!」
空間のひびが入り、魔族の攻撃は闇に消える。
蒼汰「ボーっとするな!戦え!勇者だろうが!」
レギス「…ああ!わかってるよおお!!!」
握られた剣には強い力が込められている。
あふれ出る感情は剣先に込めて振ることしかできなかった。
*
レギスの全身が魔族の返り血で染まっていた。
レギス「はぁ…はぁ…」
「…なんだあいつ…本当に人間か?」
レギス「どうした?こいよ!」
レギスの気迫に魔族は思わずたじろぐ。
この時、レギスは間違いなく、本当の英雄として覚醒していた。
『ミシミシミシッ』
リム「レギス!全兵士の撤退!終わらせた!」
舟の上にはリムが戻ってきていた。
リム「レギス!もう限界!飛行魔法が維持できない!」
『バキッ』
境界線が大きく音を立てて崩れていく。
蒼汰「閉じるぞ!逃げろ!勇者!」
レギス「分かった!」
レギスは蒼汰の横を通り、人間界に体を持っていく。
蒼汰「…勇者。俺はお前を恨んでいる。」
向き合った魔王の顔には憎しみが混じっていた。
レギス「…分かってる。俺も許されるとは思ってない。」
蒼汰「…」
レギス「まだ間に合う。俺を殺したかったら、殺しても構わない。そうでもしないと俺の罪は償えない…」
境界線は闇に飲まれ、蒼汰とレギスの向かい合う小さな空間しか残っていない。
蒼汰「…楽になろうとするなよ。ずるいぞ。俺にだって兄さんと父さんの言いつけがあるんだ。守らなくちゃならない言いつけが。」
レギス「…え?」
蒼汰「じゃあな。二度とこの恨みは忘れない。お前も一生背負え。」
レギス「…うん。背負うよ。ありがとう。」
『ブツン』
空間が閉じる。
レギスの身体がゆっくりと落ち、穏やかな海の上に浮かんだ船に着地する。
リム「…これで、全部終わったんですよね…。」
レギス「…ああ。」
リム「もう、限界…魔力も切れて動けない…」
空はどこまでも続く綺麗な青色だった。
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