第17話 道筋 side B
なんだ、この世界は…
蒼汰の目にまず飛び込んできたのは2色の空でも、魔族でも、復讐相手でもない。
「待ってよ兄ちゃん!」
「遅いぞ!早くしないと遅れるだろ!」
兄の背を追いかける小さな子供の姿。
「お母さん!今日ね、学校で勇者様の話でもちきりだったんだよ!魔王をもうすぐ倒せるんでしょ?そしたらお父さんも帰ってくるんだよね!」
「そうね。新しい勇者様も強いからきっと倒せるわ。そしたらまた父さんと3人で暮らせるわ。」
笑顔で話す母と子の姿だった。
何の変哲もないただの平和な世界だった。
蒼汰「…なんだよ、それ。」
蒼汰はふらふらとした足取りで町中を歩く。
飲まず食わずで過ごしてきたためか、上手く足に力が入らない。
『ドサ』
膝から崩れ落ち、目の前が真っ暗になる。
最後に脳に浮かんだのは簡単な言葉だった。
こんなの、認めたくない。
*
ライログ「蒼汰。」
ファミーラ「蒼汰。」
蒼汰「兄さん!母さん!」
マンションのリビング。平和な日常。
ライログ「蒼汰。ごめんな。ずっと俺たち家族のために無茶させて。」
蒼汰「違う。違うよ。兄さん。俺は無茶なんかしてないよ。」
ファミーラ「私たちのせいで…ごめんね。」
蒼汰「やめてよ、謝らないでよ。」
温かな光に包まれたマンションの1室には何故か悲しみが充満していた。
ライログ「蒼汰…お前は優しい子だ。難しく考えなくていい。使命感にかられなくていい。自分の感じたことをすればいい。母さんも俺も、父さんもそれを1番に願ってるよ。」
蒼汰「兄さん…」
カーテンが風に揺れ、温かい空気が部屋に流れる。
ファミーラ「お母さんたちはもう行くね。」
蒼汰「いやだ!待ってよ!」
ファミーラ「大丈夫…あなたならきっと、平和な世界を見つけられるはず…」
温かい光が部屋を眩しく包み込む。
その眩しさで前が見えない。
蒼汰「待って!待ってよ!」
最後にその目に映ったのは申し訳なさそうに笑う家族の姿だった。
*
蒼汰「ッハ。」
目に飛び込んできたのは知らない天井と、覗き込む小さな男の子の姿だった。
子ども「あ、お母さん!お兄さん、目を覚ましたよ!」
子どもはトテトテ走って部屋を飛び出す。
知らない部屋、知らないベッド、蒼汰はそこに寝かされていた。
母「大丈夫ですか?」
手にお椀とスプーンを持った女性が心配そうに顔をのぞかせる。
足元には先ほどの子供が不安そうに抱き着いていた。
蒼汰「…ここは?」
母「ああ。ごめんなさいね。道で急に倒れて、呼んでも返事が無かったから。息はしてるみたいだったから、心配になって。」
蒼汰「…あ、その。ごめんなさい。」
礼を言おうとしたはずなのに、口から出たのは謝罪だった。
母「大丈夫ですよ。困ったときはお互い様ですから。これ、良かったらどうぞ。」
手渡されたスープはとても温かかった。
母「戦地帰りですか?」
蒼汰「え?」
物騒な響きに思わず手が止まる。
母「あ、ごめんなさい違いましたか?」
蒼汰「あ、いえ、まぁそんな感じです。」
嘘をついた。何を言っても信じてくれなそうな気がして。
母「…大変ですね。でも、もうそろそろこの戦争も終わるはずです。勇者様が魔王の子を討伐すればきっと…」
蒼汰「…倒せますかね、勇者が魔王を。」
言ってからハッとする。もしかしたら自分はとんでもないことを言ってしまったのではないかと。
母「…分かりません。でも、この戦争が終わるのなら信じるしかありません。それ以上は望みません。この子のためにも。戦地に、魔界に行った旦那の為にも。」
子ども「?」
女性は優しい顔で子供の頭を撫でる。
胸が凄く苦しくなった。
子ども「お兄さん?大丈夫?」
蒼汰「え?」
子ども「だって、泣いてるから。」
自分の頬を触る。
認めたくない、それなのに…
温かな感情が指先に広がった。
*
蒼汰「本当にありがとうございました。」
蒼汰は外でぺこりと頭を下げる。
母「いえ、大丈夫ですよ。気を付けてくださいね。」
子ども「ばいばい!」
蒼汰はしゃがんで、子供と目線を合わせる。
蒼汰「待っててね。戦争終わらせて来るからね。」
子ども「え?」
蒼汰は立ち上がり、空を見上げる。
青い空と赤い空の境界線に向かって走り出す。
この戦争を終わらせる方法は、もう一つしか思い浮かばなかった。
魔界を閉じる。
それが魔王としての責任だ。
魔王としての責務を全うする。




