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境界線の復讐者~勇者の子に復讐を~  作者: 春間 来善


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第16話 成果 side A

マージ「な、何があったんですか!?」


全身血まみれで気絶をしているレギスを見てマージは絶叫する。


ベクト「作戦は失敗だ。」


ベクトは失った右腕を惜しむように、右肩を強く握りしめる。


リム「で、ですが、レギスさんはライログを倒しました。成果が0というわけでは――」


ベクト「馬鹿野郎!」


リム「え…?」


ベクト「魔王の子を見てなかったのか?俺らが…魔王を目覚めさせちまったんだぞ。」


バウンド「どういうことだ?」


ベクト「バウンド…言ったとおりだ。」


ベクトの後ろから車いすのきしむ音が聞こえる。


バウンド「…ベクト。リム。2人に報酬はしっかり払う。ライログ討伐は大きな1歩だ。マージ、医療班を呼べ。レギスとベクトを治療する。」


淡々と指示を飛ばす彼の姿に全員が息をのんでいた。


マージ「…その必要はありません。」


マージは倒れるレギスに両手をかざす。


マージ「…」


レギスの周りが緑色の魔力に包まれる。


バウンド「…そうか、判断はお前に任せる。」


ベクト「か、回復魔法を使う気か?やめておけ!そいつの食らったダメージは相当のものだぞ!」


マージ「…自分の子の為ならこれくらいなんてことありません。」


ベクト「…そうは言うがな。」


マージの額には汗が流れていた。


心配そうに眺めるベクトの右肩が緑色に光る。


ベクト「!?嬢ちゃん!?馬鹿!何やってんだ!」


リム「ベクトさん。動かないでください。」


リムは右肩に手をかざし魔力を込める。


ベクト「やめろ!失った腕は戻らない!傷口は時間をかければ治る!」


リム「今のベクトさんは強化魔法の効果が残っているから平気そうにしているだけです。なら今のうちに治療するのが一番いいはずです。」


リムの額にも汗が流れる。


ベクト「そう言う話じゃない!嬢ちゃんに腕を失うほどの激痛が行くんだぞ!」


リム「私を守ってくれたお礼です。覚悟はできています。」


ベクト「馬鹿野郎が…」


マージ「回復!」

リム「回復!」


2人の声は重なっていた。


緑色の光は強烈にまばゆく光る。


次の瞬間、


マージ「…ああああぁぁ!!」


リム「…ぎゃああああ!!!」


響き渡る絶叫。


緑色の光が消え、傷口がふさがる。


リムは白目をむいてその場で意識を飛ばしていた。


マージ「…はぁ、はぁ、はぁ。」


マージの手はプルプルと震え、口の端からはよだれを流していた。


*


真っ暗だ。何も見えない。


レギス「…?ここは?」


広がり続ける闇。


レギス「父さん?母さん?ベクトさん?リム?」


声は虚無に消えていく。


返事はない。


孤独感が心を蝕んでいく。


レギス「!?な、何!?」


足元の闇がぬかるみ、体がゆっくり沈んでいく。


レギス「う、うわあ!」


ぬかるんだ闇から手が伸び、足を掴む。


魔王「全部、お前のせいだ。」


*


レギス「っは!」


目を覚ますと自室の天井が目に入る。


レギス「はぁはぁ。」


全身にあったはずの切り傷は綺麗にふさがっていた。


マージ「目が覚めた?」


レギス「はぁ…はぁ…母さん?」


マージ「うなされてたようだけど、大丈夫?」


母の心配そうな目を見て思わず涙がこぼれる。


レギス「…どうしよう…母さん…俺、取り返しのつかないことを…しちゃったかもしれない…」


マージ「…!大丈夫、大丈夫よ。あなたは頑張った。魔王は逃したかもしれないけど、ライログを討伐できたじゃない。」


母は優しく頭を撫でる。


的外れな慰めはレギスの心には響かなかった。


*


ベクト「…どうするんだ?」


バウンド「どうもこうも無い。魔王討伐は最優先。魔界への侵攻も続ける。ただそれだけだ。」


ベクト「…無理だな。」


あれから数日、屋敷の大きな会議室では複数人の大人が話し合っていた。


マージ「でも、やらないと一生平和は訪れません。」


ベクト「あんたらの目指す平和ってやつはどこにある?魔族を皆殺しにした先か?」


バウンド「分かってるじゃないか。安心したよ。」


ベクト「ッチ。その必要がどこにある。海岸で防壁を築き、魔族の侵攻を止める。そうすれば人間界は安全だ。」


バウンド「いいや、違うな。」


ベクト「は?」


バウンド「魔界の魔族は防壁など簡単に破る。それは魔界に行ったことのあるお前も理解しているだろ?」


兵士A「し、しかし、バウンド様。お言葉ですが、今の戦力では魔界への侵攻は厳しいと思われます…」


兵士B「ええ、今も前線で戦っている者たちは魔界上陸で手一杯。上陸後は防戦一方です。」


ベクト「…バウンド。あんたの言い分もわかる。でもな、みんながみんな全盛期のお前のように強いわけじゃないんだ。現状の魔界への侵攻は自殺行為と同じだ。今すぐ撤退し、防壁を建てた方がいい。」


会議はピリついていた。


状況は魔界侵攻派のバウンドVS城跡を築く派ベクト、戦況は五分。


バウンド「…足りないのは兵力か?それとも絶対的な力を持つ個人か?」


ベクト「…どういう意味だ?」


バウンド「レギスを使う。魔王妃とライログを倒した奴を本格的に勇者として任命し、最前線に置く。そうすれば兵の士気も上がるだろう。」


マージ「あなた!?」


ベクト「!馬鹿野郎!?本気で言ってんのか!?」


バウンド「驚くのも無理はない。奴の強さはまだまだだ。だが、俺の子だ。必ず強くなる。」


ベクト「そういう問題じゃない!そんなまだまだ強くなる子を見殺しにするってのか!?自分の子だろ!?」


バウンド「もしこれが見殺しに当たるのであれば既にやっていた。ベクト、お前の隊は常に最前線だった。なぜ俺がそこにレギスを入れたかわかるか?実戦は最も効率のいい修行方法なんだ。俺がそうだったようにな。」


全員言葉を失っていた。


バウンド「異論はないな。なら、レギスを魔界に送る。今がチャンスなんだ、この世界を平和にするには――」


瞬間世界の空気が重くなる。


バウンド「!?」


ベクト「…あ、ああ。」


ほんの一瞬だけ。


だが、その一瞬で何が起こったのか理解するのは十分だった。


バウンド「…」


誰も言葉を発しなかった。


会議室の空気だけが重く沈む。


その場にいた全員が、同じことを悟っていた。


魔王が、人間界へ来た。

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