第9話 知らせ side B
蒼汰はホテルから1歩も外に出なかった。
カーテンは閉め切り真っ暗な部屋でただ茫然と座っていた。
ライログ「…蒼汰様、食事はどうしますか?」
蒼汰「いらない…」
ライログ「気持ちは分かります。ですが、何か食べないと…」
蒼汰「食べない…魔族だから…平気でしょ…」
その声があまりに痛々しくてライログはそれ以上追及できなかった。
ライログ「…で、では、魔法の修行などいかがでしょうか?」
蒼汰の身体がピクリと動く。
蒼汰「それを学べば、俺は奴を倒せるようになる?」
ライログは首を縦に振りたくなかった。でも、今の蒼汰を動かすのはこれしかない。
ライログ「…はい。空間魔法はとっても強い魔法です。」
辛かった。
復讐にとりつかれる蒼汰の姿を見るのが。
嫌だった。
魔王の命令を破り蒼汰を復讐の道に誘い込む自分自身が。
そうまでして弟と話がしたい兄としての平和ボケした自分自身が。
蒼汰「…教えて、この魔法を強くする方法を、奴を倒す方法を。」
蒼汰の指先の空間が歪んでいた。
ライログ「…まずは歪められる空間の拡張を行いましょう。」
*
ライログ「やることは簡単です。指先により力を込めるんです。」
蒼汰「より力を…フンッ」
深夜、2人は公園に来ていた。
蒼汰は指先にぐっと力を込める。
しかし、空間がビー玉サイズほど歪むだけで大きくなることはなかった。
蒼汰「っはぁ…はぁ…」
ライログ「蒼汰様、指先の空間を全てつなぎ合わせる感覚です。繋いで一つの球体にする。その意識で行えばきっとできる。」
蒼汰「…分かった。」
死んだ目をしていた蒼汰の目が生き生きとしている。
そのことがライログは嬉しかった。
それと同時に苦しかった。
指先の歪みが少しずつ近づく。
人差し指と中指の歪みが繋がり歪な形を作り、はじける。
蒼汰「っはぁ…無理だぁ。」
泣きそうな声でうなだれる。
ライログ「諦めないでください!練習あるのみです!きっと、きっといつか上手くいきます!」
復讐への道が着実に縮まっていく。
それでも、ライログは魔王の子と、弟と話がしたかった。
*
蒼汰「で、できた!」
それができるようになったのは修業を始めて3日後だった。
ライログ「…流石です。まさかこんなに早く習得するとは…」
感慨深いような、認めてはいけないような、複雑な感情が脳を支配する。
蒼汰「次は!?次はどうすればいい!?」
ライログ「…次はその歪みを自身の思うように操れるようにしましょうか。」
蒼汰「…?」
あまりピンと来ていない顔をする蒼汰を見て、ライログは石を拾う。
ライログ「蒼汰様、空間魔法を使ってみてください。」
蒼汰「え、うん。」
蒼汰は指先に力を込める。指先の歪んだ空間が1つに収束し、サッカーボールほどの大きさになる。
ライログ「例えばここに、石を投げ入れます。」
ライログの手から離れた石が指先の空間に吸い込まれ空間の中央で静止する。
ライログ「今の蒼汰様の魔法では、物を中央にとどめるだけ。もしこの歪みを好きなように調整できれば、投げた石の軌道を大きく変えることが出来ます。」
蒼汰「な、なるほど…で、それはどうやれば!」
輝く蒼汰の目を見てライログは嬉しくてたまらなかった。
ライログ「強く念じてください。こればかりは、コツなどではありません。飛んでって欲しい方向に強く念じながら想像するんです。」
蒼汰「わかった。」
指先をジッと見つめ、石を落とす。
石が蒼汰のおでこに直撃する。
蒼汰「いってええ!!」
ライログ「フフフ、練習あるのみです。」
*
念じる。
ぐぬぬぬぬ。
念じる。
右に、右に曲がれ…!
空間が大きく右に歪んだが気がした。
今だ!
蒼汰は石を投げ入れる、石は空間で軌道を変え、思った方向に飛んでいく。
ライログ「せ、成功です!」
蒼汰「で、出来た!やったー!!」
蒼汰は腕を大きく振った。歪んでいた空間がゆっくり飛んでいく。
ライログ「!?」
蒼汰「…あれ?もしかして、歪んだ空間って飛ばせるの?」
ライログ「…やはり、魔王様の子だ…魔法の才能はすさますい。」
この日、修行から5日が経過していた。
ライログ「蒼汰様!流石で――」
蒼汰「飛ばせる…もし、一カ所に維持できれば…大きなトラップになる…これで、奴を倒せる…」
その目は真っ黒に歪んでいた。
その瞬間、ライログは確信した。
自分は今、魔王様の最後の願いから最も遠い場所に立っている。
魔王様になんと知らせればいいのか…
その額には冷汗が浮かんでいた。
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