第8話 変化 side A
時刻は夜になっていた。
パチパチと音のなる焚火を囲みながら、昼間の戦闘を思い出す。
魔獣…魔界にいる知能の低い化け物ども。
忌むべき存在。
「…ス」
今まで奴らと魔族を同一視してきていた。
もしかしたら違うのかもしれない。
「…ギス?」
奴らはいわば害獣、駆除すべき存在で魔族とは違う…
魔族はもしかしたら分かり合えるのかもしれ――
ベクト「レギス!!」
レギス「は、はい!」
ベクト「考え事か?いつ襲われるか分からないんだ。あまり感心しないぞ。それと、薪いれてくれ、火が消えちまう。」
ベクトはレギスのそばに置かれた木の束を指さした。
レギス「あ、はい!わかりました。」
火に薪を投入する。焚火の淡い光があたりを照らす。
リム「温かいですね…」
リムは焚火をジッと見つめていた。眼鏡にオレンジ色の光が反射している。
レギス「…というか、リムはなんでここに?」
リム「え?」
レギス「転移魔法が使えるだろう?帰らないのか?」
パチパチという音があたりに響く。
リム「そう言うわけにもいきません。マージ様に頼まれたんです。」
レギス「母さんに?」
リム「はい。戦場を学べと言われたんです。レギスさんのそばにいて彼のサポートをしてあげてって。」
リムは胸を張り、そこに拳を叩きつけた。
レギス「俺のサポート?」
リム「ええ。多分、マージ様は私に過去のマージ様自身を重ねているのだと思います」
レギス「え?」
思わず唾を飲み込んだ。
リム「言われたんです。あなたとレギスはこの世界を救う勇者と魔法使いになれるって。」
パチッという一際大きい音があたりに響く。
リム「そのために前線で学んでこいってことだと思います。」
レギス「だ、だとしても、前戦は危険過ぎる!」
ベクト「まぁいいじゃねぇか。嬢ちゃんのおかげでミノタウロスに勝てたのも事実だ。魔法使いが増えることは俺ら兵士にとっても嬉しい限りよ。」
リム「ベクトさん…」
ベクト「それより嬢ちゃん。その2人、俺のことなんか言ってたか?」
ベクトの目はキラキラと輝いていた。
リム「え、ええと確か、頼れる大人――」
ベクト「かー、見る目あるねぇ!」
リム「だけど、慢心からありえないミスをすることがあるから気を付けてと。」
ベクト「うっ!こりゃ手厳しい意見だね…」
「「「「ハハハ」」」」
周囲に笑みが広がる。
そんな中レギスの顔だけは真顔だった。
「おい、飯ができたぞ。」
ベクト「お、ちょうどいいや。火は見ておいてやる、2人ともとってこい。」
リム「はい!行きましょう。レギスさん。」
レギス「…うん。そうしようか。」
レギスはゆっくりと腰を上げる。
食料を受け取りに行く途中、視界の端に茂みが揺れた。
レギスは急いで剣を構える。それを見て周りも武器を手に取る。
リム「え?え?」
レギス「…」
部隊に緊張が走る。
『ガサガサ』
『あ、あの…僕…』
茂みから出てきたのは1つ目で角の生えた魔族だった。
ベクト「魔族…ありゃ子どもだな…」
『え、ええと。その。』
魔族の目には涙が溜まっていた。パニックになりながら周囲をキョロキョロと見回している。
全員がじりじりと距離を縮める。
ベクト「ったく。怖い奴しかいねぇな。」
ベクトは武器を持たず立ちあがり近づく。
ベクト「どうしたんだ?坊主?」
レギス「ベクトさん!!何やってるんですか!?」
ベクト「あ?いいんだよ。俺はありえないミスをするんだ。」
ベクトはしゃがみ込んで、魔族と視線を合わせる。
『あの、僕、この森に棲んでて、でも守ってくれてた魔獣がいなくって。何かあったのかと思って…』
ベクト「…まさか、ミノタウロスか…」
ベクトは頭を掻きながらバツの悪そうな顔をする。
ベクト「そうか。いいか坊主、もうその魔獣はいなくなっちまった。家に帰ったら母さんたちにこの森はもう危険だから、魔界に帰るように言っといてくれ。」
『え?』
ベクト「分かったな!」
フッと笑い、魔族の頭を優しくポンと撫でる。
『わ、分かった!』
走っていく魔族の後ろ姿を全員が見つめていた。
*
全員の手に食事がいきわたる。
ベクト「おー、こりゃうまそうだ。」
レギス「…本気なんですか?ベクトさん。」
ベクト「あ?」
焚火の淡い光が二人を包む。
レギス「魔族を逃がすなんて。どうかしてますよ。」
ベクト「っへ。所詮は温室育ちだな。」
ベクトはシチューに入った肉を頬張った。
ベクト「俺はずっと前線で戦ってきた。だからわかる。奴は良い魔族だ。」
レギス「!」
めらめらと燃える火が風でベクトの方へなびく。
ベクト「なりふり構わず殺して見ろ、それこそやってることは魔族と同じだ。俺らは人間だ。そう言うわけにもいかないだろう。」
レギス「…」
レギスの中で何かが動いた気がした。
レギス「良い魔族…」
燃え盛る焚火の音でレギスの声はかき消された。
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