第77話 ショコラ・ケーキ
オランダで町作りを学んだソニックが、今度は町の人々について考えます
ティムと別れたソニック達WattsTowersは隣国ベルギーへ向かった。このベルギーは
「ヨーロッパの十字路」
と呼ばれる国で、首都ブリュッセルにはEUやNATOの本部が置かれている。ソニックは何処か物騒な雰囲気がした。
「そういう機関が置かれていて、且つ永世中立国でもないこの国がいつかのNYみたいに悲劇の舞台にならねーのか・・・?」
という懸念を持つ。更にこの国は南北で経済格差や言語の問題がある。北部はドイツ・オランダ等のゲルマン系、南部はフランスのラテン系、ざっくり言えば
「真面目で堅実な北部はNYのようなモノ、ルーズだが開放的な南部はLAのようなモノ。」
といった所か。だがソニックがそれ以上に感じていた事は
「すんげー黒人の数・・・こんな狭い国なのに、アメリカばりの多人種なんだな。」
と驚く。このヨーロッパで最初に出会ったポルトガルのフラビオの事を思い出す。フラビオは、アフリカ南部のアンゴラから徒歩と泳ぎでポルトガルに辿り着き、黒人のコミュニティの中で暮らしていた。このベルギーでは、元ベルギー唯一の植民地であったコンゴ民主共和国(旧ザイール)からの移民が多かった。アンゴラ同様内戦や政情不安定でフラビオ同様この地に逃げてきたのだが、大きな違いがあった。就労ビザや学生ビザが比較的簡単におり、また、旧ザイール時代に移住してきた者達が親族を呼び寄せる事が出来、国際機関が多くある為に外交官や国際NGOの職員が長期滞在し家族を呼び寄せる等、他所と比べて円滑に移住する事が出来る。これを大明日ポラと呼んでいた。
【ダイアスポラ】
旧植民地のザイールから就労や留学の受け入れを契機に、ベルギーへ移住してくる移民達。他にも他の国、アフリカのモロッコやルワンダ、トルコ、ユダヤ人も多い
多少の差別はあるものの、それはアメリカと対して変わらない程度であった。つまり
「ヨーロッパの中にある小さなアメリカのような国。」
に来ているようだ。
彼らは「マトンゲ」と呼ばれる巨大なコミュニティを形成し、ベルギーに溶け込んでいた。ベルギー国民は彼らと溶け込み暮らしている。
「まるでチョコレートと様々なトッピングで綺麗に彩られたデコレーションケーキのようだ。」
とソニックは感じていた。首都ブリュッセルではマトンゲ達がベルギー国民と熱いチョコレートのように上手く溶け合い、混ざり合い、見事にベルギーという国を皆で作り上げている様を見て
「俺もここの国民みたいな場所を作るんだ。」
とチェコでWattsTowersに話していた事を思い出す。
「俺さ、LAに帰ったら、俺なりの新世界を作ってみようと思ってるんだ。村単位でいいから、ヘイトのないエリア、コミュニティ、そんな場所を作りたい。」
その為にソニックはオランダで風車や海上都市の勉強をしていたのだが、どういう人間がどのような生活をする事までは考えていなかった。このベルギーのブリュッセルの住民達を見て、ソニックは多人種融合の明るい人々が暮らす景色を想像した。
そしてブリュッセルでの初公演、Le Botaniqueでのライブ。何処かLAのハリウッド・ボウルに似たような野外ライブの最後にソニックはオーディエンスに問う。
「お前らはどうしてこんなに仲がいいんだ?どの国も差別ばっかで辟易してたのに、お前らはそれがない。このヨーロッパに来てお前らを見て初めて感じたんだ。つまらない事聞いて悪かったな。」
と。するとオーディエンス達は
「・・・考えたこともねーな。そんなモン。」
と会場が固まってしまう。ソニックは
「くだらねー事聞いて悪かった。続けよう。今日は極上の「Sonic」放つからな!」
と言ってライブを続けた。
ライブ2日目の朝、とある黒人の少年が白人に苛められているのを見たソニック。だが、その苛めている仲には黒人も混ざっていた。ソニックが軽く仲裁すると
「こいつは何をやってもダメな奴なんだ!」
という事だったが、ソニックは
「何をやっても?本当にそうなのか?」
と聞くと、苛めていた少年達は
「勉強も運動もまるでダメ!第一こいつ暗いんだよ!いつも一人でとっとと帰って兄弟達の飯作ってる奴隷みてーな奴さ!」
それを聞いたソニックは
「・・・何だ。あるじゃん。オメーらよお、それを才能って言うんだぞ?オメーらその才能を潰す気か?」
と諭すとソニックはその黒人の少年に
「君、名前は?」
と尋ねると
「ムボ。両親が共働きだから、俺が飯とかお菓子作って食べさせてるんだ。」
と話すと
「へえ、偉いじゃねーか!君、料理好きか?」
と尋ねると
「うん!弟も妹も皆喜んで食べてくれるんだ。でも父さんと母さんは余り喜んでくれない・・・どうしてだろ?」
と逆に質問されると、ソニックは
「そりゃ友達と一緒に遊ばないからだよ。きっとまだ小さい君に料理させてるくらい負担かけてるのを心配してるんじゃないのかな?」
と思った事を口に出す。これはソニックの次男、健勇と重なって見えたからだ。健勇は5人兄弟の中で一番母親の手伝いを率先してやる子で、特にムボのように料理にハマリ、現在は仕事で家を離れているソニックや桜のいない時は兄弟で率先して飯を作る。双子の妹、愛弥も手伝うのだが、肝心な味付けや装いは手を出させない程こだわっている。だが、ソニックも桜も健勇がその為に友達と遊ばない事を危惧していた。ソニックも桜も
「そこまで犠牲にしてまでやってほしくない。」
「世の中一人じゃ生きていけないんだから、ちゃんと友達も作るようにした方がいい。」
と言い聞かせていた。健勇はその両親の教えを汲んで、友達作りも欠かさず行い、将来は
「仲間と料理店を開く。」
という夢に向かって現在邁進しているのである。だからこそムボに友達を作ることの重要性を説いた。そして苛めていた少年達にも
「オメーらムボの事、変な奴だと思ってるだろ?」
と聞くと、一同
「だってこいつ俺達と違って変だもん。皆でサッカーやろうって誘っても来ないし、授業中だって勉強しないで別の事やってるんだぜ?」
ソニックは
「一個いいこと教えてやる。天才って変な奴なんだ。皆と違う事やりたがるから天才なんだ。だけどな、その変な奴にとことん付き合ってやるとオメーらは天才を見つけて生み出したもっと凄い天才になれるんだぞ。今のオメーらは凡人だ。でも、ムボみてーな天才に付き合って育ててみたくねーか?そうすればオメーらは凡人から天才を発掘した英雄って事になる。それって凄い事だぞ。」
と諭すと、今度はエミールに
「君が苛められているのは肌の色じゃねー。つまりお前がどういう奴か。ただそれだけだ。こいつら本当はムボの事もっと知りたいだけなんじゃねーかな?一度こいつらに心開いてみろよ。ムボにとって無敵の仲間になってくれると思うぞ?」
「・・・実を言うと、俺も勉強も運動もからっきしダメだった。でも、WattsTowersって言う最高の友達に心開いたからこうして楽しい人生送れてるんだ。俺に出来ない大きな欠けたモノをそのWattsTowers全員が補ってくれてるんだ。だからもっと心開いてこいつら頼ってみろよ。さっきサッカーやろうって誘ったって言ってたから、ムボと友達になりてーんだよな?オメーら。」
と少年達に尋ねると
「こいつ素直じゃねーんだよ。こいつの親も先生も困り果ててんだよ。」
と少年達は話す。因みにムボの両親は外交官でほとんど家に帰ってこない。多忙な両親の元、親と比べられ、友達と遊ぶ時間も取れずにムボは毎日を送っていた。ソニックはそこで
「じゃあよ?これからムボの家に行ってムボの料理食ってみよーぜ!材料は俺が全部買ってやるからよ。いーだろ?」
とムボに尋ねると、小声で
「うん。いいけど・・・」
と答える。ソニックは少年達に
「オメーらは何食いたいんだ?」
と尋ねると
「俺、ワーテル・ゾーイ!(クリームシチュー)」
「俺、クロケット!(コロッケ)」
「俺、ワッフル!」
「俺、ゲハクトバル!(ミートボール)」
「俺、ショコラケーキ!」
ソニックは
「ケーキ?!ムボ、作れんのか?」
と驚くもあっさり
「出来るよ。全部。」
と返し、翌日にムボの家に集合という事で話はまとまった。
そして2日目のAncienne Belgiqueでのライブが終わると、翌日の夕方にムボの家に昨日の少年達と食材を持って向かう。するとムボが恐るべき速さで包丁捌きを見せ、ケーキ用のクリームをこれまた驚くべきスピードでかき混ぜていく。ソニックも含め皆
「・・・スゲー・・・ムボってこんな凄い奴だったのか?」
と目を丸くし、ムボが
「ケーキは焼き上がりに時間かかるから、先に出来たモノから食べててよ。」
と話し、次々と御馳走が並んでいく。ムボの兄弟達は
「ウチの兄ちゃん凄いんだよ!」
とムボを昨日まで苛めていた少年達に懐き、少年達もムボの兄弟達を可愛がっていた。実は多忙な両親の元で同じように過ごしている兄弟達が気掛かりだったようだ。そして最後のショコラケーキが目の前にドン!と置かれると、少年達は
「・・・これ、食べるの勿体ないくらいスゲーよ。ウチの母ちゃんよりスゲー!」
と見とれながら、ムボがカットしたケーキを皆で食べた。少年達は悔い改め
「ムボ、今まで悪かったよ。今日から俺達がお前のスポンサーになってやる!だから世界一の料理人になれ!」
と応援するのであった。ソニックはムボに
「な!友達作るのなんて案外簡単だろ?こいつらは今ムボに心を開いたんだ。もうこいつらにその扉閉める事はするなよ。今から応援してくれる仲間なんだからさ。」
と言い残し、ソニックは自らの最高の仲間、WattsTowersの元へ帰っていくのであった。
この作品のテーマ、原点に一度帰ってみました




