第76話 天然の城塞
ソニックのスランプをある男が救います
オランダで奇跡を見たソニック達WattsTowersは隣国ルクセンブルグへ直ぐ到着。ここでは1ヶ所だけでの公演となるが、その場所がとんでもない所だった。そこはこのルクセンブルグ最大の城、ブールシャイト城だった。ソニック達WattsTowersは
「ほんとにこんな立派な城でライブやっていいのか?」
と現地に行ってびっくりする。このブールシャイト城は観光地ではあるが、それをライブ会場にするとは思っても見なかった。本当はルクセンブルグの別の場所で野外ライブを予定していたが、ソニック達WattsTowersのこれまでのツアーや、オランダ・ロッテルダムのライブを観に来ていたオーディエンス数名が
「こんな狭い国だから、もっとデカイ所でやったほうがいい。この国は経済的に安定しているし可能だろう。」
と動き出したのだ。更にこのライブには、オーストリア、ムジーク・フェラインのステージをこぎ着けたF・ハプスブルクが絡んでいた。ロッテルダムでの奇跡を耳にした彼は
「ミュージック・ソルジャーに相応しい場所だから。」
と大急ぎでこのブールシャイト城へ話しを持ちかけ、たった半日で交渉が成立したのだが
「・・・これちょっと問題多すぎだぞ?」
とソニック達WattsTowersは懸念を抱いていた。まずチケット代の事。ソニックのライブチケットはとにかく安く捌いているが
「こんな所でやったらチケット代はおろかオーディエンスの交通費も馬鹿にならねーだろ。」
という事。次に
「こんなデカイ場所で音響くのか?照明だって付けづらいぞ。」
ムジーク・フェラインは確かに広くて豪華だったが、音楽用に作られた建物であり、この城とは全く別物である。そして
「ここ山の上だろ?どーやって来るんだよ?大体この狭い国でここまで人来れんのかよ?」
という懸念があった。だが、ルクセンブルグ市民に聞いてみると
「大丈夫。この国は皆ビジネスマンだから金の心配はない。隣の国から通ってる人も多いし人なら集まる。今まで通りで構わないと思うよ。」
と話すと、問題は
「この天然の城塞をいかにステージに転換するか。」
であり、それを
「明日のライブに間に合わせなければいけない。」
という前代未聞の問題を抱えていた。ブールシャイト城の間取りを見ながら全員が考える。何処にステージを建てて、オーディエンスは何処から聴くのか。バックをどうしようか。更に
「きっと今回のオーディエンスはロッテルダムでの俺達を期待している筈だ。だがあんな奇跡は2度と起こらないだろう。あれは意図的に出たモノじゃない。演出もしないで勝手に出てきたモノだ。あれを再現するには今までのやり方じゃダメだ。かと言って失敗は許されない。俺達はミュージック・ソルジャーとして認知され始めている。絶対にここでこけたらいけねーんだ。」
と誰もが思っていた。ソニック達WattsTowersは、この30数年間の音楽活動で初めてプレッシャーを感じていた。銃弾や凶器が飛び交うエデンでも、9・11の惨劇でも、LAのダウンタウンの一件でも、そしてムジーク・フェラインでも怖い物知らずにやって来たのだが、ここに来てまさにこのルクセンブルグ(城塞)という大きな壁が立ちはだかっていた。
そう考えてる内に朝になってしまった。誰も一睡もせずに意見を出しては壁にぶち当たる。そんなことを繰り返している間に朝陽が昇っていた。ライブまであと半日。延期も出来ない。今から5,6時間後にはステージのセットに取りかからなければいけない。そんな時、一人の男が大急ぎでソニック達WattsTowersの元へ息を切らして駆けつけてきた。その人物とはエデンのマスターティムだった。
「間に合ってよかったあ!話は聞いたぞ。お前らこんなスゲーとこでライブやるんだってなあ!」
と喜んでくれてはいるが、ソニックは
「実は壁にぶち当たっててよお。」
とティムに事情を説明すると
「だから鉄治に頼まれてここに来たんだ。お前らが基本的な事を忘れてるんじゃねーかってな。思い出しても見ろよ。お前が初めてエデンのステージに立った時に何て言ったか覚えてるか?」
ソニックは
「もちろん覚えてるよ。一生忘れねーよ。」
と当時自分達が発した言葉を思い返す。
「この音で感じろ。もっとこっちだ。両眼あんだろ?何処見てんだ?オメーら!」
「オメ-らの身体から何か熱いもん湧き上がってくるだろう?解放してみろ、ほら、解放してみろよ!我慢してんじゃねーよ!脱いでもいいんだぞ!」
「そのピンスポに当たっているのはステージにいる俺達じゃねー。俺達の曲聴いてるオメーらだ!」
と振り返っていると、ガービーが
「そーか!それだ!今日のライブは照明なんてなくてもいいんだ!オーディエンスに向けりゃいいんだ!」
ロケットも続き
「俺達ジークフリートに捕らわれすぎてたのかもな。もっと簡単にやりゃいいんだ。」
アニマルも
「よーするに9・11の後にやったライブみてーに建物から顔出す感覚でやればいいんじゃねーか?あん時も建物に囲まれながら壊さねーよーに気をつけてたからな。」
ソニックが
「だんだん見えてきたぞ。やっぱり偶像に捕らわれたらろくななことにならねーな。ロッテルダムのはあれでいいんだ。あれは忘れて俺達は今まで通りでいいんだ。出せる「Sonic」も増えてきたしな。この国はあんま高くねーけど山の上にあるしな。下に向かって「Sonic」放てばいいんだ。イメージ湧いてきたぞ!」
と皆が前向きになっていった。だがティムに
「それを伝える為にわざわざこの国に来てくれたのかよ?電話でも良かったのに。」
とソニックが尋ねると
「ニールもルディもお前らの為に隠居しながらも助けてるのを聞いてな。俺も居ても経ってもいられなくなっちまったんだ。そんな時に鉄治から話聞かされて、もしかしたらと思ってよ。」
ビッグ・ジョーに
「ほんとナイスタイミングだよティム。マジで助かった。あんたがいてくれて本当に良かった。流石エデンの主だな!」
と感謝する。ティムは
「史郎が逝っちまったからな。お前らは俺の息子みてーなもんだよ。だがエデンがあるからな。お前らのライブを見届けたら帰らせてもらうよ。」
と言いながらこの国でWattsTowersの補佐をしてくれると動き出し、ゴッグ達と先にブールシャイト城へ向かうティム。この城の配置を確認しながら適切な指示を送る。まさに半世紀続いた百戦錬磨のエデンのマスターに従い、あっという間にステージが完成した。ティムは
「お前らのライブはいつだって失敗は許されなかったんだろう?だがこの国のライブでお前らに銃や凶器を投げ付ける奴らはいねー。ドラッグをやる奴もいねーだろ。俺は未だに断言している。あのエデンの地獄に耐え抜いたお前らにどんな敵も敵うわけがねーってな!」
いつもLAで自分達のライブを近くで散々見ているティムの言葉は、ソニック達WattsTowersにとって何万人の味方を引き入れた事と同じ効果をもたらした。
ブールシャイト城に集まったブルジョワの匂いが漂うオーディエンス達が、ステージに立ったソニックに向かって
「俺達にもジークフリートを魅せてくれ!」
と叫ぶとソニックが
「誰だそれ?ジジイの昔話なんざ知るか!俺達はSonic Los Angeles!この現代に存在する新しい戦士ミュージック・ソルジャーだ!」
と言い放ち、挨拶代わりの「Jet」をギターで思いっきり放つ。
《ギャイーン!斬!ビューン!キーーーーーーーン!》
けたたましい「Jet」のソニックブームを一閃すると、場内が静まりかえる。そして特大の「Volt」を至る所に
《ビカッ!ズドーン!ギュドーン!》
《バリッ!バキボキバキボキ!》
《ズドーン!バゴーン!》
と連発すると、ブールシャイト城に集まったオーディエンス達が騒ぎ出す
「何なんだ?今のは?」
これを一番遠くで聴いていたF・ハプスブルクが
「それが新しい勇者の力、「Sonic」だ!そいつらが現代のジークフリート、いや、それ以上の存在になる男達だ!しっかり堪能しろ!そいつが今世紀のミュージック・ソルジャーなんだからな!」
とオーディエンス達を煽るともうソニックは止まらなかった。ティムは
「それでいいんだよ。オメーは!ったく世話の焼ける勇者だぜ。」
と呟きながら照明を客席に当てる。この時ティムも病魔に侵されていた。どうやらこの勇者の最後の勇姿を手伝うことが最後の使命だとこの地にやって来たのだ。
こうしてブールシャイト城でのライブが終わった。オーディエンス達は
「あれが「Sonic」かあ。スゲー事する奴がこの時代にいたとはなあ。」
「ジークフリート見るよりあいつを見てた方が満足だったよ。」
「紛れもなく今世紀のミュージック・ソルジャーだ!あいつなら世界を変えられる気がする。」
と言って帰って行った。この国でもソニックはミュージック・ソルジャーとして認められた。
そしてソニック達WattsTowersはLAからはるばるやって来たティムに礼を述べ、ティムはLAに帰って行った。その僅か1週間後、ティムは病気でこの世を去ったという。ソニックの恩人がまたこの世から去って行った。これがティムと過ごした最後の時間だったという事は誰も気付かないまま前へ進んだのだった。
何処かで城みたいな場所でやりたかったのでルクセンブルグを選びました




