第75話 未来の勇者へ
オランダ編後編です
次のアイントホーフェンのライブも大盛況に終わり、ソニック達Watts Towersはロッテルダムへ向かう。道すがらで風車がずらっと並び回り続けている。オランダは国土が狭いので程なくロッテルダムのユーロ・ポートに到着したソニック達Watts Towersに来訪者がやって来る。ルートが紹介してくれたクラレンスだった。クラレンスは南米スリナム系でルートの親友でもあった。クラレンスは大のガバ(ロッテルダムテクノ)好きで
「ルートから聞いてるよ。キンデルダイクの風車に行くんだろ?ここからは俺が案内するよ。」
と一緒に大型トレーラーのスタジオ車に乗せると、そこにたまたま置かれてあったガバのCDを手に取り
「あー!これ、俺がずーっと欲しかった奴!全然手に入らなくてよ!」
とテンションを上げるクラレンスにソニックは
「それなら上げるよ。御礼だ。」
とクラレンスにCDを渡すと
「マジで?!ありがとー!お前いい奴だな。」
とハイテンションに喜ぶと
「キンデルダイクの風車の事なら何でも知っている。俺は黒人だが生まれはキンデルダイクだからな。ガキの頃からあの風車を見ながら育ってるし何でも知ってるよ。だから何でも聞いてくれ。」
と張り切っていた。
運河に沿ってキンデルダイクの風車群に着いたソニック達Watts Towersは、先のザーンセ・スハンスの風車とはまた違った役割を見て驚く。偏西風の風で風車がゆっくりと回り、目の前のアルブラッサーワールト(干拓地、低地)を風車の風で乾燥させ干ばつを防ぎ、内部では水車が海水を汲み上げ、隣のレック川へ排水する。これを18世紀から延々と繰り返してロッテルダムというオランダ第2の都市を支えている。現在では電動の排水ポンプが主流だが、クラレンスは
「・・・ここの風車はどの国の戦争にも負けず、こうして1日も休まずゆっくり静かに回り続けて今でもこの街を守ってきたんだ。少なくともこの風車は俺の誇りだ。」
と急に真面目になって説明した。この言葉を聞いてソニックはベンやユライを思い出す。彼らは「Sonic」を派手に人前で使わず、ただ自分の居場所を、自分達の景色を守るために使ってきた。この風車の羽根が、彼らや自らが発する「Sonic」と妙に通じ合ったのだ。動きも勢いも全く違う風車が回す心地よい風と、Sonic使いが激しく放つ「Sonic」は共に全身で風や大気を操り成立する。ソニックがこのオランダにある風車に惹かれたのはその為なのだろう。クラレンスは
「今日もライブやるんだろ?俺も行っていいか?」
と尋ねると
「もちろんそのつもりだ!お前には特等席用意してやる!何処でも好きなところで聴いてくれよ!」
と言ってフリーパスを手渡した。ソニックにとっては滅多にない事だ。
そして夜になり、ロッテルダムでのライブが始まる今日はザイデル・パークでの野外ライブである。だがソニックは
「あの風車の回転を邪魔したくない。」
とキンデルダイクの風車を背にして演奏した。その音色はまるで風車の内部で役割をこなして絡み合っているギアのように一定のリズムで鳴り響いた。ソニックはこの地で熊襲太鼓を出さなかった。出したくなかった。その理由は
「この国を長年支え続けてきた風車のリズムを壊したくない。」
という決断だった。だが、クラレンス達オーディエンスはソニックの演奏を聴きながら
「・・・ドン・キホーテじゃねーか!」
と騒いでいた。ソニックは決して風車に戦いを挑まず、むしろ敬意を称して風車に背を向けて演奏していたのだが、遅れてきたアムステルダムのルートも交えたオーディエンス達には
「やっぱりお前はドン・キホーテだ!相手は風車じゃねー!この腐った世の中に戦いを挑んでいるミュージック・ソルジャーだ!ガンガン「Sonic」よこせ!俺達もこの地でお前と一緒に戦ってやる!」
と朝まで風車を背に「Jet」や「Volt」をかき鳴らし続けていた。ソニックにとってこのヨーロッパに来て最高のライブが終わろうとしていたその時、キンデルダイクの風車群から
《ボオッ!ゴオッ!》
と音が鳴り響く。この音は熊襲太鼓と全く同じ叫びであった。だが今日のライブで熊襲太鼓は施錠したスタジオ車に閉まってあったが、突然意思を持ち、熊襲太鼓がコンテナをぶち破り、ステージに転がってくる。あの9・11の惨劇の時と同じ形相で現れた熊襲太鼓にソニックは
(おい。今日は止めてくれよ。この風車を破壊したくねーんだ。)
と心の中で問いかけると、熊襲太鼓は
(あの中に俺の同志が宿っている。それに応えたいから叩け。あの時のそうだったろう?全身全霊で叩け。俺の国とは別の何かであるが、同じ同志であることは確かだ。心配するな。此奴らやこの景色を破壊したりはしない。むしろその逆だ。)
ソニックは疑問に思い
(どーいう事だよ?ここには怪我人も不幸な奴もいないぞ?)
と尋ねるが、熊襲太鼓が
(俺は神じゃない。俺もただの楽器だということを忘れてないか?本来楽器は何の為にある?それは今お前がステージでやってることそのままだろう?)
と問いかけると、ソニックはルートやクラレンスを含めたオーディエンス達に確認する。
「この太鼓、熊襲太鼓って言って、日本に古くから伝わる、俺らミュージシャンからしたら別名ドラム殺しって呼ばれてんだよ。でも今、この熊襲太鼓があの風車の中に仲間が宿ってるって聞かなくてよ?叩いてもいいか?」
と尋ねると
「叩いて見せろよ!きっととんでもない何かが出て来るかもしれねー!」
と皆が賛同し、熊襲太鼓を叩き演奏を続けていくと、
《ボオッ!ゴオッ!》
という音がキンデルダイクの風車群の辺りから響き渡り、熊襲太鼓と殆ど同じような獣の叫び声に呼応し、夜明けの空に黄金のドラゴンに乗った謎の人物が剣を持ってあのキンデルダイクの風車群から上昇して出て来る。因みにWatts Towersは今回のライブでそのような演出は一切していない。するとクラレンスが
「・・・マジかよ?あれ、ジークフリートだ!」
と騒然となる。ソニックは
「ジークフリートってあの竜殺しの?・・・確か不死身の身体で背中が弱点で死んだ筈・・・」
「・・・そうか!だからドラム殺しの熊襲と通じ合ってたのか?!確かに同志だ。やっぱり風車に背中向けて正解だったな。」
ソニックが熊襲太鼓を力強く叩きビートを刻んでいると、黄金のドラゴンに乗ったジークフリートが、名剣グラムを空に突き立て何やら文字を書いている。それはオランダ語で
「Aan de held van de toekomst, veel succes!」
(未来の英雄へ、たくさんの成功と幸運を!)
「Veel succes aan de toekomstige held!」
(未来の勇者に幸あれ!健闘を祈る!)
「Zet 'm op, toekomstige held!」
(がんばれ、未来の勇者!)
と明け方の空に名剣グラムでこのメッセージを刻み、黄金のドラゴンに乗ったジークフリートはキンデルダイクの風車群へ消えていった。これを見たソニックは手が止まり、涙を流した。それはWatts Towersも、その場にいたルートやクラレンスを含めたオーディエンス達も同じだった。明けの空へ消えていったかつての勇者からのエールにその場にいた全員が涙した。だが熊襲太鼓だけは
(おい!ぼさっとしてんな!お前がこのメッセージに応えないでどうする!)
と喝を入れられたソニックはハッとし、熊襲太鼓で渾身の「Jet」「Volt」「Burst」「Magnet」「Combat」「Drift」を立て続けにお見舞いすると、ジークフリートの偶像に捕らわれて空を見上げていた全員が我に返りソニックに振り返る。そして
「・・・未来の勇者ってあんたの事か?」
と尋ねるがソニックはあっさり
「俺も含めた俺達とお前ら全員だ!ジークフリートに負けねーで俺らも戦うぞ!」
と再び演奏した。
そしてライブが終わると、ソニックを含めたこのライブに参加した全員が理由もない謎の涙を流しては止まらなかった。ソニックはステージに降りる前
「・・・こんな事は初めてだ。エデンでも、9・11の惨劇でも、こないだのプレジデントの一件でも、このヨーロッパに来てからも・・・俺が音楽を始めて、「Sonic」という謎の力を持ってもう30年以上も経ったけど、こんな事は初めてだ。皆、マジで有り難うな!俺は、俺達は頑張るよ!お前らもこれから頑張って行こうよ!」
ソニックの口から「頑張ろう」だけでなく「一緒に頑張って行こう」というニュアンスで言葉を発せられたオーディエンス達は泣きながら
「ああ!頑張るよ!何を頑張ればいいかわからねーけど頑張るよ!」
と言って解散した。
数時間後、このことをLAにいる桜や菜月に連絡すると
「本当にそんな凄かったの?でもあなたならいつかはやると思ってたわ。でも観たかったな。そんな素晴らしい景色なんて・・・」
「いいなー!兄ちゃん。本当に何かに守られてるんじゃないの?」
と菜月が話すとソニックは
「そりゃ菜っちゃんの父ちゃんと母ちゃんだよ。」
と話すと
「絶対違うよ!だってあたし日本人だもん!」
と返されてしまう。ソニックはこのロッテルダムのステージで涙を流しながらしばらく立ち尽くしたまま動けなかった。散々神や偶像を否定し続けていたソニックにとって忘れられない日となっていった。
風車の話を書きたくて長くなりました。この話にRELIVEを付けなかったのは、このライブの参加者が始めから全員味方だからです




