第74話 迷路の街
ソニックがこのヨーロッパで一番興味があった国へ訪れます。その前編です
再びオーレンス・ブリッジを戻り、デンマーク、ドイツを経由し、オランダへ向かうソニック達Watts Towersの大型トレーラー群が通り過ぎると、沿道から
「お前らやっぱスゲーよ!」
「この調子で音楽で戦ってくれ!」
「頼むぞ!ミュージック・ソルジャー!ソニック!」
と声援が送られた。
ドイツから国境を越えてオランダに入ったソニックはWatts Towers達に
「実はよ、ここ俺が一番行きたかった国なんだよな。自分達で海の上に領土作るなんて考えられたかよ?」
ソニックはチェコで新世界、新しい村を作ると決めてから、特に気になっていたのがこのオランダである。面積の3分の1が人工、つまり埋め立てて作った海上都市なのである。また、9・11の舞台、マンハッタン島はこのオランダからアメリカが購入したものでもあった。過去に世界中で植民地を奪い合っていた欧米諸国の中でも、このオランダは何故か他所の国とは違った匂いをしていた。
現在のインドネシア、昔はこのオランダ領で、「オランダ領東インド会社」と呼ばれ、スパイスや香辛料をヨーロッパへ輸送し貿易していた。稀に南アフリカのアパルトヘイトの発端となったアフリカーンス達等腐った連中もいるが、スリナム、キュラソー、日本の長崎等、オランダと結びつき、このオランダに帰化し現地に住んだり、長崎のように良好な商売相手となったりとソニックはこのオランダという国に興味津々であった。そして何よりオランダの風車は、この海上都市で様々な役割を果たし、独立から長い間、このオランダの象徴となっており、後々この風車がソニック達Watts Towersの重要な基礎となっていく。
ソニック達Watts Towersは、早い段階からこのオランダでは長めの滞在を予定していた。この風車と、迷路のように入り組んだ街をじっくり勉強するためである。
大型トレーラーから降り、ハーレマーメール(基礎自治団体)のスタッフで、カリブ海にあるキュラソー島出身のオランダ人、ルートという人物に案内されながらアムステルダムの街を歩いていると、運河にハウスボートという小さな船で移動する人々を見て
「へえ、俺達の街じゃ見られねー発想だなあ。ヴェネチアは行きそびれたからなあ。」
と感心するソニック。街のあちらこちらは水で囲まれており、まるで迷路の街に迷い込んだかの如くこの国の魅力に惹かれてしまったソニックは
「この街を上から見てみたい。何処か高い塔か山とかないかな?」
とルートに尋ねると
「この国は高いところって言ってもせいぜい国境沿いのファーゼルベルクの322.7mくらいの山しかないよ。それにこの国は海上都市だから地盤が緩くて高層ビルが安易に建てられない。上から見たいってんなら短時間で良ければヘリコプター出せるけど行くか?」
と説明すると、ソニックが
「322.7m?!・・・マジかよ?長い坂みてーなもんじゃねーか!」
とびっくりする。ソニック達Watts Towersはいつもアメリカでのツアーでロッキー山脈やアパラチア山脈を大型トレーラーで当たり前のように越えて移動している。LAに至っては高層ビルだらけの景色に見慣れている。ソニックはこれまで見てきた風景や価値観が丸ごとひっくり返されたような感覚で、ルートに
「ヘリに乗せてもらってもいいか?」
と頼むと
「OK。あんたの頼みなら直ぐ出せるよ。今連絡する。」
とあっさり承諾した。ソニックは久し振りにいい意味でわくわくが止まらなかった。
午後になり、Watts Towers達の半分はこのアムステルダムでのライブの準備に取りかかる中、ソニックはジャッキー、イミダス、ドクターと、マック、サージェント、ランボー、ボスの2班に分かれてヘリコプターに乗り、上空からアムステルダムの街並みを上空から眺める。ソニックは
「・・・すっげー!マジで迷路みてーだ!」
と身を乗り出そうとすると、ルートに
「危ないからあんまり固まらないでくれ。ヘリが傾く。」
と注意される。横で見ていたジャッキーが
「・・・ソニックがこんなに興奮して眼を輝かせたのはスゲー久し振りだな。」
と呟く。同乗していたイミダスとドクターも
「でもほんとスゲーよこの街も、この国も。この景色を500年以上前に作って維持してたって事だろ?」
「確かにこの国も植民地争いや世界大戦にに参加してたけどよ?自分達で土地作って狭い領土広げたなんて考えられたかよ?!どの国も他所の土地を奪い合う事しか考えられなかったってのによ?!」
ソニックは同乗していた3人とルートに
「だから俺はこの国にずっと来たかったんだ。俺達の発想にない何かがまだまだありそーでよ。ルート。今日のライブ終わったら、今度は風車について勉強させてくれよ。」
と頼むとルートは
「ああ。LAにいる鉄治から全部聞いてるよ。任せといてくれ。」
と快く承諾してくれた。ヘリコプターから降りると今度は、アンネ・フランクが隠れていた場所にある博物館に入った。ここに日本から連れてきた当時小学生の菜月くらいの女の子達の一家がナチスから逃れ、隠れていた事を思う。このオランダも戦火に包まれながらもこうして持ち直しており、ここに来る前にソニック達Watts Towersが各国で出会った人々の事を思い返す。
(あいつら、今頃大丈夫かなあ・・・)
ソニックはLAに向かったワリドやルカ、エルトンとルーマニアのチャウチェスクの孤児達を心配する。
アムステルダムでのライブ初日は大盛況を迎え、翌日の午前中、ザーンセ・スハンスの風車を見学に行ったソニック達Watts Towersはここでルートからここの風車の役割を説明される。内部では石臼で小麦やライ麦を製粉したり、菜種油を絞り絵の具を作ったり、木材を切断しウィンチで運んだり、表から見ればただ風車の羽根がゆっくり回っているだけにしか見えなかったが、その多種多様な用途と、剥き出しの歯車がゴトゴトと回り様々な仕事をこなしていく様はまるで、今までWatts Towersと共に歩んできた自分の人生がその風車の内部にある歯車1つ1つの動きと見事に重なった様に感じ取られた。ギアのリズムがいつもセッションしているWatts Towers達の動きに見て取れた。
そして表に広がるチューリップ畑。このオランダは海上に土地を埋め立てて作ったため作物が育たないが、チューリップの様な球根からなら栽培が可能で、他の作物も成長ホルモンを作物に注入して育て、その作物をこの国の人々は食べて育っているため、オランダ人は皆背が高い。ソニックは
「スゲー発想と知恵だな。奪い合うんじゃなくてそこにいる自分達でいろいろ考えて実行しているとこなんて俺らそっくりだな。それも日本じゃ戦国時代辺りから、アメリカなんて存在しなかった時代からやってたんだろ?スゲー。凄すぎるよオランダ!」
と感心しっぱなしであった。おかげでアムステルダムでのライブ2日目はステージ上でぼーっとして珍しくミスってしまい
「何やってんだ!オメーらしくねーぞ!」
と周りのWatts Towersに怒られる始末。それ程大きな影響を受けていた。
ライブ終了後、チケットを渡しライブに来てくれたルートに
「次はロッテルダムだろ?俺の親友にクラレンスって奴がいて、お前らの事頼んであるからな。ここの風車もスゲーけど、キンデルダイクの風車もこことは違ったモンが見られるぞ。」
と言ってがっちり握手を交わし
「ありがとーな!ルート!お前のおかげで最高の2日間だったよ!」
ソニックはこのヨーロッパに来て初めて人に感謝した瞬間だった。
このオランダ編はかなり作り込んで時間がかかりました。




