第71話 人魚姫の涙
ソニックがまたも現地の政策と向き合っていきます
ドイツをあとにしたソニック達WattsTowersは、隣国デンマークへ入った。デンマークといえば福祉国家で、税金が高いという印象を持っていたソニック。この国ではコペンハーゲン、オーフス、オーデンセでの公演を予定しているが、チケット代にも税金が課せられ、限界まで値引きしたのだったが・・・
オーフス、オーデンセでの公演を終え、首都コペンハーゲンでキャンプを張り、食事を摂っていると、車椅子の若い女性を押している男性が、物欲しそうに眺めていた。誰かが
「やるな。たかられるぞ。」
と口にすると、男性が車椅子の女性と一緒に通行中のスーツ姿の男達と衝突。男性が直ぐさま起き上がるが、スーツ姿の男達が
「何処見て歩いてんだテメーら!」
とチンピラのような台詞を吐き2人ともリンチにかける。流石に見てられないソニック達WattsTowersは仲裁に入り、2人共助けたのだが、理由を尋ねると
「こいつは移民のくせにこんな真っ昼間から働かねーからだ!こんな役立たず2人面倒見るほどここは豊かじゃねーんだよ!」
と言い放つ。ソニックは
「男の方はまだしも、女の人は見てもわかるだろ?オメーら障がい者まで迫害すんのか?」
と言い返すと
「だったら何だ!そいつのおかげで俺達はクソ高い税金払わされてんだ!どーせこいつガキも産めねーんだろ?」
と言い放つ。ソニックがまた反論しようとすると、車椅子の女性が
「・・・本当の事です。ここからいなくなるから許してください。」
と言いながら、自分の車椅子に何とか自力で乗っかり、ガタガタに壊れた車椅子を自走しながらリンチされていた男性に声をかけ、よろよろになりながら走り去っていった。その時、女性は静かに涙を流していたのを見てしまったソニックは。
「おい!いくらなんでもやり過ぎだろ?」
と男達に言い返すと、彼らは
「いいんだよ!国の政策だからな!」
と反省の色が無い。釈然としないままソニック達WattsTowersはコペンハーゲンでの初日を終える。
翌日、同じ場所で休憩を取っていたソニック達WattsTowersに、昨日の2人組が尋ねてきて礼を述べられる。男性の方はセルゲイ。ウクライナからここデンマークに来て介護福祉士として働いている青年であった。女性の方はアルマ。生まれつき両脚が不自由で、国の政策で不妊治療をさせられたと話す。
セルゲイは3年前、ウクライナの戦争から仲間と共にここデンマークに逃れてきたが、ゲットー(並行社会)政策で同胞と強制的に離ればなれにされ、居住区を取り壊された挙げ句、一緒に逃げてきた仲間達と会うことも許されない状況だと話す。
一方デンマーク生まれのアルマは産まれたばかりの頃、脳性麻痺にかかり、未だに立って歩けない身体だと話し、当時の国の政策で15歳の時に強制的に不妊治療をさせられたと話す。そんなアルマと2年前に出会ったセルゲイは、アルマを介護、リハビリをする仕事に就きながら、互いに愛し合い、金が貯まり次第結婚すると話す。
そして、そんな2人には夢があった。アルマはパラリンピック車椅子陸上女子100mの選手であり、デンマーク代表候補でもあった。セルゲイはそのコーチも兼ねており、2人は
「パラリンピックに出場して金メダルを取る。」
事を目標に2人で頑張ってきた。だが、セルゲイの稼ぎでは養えず、アルマの障がい年金とリハビリ手当てで何とか食いつないでいる状況だった。セルゲイは移民のため、ゲットーと呼ばれるこの国の政策により、迫害を受けているという。
【並行社会政策】
通称ゲットー。非西欧系移民の居住割合や失業率・犯罪率が高い公営住宅地区を指定し、社会統合や居住者の強制移転・住宅の建て替えなどを進める厳格な移民対策
セルゲイは正にこのゲットーの被害者なのだが、ソニック達WattsTowersは、東側諸国でまざまざと見せられてきた移民に対する迫害。ポルトガルやギリシャ、ルーマニア、イタリア等、何処も移民に対して差別しており、また、スイスのように移民に優遇し自国民に兵役を課す場所も見てきた。つい最近では自分達もネオナチに同じ事をされた。他国でコミュニティを作るということは、犯罪者を生み出すという考えに行き着き、ソニック達WattsTowersはその現実を見せられ続けていた。だが、ソニックはアルマの話を聞き
「・・・それって国の許しを得たレイプじゃねーのか?」
と考える。今のアルマはまるで足の無い人魚。その人魚の涙がとても悲しく感じた。それはセルゲイも同じで、アルマの涙と夢に惹かれ、全てを受け入れて結婚しようとしていた。ソニックは
「どっちにせよこの国じゃ厳しいと思うぞ。ポーランドで俺達が出会った連中みてーにイギリスに逃げればいいんじゃねーか?なんかウクライナ移民を受け入れる制度があるって聞いたぞ?」
だがセルゲイは
「ホームズ・フォー・ウクライナだろ?見事に断られたよ。単身じゃ難しくてね。」
と寂しそうに話す。だがアルマは
「とにかく次の選考会でパラリンピック行きが決まれば2人でこの国から出られるの。子供を産むことが許されないあたしにはそれしかないのよ!」
と泣きながら話す。同じく義足のエースが
「まあまあ。俺も片脚ねーからよ。そー興奮すんなよ。おれもこのソニックも片方眼がねーだろ?それでもやっていけるからよ。とにかく夢があるんなら頑張れよ。」
と励ます。ソニックは
「もしパラリンピック行きが決まったら何処に行くつもりだよ?」
と尋ねると、セルゲイが
「次はアメリカのロス・アンゼルスだから、そこでやり直そうと・・・」
と話を聞いたソニック達WattsTowersは
「何だよ!俺達の地元じゃねーか!なら話は早い。ぜってー選考会頑張れ!LAに行けば俺達の頼もしい仲間が大勢いる。お前らの事皆に話しておくからよ。とにかくパラリンピックでLA行ったら、あとは俺達と向こうの仲間達で何とかしてやるよ。俺の仲間は皆いい奴ばっかだからさ。その後の生活も面倒見てやるよ。」
と2人に提案する。すると2人は
「本当にいいのか?」
と尋ねると、ソニックは
「ただし、ちゃんとパラリンピック出るんだぞ。その為に選考会で1位取れよ。人生賭けてな。お前ら2人で道を切り開くんだ。応援すっからよ。」
と名刺を渡し、2人を帰した。選考会は今から1ヶ月後。ソニック達WattsTowersがヨーロッパを去る頃になる。エースが
「オメーにしちゃ随分突き放してたな。あいつら大丈夫か?」
と聞くと、ソニックが
「あいつらは今までの奴らとは違うだろ。夢持ってんだからな。けどな、夢叶えるのは簡単じゃねーことは俺らもわかってるだろ?あいつらの眼見たかよ?ついさっきまで絶望の眼差しから希望の眼差しに変わってたぞ?あれでいいんだ。人生賭けた奴は強い。あいつらならぜってー自力でLAに来るよ。俺は信じてる。」
と言ってライブの準備をする。
そして夜になり、コペンハーゲンでのライブへ行く道中、ランゲニエ埠頭にある人魚姫の像を見つめるソニック。至る所に落書きがされ、見るも無惨な姿が車椅子を蹴飛ばされたアルマと妙に重なった。
ライブ会場であるVEGAのステージに上がるソニック。今日はギターからのスタート。演奏を始める前に客席一帯の足下に小刻みにギターで「Jet」をかましていく。ソニックはマイクを握りしめ
「俺の「Sonic」は熊の首刎ねることも出来る。建物や小さな山くらい真っ二つにすることも出来る!オメーらの両脚もそーしてやろーか?夢を持った車椅子の女の子、移民に恋する人魚姫の化身みてーな女の子蹴っ飛ばしてタダで済むと思うなよテメーら!福祉国家が聞いて呆れんだよ!」
とドスの利いたシャウトで演奏を始める。オーディエンスの中に当事者はいなかったが、その言葉にグサリと突き刺さる者達が大勢いたのを確認した。顔が青ざめていくのが「Volt」に照らされわかったからである。彼らは泣きながら
「俺達が悪かった。高い税金取られて苛立ってたんだ。」
とアリーナで話すオーディエンスに
「だったらオメーらがこの国変えて見せろ。1人でなんか変わりゃしねー。だからコミュニティが必要なんだ!オメーら!やれるよな?」
と静かに尋ねると、オーディエンス達は呼応した。
「時間はかかるけどやってやるよ!今に見てろよ!Sonic Los Angeles!オメーのいるアメリカがひっくり返る事してやんよ!」
と気合いの入った返答が大勢から返ってきた。それを見たソニックは
「やっぱオメーら最高だ!流石バイキングの国だな!気合いが違うぜ!」
と言ってライブを締めくくった。
こうしてデンマークでの公演も無事に終わり、オーレスン・ブリッジから次の国、スウェーデンへ向かったソニック達WattsTowers。
「確かに荒っぽいけどよ。嫌いになれねーんだよな。」
とボソッと言って大型トレーラーに乗り去って行った。
まだ先の話だが、ソニック達WattsTowersがヨーロッパを去る直前、セルゲイからソニックに電話が入る。アルマが選考会で見事パラリンピックの出場権を獲得し、デンマーク代表として車椅子陸上女子100mにエントリーが完了したと話す。ソニックが
「俺らも帰るから一緒に行くか?」
と尋ねると
「いや、俺達2人であとから行くよ。LAに着いたらその時は・・・」
と話すセルゲイに
「わかってるよ。俺の家族に医者やってるのがいるからよ。お前介護福祉士なんだろ?そこで働けるように話通しておくからよ。心配すんな。それよりアルマに金メダル取らせろよ。俺らの家族と仲間こぞって応援に行くからな!」
と2人を励ました。
ソニック達がアメリカへ帰国するのはまだ大分先になります




