第70話 冷たい風に揺れる鉤十字の旗
東西冷戦の舞台、ベルリンでソニック達WattsTowersが戦います
プラハをあとにしたソニック達WattsTowersは、隣国ドイツへ向かった。ここではベルリン、ハンブルグ、バイエルンでの公演が予定されている。
「よーやく西側に専念出来るな。」
と安堵するソニック達WattsTowers。最初の地、ベルリンで事件が起こる。鉤十字のマークが付いた旗を持った数名の男達が、会場であるヴェロドロームにバイクに乗って現れ、ビッグ・ジョーを始めとした黒人のスタッフに因縁を付け、邪魔をする。このヨーロッパツアー前にジャーマンに聞かされていた
「東ドイツに気をつけろ。ネオナチが幅を利かせている。」
【ネオナチ】
第2次世界戦後もアドルフ・ヒトラーやナチス・ドイツを支持する残党。ユダヤ人やイスラム人、果ては黒人やソニックのような黄色人種までも差別するヨーロッパの白人至上主義者。アメリカ国防省までもテロ認定している筋金入りの武装集団である。
ビッグ・ジョーは
「何だ。いつものアレか?」
と特に相手にしないものの、いちいち
「ここはテメーらが来ていい場所じゃねーんだよ!」
と作業を妨害する。だが、ここに2人の男達が現れて彼らを退散させた。インターポールの達斗と、国際弁護士のウィルである。作業をしていたハウンド・ドッグが
「よお、ウィル。つい昨日までお前の親父さんにあったぞ。元気そうじゃねーか。」
と話す。ウィルは
「まあ、ウチの親父は働き過ぎでしたから。それよりさっきの奴らネオナチでしょ?この国も移民受け入れに賛成してるし、他所の国よりかは上手くいってるんですけどね。どーしても奴らが引っ掻き回しに来るんですよ。」
エースが
「いつもの白人至上主義者だろ?いちいち相手にしねーから大丈夫だよ。」
と話すが、達斗が
「どーやらそれだけじゃないんですよ。今ロシアとウクライナで戦争やってるじゃないですか。ロシア側がウクライナをネオナチ扱いしてるんです。更にこのドイツのエネルギー供給はロシア頼みでしょう?今ドイツはその板挟みになってるんです。だからこうしてウィルと残党退治にここに来てるって訳です。」
それを聞いたゴッグは
「久しぶりにアレ使うか。」
とゼロヨンに連絡を取り、持ってきてもらったのは発電機。その昔、ソニックがまだ駆け出しの頃、路上ライブで皆で組み立て使用していた物である。
「これでライブ中の電力は問題ねーだろ。」
次いでチケットを売っていたアルに連絡し
「このステージの1回をネオナチの檻にする。奴らにチケット売りさばけるか?」
と依頼し、達斗に
「応援呼べるか?このライブで奴ら一掃してやるよ。」
と協力を要請する。達斗は
「ええ。ドイツは今じゃ奴らをどーにかしたくてたまんねーから、地元警察や政府に掛け合ってみますよ。」
と伝え、足早に去って行った。
この顛末を訊いたソニックは
「どーやらこの街で成す事は決まったみてーだな。その日のライブはAttacking Sonic主体でやるぞ。せっかく平和になったこの国を掃除しよーじゃねーか。」
と話はまとまった。
翌日、達斗とウィルがソニック達WattsTowersの張るキャンプにやって来た。
「地元警察と軍隊の要請完了しました。直ぐにでも動けますよ。インターポールの応援も直に来ます。それより兄貴。俺達も久々に聴きに行っていいですか?」
ただでさえ忙しい達斗とウィルはソニックの演奏を実に20年ほども聴いていない。ソニックはあっさり
「当たり前だよ。あ、でもお前任務中だからな。後ろで聴いてろよ。」
と2人にチケットを渡した。更に達斗は1枚の写真を取りだし、ソニックに見せた。
「これ、ウチの奥さんと子供なんです。結婚したはいいんですけど、中々家に帰れなくてね。」
達斗はLAでの一件後、黒人女性と結婚し、男の子を設けていた。ソニックは
「そんならその子にお前の勇姿を見せればいいんじゃねーか?男ならほっといても勝手に育つよ。その内父ちゃんかっこいい!って言われるくらいにさ。ウチの誠剛もイタリアで会ったけど、知らない間に立派に育ってたよ。」
とアドバイスする。そんな時、その誠剛がキャンプ地にやって来る。
「あれ?お前イタリアじゃなかったのか?」
誠剛は
「今度はポルシェとアウディの見学だよ。心配しなくても、イタリアの工場はフル稼働してるよ。」
と話すと達斗が
「へえ、誠剛もこんなに大きくなったのか!今何やってんだ?」
と誠剛に尋ねると
「向こうで大学通いながらベンチャー立ち上げてます。株もやってるし、楽しく生きてますよ。」
と報告する。感心した達斗だったが、ソニックに
「あの、菜月ちゃんは元気ですか?アカデミー賞取ったのは小耳に挟んだんですが。」
因みに菜月は達斗との絡みがきっかけでアクション女優になった。
「うん。なんか今向こうで「Mother」って呼ばれてて、LAの孤児を引き取りながら、悪党を退治してるらしい。でもなあ、菜っちゃんあんな美女になったのに結婚してねーのが気掛かりでよ。お前の知り合いでいい男いねーか?」
と達斗に頼むが
「俺の仲間って言ったらみんな危ねー仕事就いてる連中ばっかだからお勧めは出来ないですね。すいません。」
と断られる。誠剛からも
「姉ちゃんは親父が怖いから男寄って来ねーんだよ。姉ちゃんに彼氏出来たら会いたいと思うだろ?皆そこのハードルが既に高いんだよ。」
と釘を刺された。達斗が
「誠剛も頼もしくなったなあ。ちゃんと父ちゃんに意見言えるじゃねーか。」
と感心するも
「他の姉ちゃん達が言ってただけです。」
と話し、WattsTowers達も
「そりゃそうだ。よく言ったな誠剛。」
と笑いに包まれる。
一方、ヴェロドロームの前にはバイクがたむろしており、コブラたちが
「こっちの暴走族か?ダセー真似しやがって。」
と呆れている。今から数時間後、このヴェロドロームは、WattsTowersとネオナチの戦場と化す。
夜になり、ヴェロドロームは鉤十字のマークを持った連中で埋め尽くされていた。後ろや横には達斗達インターポールや地元警察が私服に着替え紛れている。会場の外ではドイツ軍兵士がぐるりと囲んでいる。今日ここでネオナチとの決着を付けると覚悟を決めていたソニック達WattsTowers。舞台袖にはウィルと誠剛がいる。誠剛は発電機の係を買って出ていた。
「俺も男だから俺なりに戦う。」
と聞かず、ソニックは
「じゃあ舞台袖で発電機操ってろ。危ねーと思ったら逃げていいからな。」
とだけ忠告する。
そしてソニックが既にドラムスティックを腰から抜いたまま、走ってステージに上がろうとするが
「ははははは!黄色い猿が猿回しでもするつも・・・・
とオーディエンス達が嘲笑している間に必殺の熊襲太鼓を勢いよく叩く。
《カッ!ズドーン!ビカッ!バリッ!ギャオーン!》
この特大「Volt」にオーディエンス達は一斉に後ずさりした。そして
《ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!》
と「Combat」の連続射撃をアリーナに向かってお見舞いすると
「ひ!ひい!」
と怯えるオーディエンス達。ソニックはマイクを握りしめ
「おい!オメーらが全員その鉤十字自分の足で踏んづけるまでここから出さねーからな!負け犬の遠吠えが!これでも食らってろ!」
と熊襲太鼓で「Burst」を叩く。
《ゴオッ!ボワッ!メラメラゴオッ!》
怯え続けるオーディエンス達に、ベースを弾いていたスクラッチが
《ゴン!ドン!ゴゴゴン!ドン!ゴン!》
と轟音で地面を揺らし
ギターを弾いていたキッドが曲中に
《フォン!ウォン!ウォン!ウォン!》
とマフラー音をかき鳴らすと
「俺のバイクが盗まれたー!」
と出て行こうとするオーディエンス達を地元警察が
「おい!せっかくの「Sonic」だ!最後まで聴いてけ!負け犬の残党共が!」
と押し返す。この日ヴォーカルをやっていたロブが
「おいおい、LAじゃ逃げる奴なんてどこにもいなかったぞ!ネオナチってのは腰抜けの集まりか?白人至上主義者が聞いて呆れるぜ!」
とMCをかますと
「何だとこのヤロー!」
と一斉にステージに向かって殴り込みをかけるオーディエンス達だったが、ロブとドラムを今交代したソニックのギターでの「Jet」を足下へ食らい、再び立ち止まる。
「今日この会場はテメーらの言うとこのホロコーストだ!全滅するまで続けんぞ!」
「テメーらが全員会場入りした瞬間から包囲は始まってんだ!あこぎな商売やってたテメーらに逃げ場はねーよ。表出たら軍隊に蜂の巣だろーな!」
「今日限りテメーらの行い悔い改めろ!頭の固い老害は世間の影にでも消えるんだな!」
客席に当たるピンスポットライトがまるで、犯人を上空から照らし出しているかのように照射される。演奏が進むに連れて、アリーナからバタバタと倒れていき、後方では怯えるオーディエンスがブルブル震えている。ソニックは彼らに
「思い知ったかよ?テメーらにいわれのねーヘイトされた人達は皆そういう思いでいるんだよ!なーにがネオナチだ!根性なしの負け犬の集まりじゃねーか!ほら、返してやるよ。犬小屋帰って首輪でも付けて世の中に出て来るんじゃねーぞ!」
ソニックがステージから降りると、オーディエンス達は
「・・・やっと恐怖の時間が終わった。家に帰れる。」
と青ざめた顔で出て行くが、そこに待っていたのはドイツの地元警察と軍隊、そして今まで彼らに迫害されてきた人々であった。中にはドイツ政府が容認した移民も多数おり、シリアやイラン、アフガニスタンからきた移民達が
「俺らも白人なんだよね。オメーらぶっ殺していいか?」
と脅すが、ソニックが
「止めとけ。君らの手と心が腐る。こいつらはもう地獄に片脚突っ込んだ状態だ。ほっといても勝手にくたばる。その時笑えばいい。」
「アメリカのジャンキー達の方が骨あったぞ。ったく情けねー。」
とニヤリと笑い去って行った。オーディエンスの中には指名手配犯もおり、一斉に検挙された。
翌日には別の会場、アルター・スラハトホフでも同様に行った。先のヴェロドロームに強引に入れて1万2千人、このヴァルトビューネも収容人数を強引に入れて2万2千人。それでも5万8千人存在するネオナチの半分以上を検挙した事になった。
公演が終わった後、ソニック達WattsTowersは首都ベルリンのベルリンの壁があった場所へ立ち寄った。ソニックは思う。
「今回の騒動といい、世の中変えるってとんでもねー人数いるんだなあ。」
とチェックポイント・チャーリー(検問所跡地)を眺めながら思う。だが、彼らドイツの人々はしっかり戦っていた。今回の事件でソニックは身に沁みて感じるのであった。
バイエルンやハンブルグの公演でも、同様の作戦でネオナチをおびき出した。ドイツの警察も協力的で、実に4万5千人のネオナチがソニック達WattsTowersの術中にはまっていった。この騒動でネオナチは壊滅状態に陥り、ヨーロッパやアメリカ、世界中でニュースになった。だが、この騒動の中心にソニック達WattsTowersが関与していることは誰も知らない。
今回の戦いは民衆の他に地元の警察や軍隊も協力していますが、これはソニックにとって初めての事です




