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第69話 ボヘミアの新世界より

ソニック以外のWatts Towersに憧れる人物が登場します

 ワルシャワをあとにしたソニック達WattsTowersは、チェコへ入った。道中でソニックはスタジオ車でとある曲を静かに聴いていた。ドボルザーク作曲「新世界より」である。ドボルザークはアメリカのNYに滞在し、ネイティブ・インディアンやブラック・ミュージックをよく聴いていたらしい。その課程で作られた曲がこの「新世界より」である。ドボルザークが生きていた時代は、オーストリア=ハプスブルク家の支配下から、ドイツ化が進み、チェコ語を否定され、ドイツ語の使用を強要されていたそうだ。そんなチェコ人の誇りや言語を取り戻そうとする「民族復興運動」が行われていた時代である。


 現在は、世界大戦でナチス・ドイツにより国が占領、解体され、世界大戦が終わった後も、一時的に民主化に戻そうとして、旧ソビエトの仲介が入り失敗に終わった「プラハの春」、そして、今から40年ほど前に隣国、スロバキアとの平和的な分離独立「ビロード離婚」を経て今に至る。


 道中で「新世界より」を聴きながら


(へえ、ドボルザークってこっち(アメリカ)よりの人だったんだ。聴いてみれば確かにそーだな・・・俺らのロックやカントリーに似てる。)


(創造っていうか、逃避したくもなるよ。共産国家なんてフランケンでも量産してーんだろ?)


(ドボルザークもこの国の人達も音楽でしっかり戦ってたんだな。俺も負けてらんねーや。)


(新世界か・・・俺も国じゃねーけど新しい村とか作ってみてーな・・・)


等と思いふけっていた。その「新世界より」の中にソニックが聴き慣れた曲が混ざっていた。「遠き山に日は落ちて」という曲。ソニックが菜月が小学校時代によくギターやピアノで弾き語りをしていた。それは5人の子供達も同様である。ソニック達WattsTowersは基本月曜日に休みを取るのだが、その休日中に桜に


「ピアノ貸してくんない?」


と頼み、ジャズ曲をよく弾くのだが、菜月や子供達が家に帰ろうとする時間帯にこの「遠き山に日は落ちて」を弾き語っていたのであった。


遠き山に 日は落ちて 星は空をちりばめぬ

今日の業を成し終えて 心軽く安らえば

風は涼し この夕べ

いざや 楽しき まといせん まといせん


闇に燃えし 篝火は 炎今や 鎮まりて

眠れ安く 憩えよと 誘う如く 消えゆけば

安き御手に 守られて

いざや 楽しき 夢を見ん 夢を見ん


【ドボルザーク作「新世界より」の第2楽章から抜粋「遠き山に日は落ちて」】


 この曲を聴きながらソニックは


(俺達もワッツ・タワーの前でドラム缶に火を焼べて、暖を取った所から戦いが始まったんだよな。)


(毎日毎日その日生きるだけで精一杯でよ。それでもライブ終わった後は最高の気分だったよ。)


(おっちゃんや菜っちゃん、鉄兄いに桜。今思えば大勢の人達の手に守られていたんだなあ。)


そしてこのチェコの歴史的背景から


(俺が生まれた日本人は、隣の朝鮮半島の国に同じ事してたんだよな。そんで今は拉致問題やミサイル発射でやり返されてる。そーなんだよな。ワルシャワでも言ったけど、いたぶる側は直ぐ忘れるけど、いたぶられる側は末代まで覚えているもんなんだよな。俺も片眼奪った奴ら未だに許せねーしよ。)


そして、ソニックはWattsTowersに照れくさそうに話す。


「俺さ、LAに帰ったら、俺なりの新世界を作ってみようと思ってるんだ。村単位でいいから、ヘイトのないエリア、コミュニティ、そんな場所を作りたい。」


ボスが


「いいじゃねーか。アナログ・キングダムをでっかくしたよーなモンだろ?」


ソニックは


「もっとでっかく。それこそ村や町単位でさ。」


ビッグ・ジョーが


「・・・大きく出たな。これで帰った後やることは決まったみてーだな!」


と一同で湧き上がった。その前にこのチェコでのライブ、プラハ、ブルノ、オストラヴァでのライブで


「ドボルザークを超えるライブをやる。向こうはコンサートだけど、俺達なりの新世界をこのチェコでのライブでやる。」


と意気込んでいた。


 そしてプラハ・ヴァツラフ広場。ここは、プラハの春でデモ隊と演説が行われていた中、旧ソビエト軍の戦車が入り、ワルシャワ条約機構の軍隊が介入した舞台である。ソニック達WattsTowersの先人、ニールやルディ、エデンのマスターティムが「ワッツ暴動」を起こした1960年代の出来事と妙に重なった。この地での野外ライブが認められ、ニコやコブラ主導で音響のエースやハウンド・ドッグ、照明のゴッグやロッキー等半数がステージを作っていると、懐かしい人物が彼らに声をかける。


「あれ?お前ら!久し振りじゃねーか!」


声をかけたのは元国際弁護士のルディ。ソニック達WattsTowersが若い頃、散々世話になった恩人である。照明の設置をしていたゴッグが


「あんたルディか?何でここに?」


ルディは引退しており


「ここは俺の母国だよ。息子が世話になってるそーじゃねーか!」


一同びっくりし、旧交を温めながら


「マジすか?ウィルならインターポールになったソニックの内弟子とつるんでてよ。あんたに似て頼りになる男だよ。」


とウィルが頑張っていることを報告する。そんな中、ヴァツラフ広場の片隅で、彼らの作業をじっと見ている少年がいた。ここではよくアートの野外展覧会が開かれているとルディから聞いており、その少年はよく顔を出すようだ。空に向かって照明を確認するゴッグ達に興味があるらしく、ルディが


「よかったらこっちで一緒に見学しようか?」


と近くのオープンカフェでゴッグ達の作業を見ていた。彼の名はパベル。パベルはゴッグ達の仕事にインスタレーションを感じたようだ。WattsTowersの野外ライブはいつでも


「ソニックが気に入った景色をバックに照明や音響をその日の天候や自然環境を考慮して成立させている代物なんだよ。」


とルディの説明を受けたパベルは、一息ついたゴッグ達に


「・・・あの、どーやったらこんな仕事に就けるんですか?」


と尋ねる。ゴッグは


「俺達の仕事は1人じゃ成立しねーよ。先ずは仲間を集めることだ。あとは自分で気に入った景色を崩さずにどー演出するセンスとか・・・まあ、簡単に言えば勉強する事だな。学校で勉強してるか?大体覚えといた方がいいぞ。どっかで必ず役にたつからな。」


それを聞いたパベルは


「勉強はさっぱりだけど、独学でやってるCGなら自信があるんだ。でも、それって画面上とかだけで・・・やっぱりあんた達みたいに実写的にやってみたいんだ。」


と話す。するとロッキーが


「俺も苦手だから何とも言えんけど、数学と理科はちゃんとやっといた方がいいぞ。そっち系の仕事に就くんなら欠かせねーからよ。まだ作業終わってないけど、何なら夜のライブも観ていくか?」


と助言を与えつつ、ライブに誘う。パベルが


「実はライブのチケットはさっき買ったんだ。でも一番後ろからしか取れなくて・・・」


ソニックのライブは後列であれば場所は決めていない。アメリカでは遠くのビルや建物から身体を出し、聴く者も多い。それを聞いたロッキーが


「それなら尚更ラッキーじゃねーか。そんならよ、どっかの屋上とか屋根の上で聴いてみたらいいよ。新しい発見があるかもよ。」


と提案した。パベルは


「一番綺麗に観られる場所は何処?」


と尋ねると、ロッキーが


「大体2階か3階の高さじゃねーか?曲は聴きづらいしソニックもカメラはアウトだから、ただ観るだけならそこかな?まあ、人によるけどね。」


と作業に戻った。


 そしてライブが始まるPM18時が回る。パベルは近くのマンションの屋上でルディと一緒にいた。照明が夕焼け空に照らされると、それだけでテンションが上がるパベル。そしてソニック達が入場する。


《ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!》


と鉄の入ったアーミーシューズと2本のドラムスティックが重なる音が響き渡る。だが、パベルの視線はそこではない。空と客席に照らされている照明と、未だ暗がりから聞こえるステージの音響だった。CDやラジオで聴くのとは明らかに違う生の「Sonic」を支えるスタッフの陣容にパベルは興実津々だった。そして挨拶代わりの「Jet」をギターでオーディエンスにかますソニック。


《ビュン!キーン!斬!!!!》


ソニックにとってもこのライブは特別だった。オーストリアで先人達のバトンを受け、この時代を音楽で戦っていく覚悟がオーディエンスに伝わっていく。イタリアで覚えた「Drift」、オーストリアで一気に身につけた「Innocent」、森のような世界を体現する「Forest」、そこから派生した「Scarlet」、「Planet」、「Target」、「Elegant」、「Hornet」と前半に酔いしれる「Sonic」を聴かせた。屋上の上から天を見上げ、耳を澄ませるパベルが


「凄え・・・」


とヴァツラフ広場一帯の景色とシンクロさせていた。そして後半に熊襲太鼓を取り出したソニックが、長いドラムスティックを振り


《ドン!カララ!ビカッ!ドーン!》


と「Volt」、「Burst」をかます。そして天に向かって


《ダダダダダダダダ!!!》


と「Combat」を熊襲太鼓で叩く。一部のオーディエンス達が


「この曲の並び・・・ドボルザークの「新世界より」と同じじゃねーか?」


この日のソニックは明らかにドボルザークを意識していた。ジャンル関係なく、ソニックはソニックなりの音楽での戦いに挑んでいた。ヴァツラフ広場一帯は大盛況に包まれた。そんな中パベルは


「へえ、観客の声援までも景色に混ぜられるのか・・・だんだんやりたいこと、やらなきゃいけない事が見えてきたぞ!」


と手応えを感じていた。


 ライブ終了後、ソニックはルディと数年ぶりに再会した。


「相変わらずドンパチやってるみてーじゃねーか!」


と話すルディにソニックは


「ああ、ええ、今度はあんたの息子に助けられて・・・」


と背筋を伸ばして話す中、パベルがやって来ると


「どーだった?」


と気さくに話しかけるソニックを他所に、パベルはゴッグやエース、コブラ等スタッフ達に握手を求める。ゴッグが


「お前ばかりに憧れてる訳じゃねーの。こーやって俺らに憧れる奴だっているんだぞ。」


と話す。ソニックが


「そーだけどよ。もっといてもいいよな。でもよ、お前らの仕事が大人じゃなくて子供に認められるって相当だよな。ルディ、WattsTowersも俺と一緒に成長してるんだ。」


と自慢げに話す。


 これで「旧東側」でのライブは終わりを告げ、次に向かうドイツから先は「西側」でのライブとなるのであった。

ルディの息子が登場したので、ニールと同じくルディも再登場しました

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