第68話 悲しい国々の民
ソニックが、20世紀の悲劇の国と、21世紀の悲劇の国の人々と交流します
テルホヴァー村からジリナの公演を終えたソニック達WattsTowersは、北上し、タトラ山脈を越えてポーランドへ入った。ソニックはこの国に入った瞬間から緊張感を覚える。隣国ロシアやウクライナは未だ戦火に包まれて入国出来ないからだ。ソニックも
「戦争してる国はぜってー行かねー。」
と決めている。オーストリアで桜にも
「そういう国には行かないでね。」
と釘を刺されている。
クラクフでのライブを終えたソニック達WattsTowersは、首都のワルシャワへ行こうと大型トレーラーを走らせること1時間、突然トレーラーがガタッと揺れ出す。コンボイが車内アナウンスで
『これ見ろよ。ヨーロッパなのに砂漠になってんぞ!』
と周囲を見渡すと、ソニックが
「・・・ここはテキサス州か?」
と意外な景色に驚く。ソニック達WattsTowersはどうやらブウェンドフ砂漠に迷い込んだらしい。ソニックは
「おいおい・・・コンボイ達と出会ったとこと変わらねーじゃねーか?今回は道もねーぞ?」
と不安になるが、アパッチとトマホークが
「俺達が誘導するから上開けろ。」
とトレーラーハウスの窓を開けると、
「うわっ!やべー!」
と砂煙を被った。そこでマンモスが
「俺が先頭走るから止まらず付いてこい。」
とキッチンカーを走らせ先頭に立つ。マンモスは元自然保護員であるのでこういう時に便利である。
何とか悪路を突破した大型トレーラーだったが、さっきの砂煙でベッドが汚れ、キッチンカーも砂を被り、燃料も余計に使ってしまったため、首都ワルシャワに入るなり洗車を余儀なくされ、物資を補給する事になる。だが、ここはワルシャワではなく、大きく道順を間違えて西へ来てしまった。実際にはクラクフから殆ど進んでおらず、ソニック達WattsTowersが辿り着いた所は
「アウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所跡」
であった。
「うわあ!」
と全員びっくりし、去ろうとした。ここは人類の誰もが恐怖するホロコーストが行われた場所である。今まで怖いものなしで生きてきたソニック達WattsTowersが
「戦争していなくても絶対来たくなかった場所」
であった。だが、その跡地周辺で、現地の住民達が1組の家族に暴行を加えていたのを発見する。ソニックは
「・・・ここもかよ。」
と最早日常茶飯事に起きているこの光景を見て
「今度は何処の移民なんだ?」
と既に半分くらいは理解している様子で仲裁する。住民達は
「こいつらウクライナ人だ!」
と話し
「こいつらの国の大統領が蜂起軍を英雄と抜かしやがった!俺達の民族は世界大戦でこいつらにジェノサイド(大量虐殺)されたんだ!」
とヘイトクライム(憎悪犯罪)をしていたようだ。ソニックは
「・・・そんなんアメリカで散々蹴散らしてきたわ。で、今度はテメーらがここ(アウシュビッツ)で同じ事やってんのか?反省の色ねーのはお互い様じゃねーのか!」
と恫喝すると、住民達は何か言いたげに退散していった。
この家族はラドチェンコ一家。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、クリミア半島から逃げてきた難民である。この後イギリスに逃げる予定だったが、未だに入国審査が降りずに困っていたと話す。ソニックは
「・・・未だに戦争続いてるんだな。」
「あいつらを攻めないでやってくれ。俺にもあいつらの気持ちが少しはわかるんだ。いたぶる側は直ぐ忘れるけどよ、いたぶられる側は末代まで覚えているもんさ。俺のこのツラも未だにやった奴らムカついてるからさ。」
と一家を嗜める。実際にソニック達WattsTowersはこれまでこのような類いの争いを今の今までやって来た。だが、さっきの連中はどうやら解釈を誤っているような気がしてならない。ここ、ポーランドに住む人々は、戦時中にイギリスに逃げたようだが、それは今でも続いている。高収入を求めてイギリスへ行こうとする者が後を絶たない。彼らは
「自分達はよくて、お前らはダメ。」
という理屈で動いているような気がしてならなかった。このラドチェンコ一家がなかなかイギリスに行けないのは、ポーランドの住民達が移民として優先されているような予感がしたのだ。ラドチェンコ一家は
「一旦ワルシャワへ行ければ何とかなるのだが。」
と話すと、ソニックは
「それなら俺達も行くところだ。乗っけてってやるよ。」
と提案すると、ラドチェンコ一家の他に50人程のウクライナ難民がいた。WattsTowersと相談すると
「・・・まあ、乗っけてくだけならいいか。」
と了承する。今までは現地からアメリカへ行くか、個人で向かわせるかだった為、団体で世話をするということが初めてであり、ましてや
「今現在、隣国で戦争をしている国の住民達」
という見えない警戒心があった。ラドチェンコ一家は
「ワルシャワへ行けば皆ビザが下り、イギリスの「ホームズ・フォー・ウクライナ」の支援を受けて半年は滞在出来る。そこで皆やり直すつもりなんだ。」
と道中で説明する。
【ホームズ・フォー・ウクライナ】
イギリス市民が身元引受人となり、自宅や別物件を最低6ヶ月間無料で提供する制度
ラドチェンコ一家や他の家族達もその制度を受け、生活基盤をやり直す考えだと話す。現在その多くはイギリスでホームレスとなっている現実はあるのだが、ソニックは
(今この人達の夢はイギリスに行くことなんだろう。だったらその夢を壊しちゃいけねーよな?)
と思い黙っていた。ただ、きっとさっきのような出来事が起きるのだろうという懸念もあり、ラドチェンコ一家に
「もし生活が安定したら、その後どーすんの?」
と尋ねると
「わからない。考えたこともない。とにかく一生懸命働くだけさ。」
と答えた。
(まあ、そーだよな。何もかも奪われた後だもんな。)
と思いながら、ワルシャワへ向かう。そんな事を考えていると、ディオがラドチェンコの2人の少女達に
「君達、何読んでんの?」
と本を読んでいたのを話しかける。そのソフィヤとナタリアという小学生くらいの少女達が読んでいたのは、自分達が祖国から逃げてきた日から、今日まで書いていた日記であった。それを見たディオが2人に
「この本あげるよ。よかったら読んでみな。」
と渡した本は「アンネの日記」であった。2人が書いている日記に非常に良く似ていたからである。祖国を追われ、迫害されていたという点では同じであった。だが、彼女らは
「安住とは言えないけれど、光がある世界に逃げられる」
と思って渡したとディオは話す。
「未来を作るのは自由だろ?俺達に出来る事なんてこの程度さ。」
とソフィヤとナタリアに話す。ディオが読んだ彼女達の日記にこう記されていた
「戦争へ行ってしまったお兄ちゃんとまた暮らしたい。」
彼女達の父、ビタリー・ラドチェンコは今、このトレーラーに乗っている。彼も徴兵されたのだが、色盲で使い物にならないと退役され、代わりに高校に通っていた息子が徴兵に駆り出されたのだという。その息子こそが2人の兄である。今も尚、ロシア軍と戦い消息がわからない状態だという。ソニックは
「この国の人達に少しでもわかってもらおう。」
と決意した。
ラドチェンコ一家と他の50名の家族をワルシャワ・フレデリック・ショパン空港で下ろすと、彼らに礼を言われた。ソフィヤとナタリアが
「おじちゃん達ありがとー。」
とディオが渡した本を大事に抱えている姿を見て
「・・・ん?この感覚どっかで?」
と何やら思い出した。あれは今から30数年前、菜月が取られたテディベアを探しに知らない街を歩き回った当時「カタメ」を名乗っていたソニック。夜道で警察に補導され、テディベアを解体した警察を相手に派手に暴れ回った当時のこと。迎えに来た龍司が頭を床に撃ちながら警察から連れ戻したあの日のこと。翌日菜月から
「兄ちゃん。有り難う。」
と言われたあの台詞。ソニックは
「頭を下げるのは今だ。」
と確信し、ワルシャワにあるライブ会場、プログレシャのステージに立つ。この日のソニックは「Ghost」を主体に「Magnet」とイタリアで覚えたての「Drift」を全面に出しつつも、得意の「Jet」、「Volt」を織り交ぜていく。更にオーストリアで覚えた
「Innocent」から、「Magnet」の進化形「Omit」という新たな「Sonic」を放つ。それは、「Magnet」で突き放されっぱなしの悲しい「Sonic」であった。
「・・・なあ、悲しいかよ?そーだろ?お前ら何度も国を奪われたんだろ?なのによ、隣のウクライナから逃げてきた人達を除外しよーとしてんだぞ。・・・それじゃお前らがされてきたことと同じじゃねーかよ?」
ソニックは涙目になりながら話しを続ける。
「お前らの気持ちもわかるけどよ。そー思ってんならせめてウクライナの連中と仲良くしろって言わねーけどよ、わかってやってくれよ!あいつらは今まさに国を奪われて困ってんだ・・・お前らならわかってくれるだろ?・・・頼むよ。お前らにしかわかってもらえねーんだ。」
と言って深く頭を下げる。観客は
「何であいつらの為にお前が頭を下げるんだ?関係ねーだろ?」
と文句を言うが
「このツラを見ろ!俺はこいつを奪った奴らを今でも許さねー!だけど、何も関係ねーのに俺を救った人がいた。だからここにこーして生きていられる。お前らだって国を奪われた恨みで未だに許せないんだろ?ウクライナから逃げてきた人達も同じなんだ。俺とお前らだからわかってやれると思ってよ・・・生きてる以上関係ないわけねーからよ。俺を救ってくれた人も同じ思いだったんだなって思い返したらよ、今気付いたら自然とこーしてたんだ・・・」
言っている意味がわからなかったオーディエンス達だったが、思いは確かに伝わっていたのを感じた。そして自分達が、かつてされていた事と同じような事をしていたことに気付かされた。
堂々巡りをしていたと気付いた彼らは翌日からウクライナから避難してきた人々を、更に他所の国へ逃がそうと協力するようになった。
「この国も色々きつくて、自分の事で精一杯だけどよ、出来る事って言ったらこれくらいしか出来ねーからな。」
とヘイトクライムを行う連中を止めに入り、
「さっさと行け!」
と促した光景をあちこちで目にする。ソニックは
(おっちゃんよお。この歳でよーやくあんたと同じ事が出来たよ。)
と西方イギリスへ向かおうとする飛行機雲を見上げながら思った。
ソフィヤとナタリアは、後年アメリカのLAに渡りソニックと再会。執筆をしている窓香を紹介すると、21世紀ルネサンスの文豪として活躍するのであった。
この国では戦争路線か放射能関連を考えていましたが、かなり複雑になってくるのでこの話しに落ち着きました




