第67話 タトラ山の「Sonic」
ソニックがヨーロッパに来て初めて別の「Sonic」使いに出会います
ウィーンをあとにしたソニック達WattsTowersは大きな自信を付け、次の国、スロバキアへ向かった。
ブラチスラヴァと西部のコシツェでのライブも大盛況に終わり、3つ目の都市ジリナへ向かう途中のタトラ山脈付近で雲行きが怪しくなってきた。先頭を走るコンボイが
「こりゃひと雨来そうだな。」
と話しているが、アパッチが
「待て。何かあそこの空だけおかしい。」
と異変に気付く。一カ所だけ雷雲が集まり、定期的に稲妻が落ちているようだ。キッドとゴッグが
「よお、あれ思い出さねーか?」
「ほら、ソニックが熊倒した時だよ。」
それにピンときたビッグ・ジョー、ファルコン、ロケット、アパッチ、JJ、レオ、ブライ、アルの8人。彼らはソニックが「カタメ」を名乗っていた少年時代に、ソニックがパサディナの山中で鉄パイプ片手に熊を倒した時に現場にいた者達だ。ビッグ・ジョーがソニックに
「行ってみねーか?」
と誘われて行くこと2時間程、タトラ山脈のとある村落の離れた所で1人の青年が意図的に薪割りを振って稲妻を落とし、木を割ってそれを村人が材木として運んでいた。ソニックは思わず
「・・・いた!Sonic使い!」
と口に出してしまう。ソニックは過去一度だけ別のSonic使いであるベンと出会っており、正に同じ事をやっていた。ソニックは村人に
「彼は何をやってるんだ?」
と尋ねると村人が
「御覧の通り木を切ってるんだよ。あの不思議な力でね。おかげでこっちも大助かりだよ。材木売れに売れてさ。」
と皆が話す。そしてソニックは、そんな青年の横に立ち、ドラムスティック片手に同じように稲妻を落として見せた。村人達は
「おお!スゲー!まさかユライと同じ事を出来る奴がいるとは!」
と驚きを隠せない。また、WattsTowers全員も2人のSonic使いが並び立つのを初めて見る。それもそのはず、ベンはソニックと2人きりでしか会った事がない。今生きている中では唯一の光景である。その内ソニックが
「こんな事も出来るぞ。」
と「Jet」で木を横にバサバサ切断していき、「Burst」で焚き火を起こす。青年は
「そんくらい俺も出来るよ。」
と同じく「Jet」と「Burst」をかます。そして
「オメーは一体何モンだ?」
と青年はソニックに尋ねる。ソニックは名刺を渡すが、彼は英語が読めない。口答で
「俺はSonic Los Angeles。アメリカから来たミュージシャンだ。こいつらはWattsTowers。俺の大事な仲間だ。君の名は?」
と聞くが、彼は
「俺に名前はない!ここの奴らはユライ。ユライ・ヤノシクと呼ばれている。」
イビルが
「それってスロバキアで伝説の英雄の名前か?」
と尋ねるもユライは
「知るか!そんなこと!」
と尖っている。イミダスが
「その感じ、懐かしいなあ。君、このソニックが若い頃によく似てるよ。」
と振り返る。村人が
「こいついっつもそーなんだよ。仕事手伝った御礼に食いもん渡してもさっぱり手に付けねー。普段から熊や猪ばっか喰ってやがって。」
と話していると、ユライの口から
「何でも焼けば食っていける。」
「人間以外食っていい。」
という言葉が出てくる。ジウとトニーニョが口を揃えて
「そこまでソニックと同じかよ?」
「マジで他所にもいるんだなあ。」
とびっくりする。村人にソニックが初めてLAに来た時の事を村人に話すビッグ・ジョー。すると村人が
「全く同じ。ただ1つだけ違うのは、ユライがここに来てもう3年も経つのに誰にも心を開かないって事だけだな。根は凄くいい奴で、名前がないっていうから俺達がこのタトラ山脈の英雄ユライ・ヤノシクの名前を付けてるって事さ。」
と顛末を話す。
【ユライ・ヤノシク】
17世紀後半から18世紀初頭にこのタトラ山脈・テルホヴァー村を根城にした義賊。かのハプスブルク家に反旗を翻したラコツィ・フェレンツの解放戦争に反乱軍として参加。以降は皇帝軍に参加しつつ、裏でトマシュ・ウホルチークという盗賊と出会い共に脱走。ウホルチークの盗賊団に参加し、山間部を通る金満者達から金品を強奪し、民に配って歩いたというスロバキアの英雄である。
ユライはこのテルホヴァー村に辿り着き、程なく「Sonic」を身につけた。最初は忌み嫌っていた村人達だったが、ユライの能力に目を付け、現在まで材木屋として儲けているが、ユライは何故か儲けを受け取らず、今もこうして木を稲妻や突風で切り倒すついでに熊や猪、山羊等を食べて生活しているという。そして、そんなユライは左の耳が削がれていて付いてなかった。だがソニックはそれを聞こうとはしなかった。
「きっとこいつも俺と同じで大勢の奴らに奪われたんだろう。自分で削ぐなんて考えられねー。」
と思っていた。
夕暮れになろうとする頃、ソニックは
「俺が熊奢ってやるよ。」
とユライと2人きりで山に入る。程なく熊が現れてソニックがドラムスティックを一閃。
《キーーーン!斬!!!!バサッ!ドサドサドサ!!!》
というでかい音が山全体に響き渡る。周囲の木々も斬り裂かれバタバタ伐採され倒れていく。そしてソニックは「スパン!」と刎ねられ空中に放り出された熊の生首を片手でポンとキャッチした。その瞬間、夜空が突然暗雲に見舞われ、2人を照らすように稲妻が落ちてきた。
《ビカッ!ドーーン!!!!》
ユライは
「お前有名人なんだろ?随分えげつねー事すんな。俺でも首はやらねーよ。」
とボソッと話す。するとソニックは
「お前と同じだよ。俺は他にも俺やお前と同じ力持った人と会ってんだ。まあ、何年か前に亡くなった爺さんだけどな。今のお前みてーな生活してたよ。」
と新婚旅行で出会ったベンの事をユライに話す。2人きりで山の中で熊を焼いて食べながら真剣に話した。ソニックは
「俺もベンも共通して周りの奴らに「寂しそうな奴」って思われてたよ。でもな。俺もベンも仲間が出来てから変われたんだ。」
「ベンが初めて「Sonic」を俺の前で見せた時、「この力を持つ意味を忘れんな」って言ってよ。俺もこの歳になってよーやくわかってきた様な気がするよ。俺がこの力持ってもう30年以上経っちまったがな。」
そしてソニックはユライに
「いつか必ず君のその力が世の中で必要になってくる時が来るはずだ。だからそれまでこの力の使い方考えててくれよ。」
と言って山を下りようとすると、ユライが追いかけてくる。そこでユライが左耳の事を話す。ソニックの予想通り周囲の人間達に迫害され、無理矢理削がれたと話す。ソニックは
「・・・何かよ、俺の片眼もそーだけどよ。この力って汚い連中に身体のパーツ奪われた奴が発動すんじゃねーかと思ってよ。ベンも確か足が不自由だったな。白人に痛めつけられたってよ。あ、ベンは向こうの先住民な。」
と推測する。ユライが
「・・・俺も耳奪われて無性に腹が立って、ピストル奪ってやり返したり、鈍器でボコボコにしたり、もう引き返せねーとこまで来たらこの村に辿り着いてよ。そしたらあの力が使えるようになって。ただ1つだけ疑問なんだ。村の奴らは俺のこと警察や軍隊にチクんねーんだよ。どーしてだろ?」
ソニックはユライに
「お前の事仲間だと思ってんだろ。だからユライ・ヤノシクの名前まで付けたんじゃねーか?実は俺もソニックってあのWattsTowers達が付けてくれた名前だ。君がこれから誰を仲間として見るか、認めるか、ソレが出来れば君はもっと強く優しくなれるよ。今度は君が現実のユライ・ヤノシクになれるんじゃねーか?」
と話す。ユライが
「・・・まだよくわかんねーけど、何となくこの力の使い方は頭に入ったような気がする。もし俺が本当の仲間に出会えたならぜってーこの腐った世の中ぶっ壊してやるよ!」
ソニックは
「・・・なら俺が死んだ後のソニックはお前で決まりだな。だけど俺はまだまだ生きるからな!力磨いとけよ!」
とユライを激励し、枯れ木に「Burst」で起こした松明を持って2人で山を下りた。
もう夜中になっていたが、村人もWattsTowersも心配して誰も眠っていなかった。ユライはそれが不思議でたまらなかった。ユライは村人達に
「・・・何で起きてんの?」
と尋ねると村人達は
「いつもより余りにも遅いから心配したんだぞ!」
とユライを輪に入れた。ユライにコートをかけた村人を見てソニックはビッグ・ジョーが自分にボロボロの毛布を渡した事を思い出す。ソニックは
「頑張れ!ユライ!もう一息で俺と互角になれる。」
と呟く。WattsTowersも薄々感じており
「ありゃ未来のオメーだな。」
とソニックに話した。
翌朝、ユライとこのテルホヴァー村の村人達に餞別としてタダでライブを2時間行った。村人達は
「そうか。こーいう使い方もあるんだ。」
「聴いたことはあるけど、実際生演奏聴くとこんなに違うのか・・・」
と驚いていた。
そして去り際にユライに呼び止められたソニックは
「俺は今日からユライ・テルホヴァーだ。この村から名字をもらったんだ。」
と嬉しそうに話していた。ユライは村人を仲間と認識したようだ。
そしてユライはこの数年後、このテルホヴァー村から仲間を増やし続け、ソニックとは逆の方角で腐った世の中に戦いを挑む戦士となっていったのである。
「Sonic」使いを登場させたのは、ソニックだけが能力者ではないということです




