第66話 俺達が音楽で戦う時代
ソニックが「音楽家」として真価が問われます
ムジーク・フェラインでのライブ当日を迎えた。音楽の都で最高のホール。スタンディングは出来ないが、これまで習得した7つの「Sonic」を試すのに十分なステージ。何より、アメリカから持ってきた熊襲太鼓が「時を超えたホール」でどう共鳴するか興味が湧き、胸騒ぎが止まらない。ゴッグ、ニコ、ハウンド・ドッグ、ランボー、コブラ、ガービー、エース等音響や屋内ライブを担当しているメンバーは特に緊張感丸出しで入念に準備していた。他の者達も普段やっているライブハウスやロス・アンゼルス・ミュージック・センターのような大きなステージとは勝手が違っており、準備に苦戦していた。ソニックも一旦ステージに上がり、それぞれ楽器の響き方を確認している。試しに熊襲太鼓を
《ボオッ!ドーン!》
と慣らしてみると
《ゴオッ!ビカッ!》
とフィーリングのいい音が返ってくる。
(おっ!今の・・・・)
と手応えを感じていた。今回のライブはどうやら鉄治を介して既に配られており、チケットを売る必要はない。ステージから降りると、1人の男性から声をかけられる。
「今日のライブ楽しみにしているよ。」
と彼は話す。ソニックは
(どっかで見たような顔だな。)
と思っていると、彼はレーサーと話す。ソニックは
「・・・あんたもしかしてウチのGT、あ、いや、グラハム・テルファーのレーシングチームと出場してた人?」
と尋ねると
「へえ、彼を知っているのか?彼のチームとは何度も対戦しているよ。」
と話す。ソニックはこの時彼を「GT達のライバル」としか認識していない。この彼こそがこのムジーク・フェラインでのライブの発起人で、この国の歴史に欠かさないハプスブルク家の末裔であることはこの先も知らずにいたのであった。彼はこのライブで
「新旧の音楽の歴史の生き証人」
としてこのライブをソニック達WattsTowersがこのヨーロッパへ来ると知ってから方々へ頼み、、LAで桜と知り合い鉄治を紹介され、このウィーンに来るまでムジーク・フェラインのステージの予約を間に合わせ、何とかこじつけたと昨晩桜から聞かされていた。だが、彼の正体を知るとソニックがまた暴れ出すだろうと伏せておいたのだ。
そして遂にムジーク・フェラインのステージにソニックが上がる。歴史ある黄金のホール内に
《ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!》
と鉄の入ったアーミーシューズと2本のドラムスティックが重なる音が響き渡る。来場者はつい昨日までのオーディエンス達とは明らかに違う。クラシックを聴いている者達ばかりでソニックにとってはアウェーな雰囲気である。だが、彼らの脳裏には
「この現代社会を動かしている「Sonic」という未知の代物は一体どんな音楽なのだろうか?」
という事で、ジャンル等どうでもいいことであった。むしろ
「ソニックがベートーヴェンやモーツァルトのように音楽で世の中としっかり戦えてるのだろうか?」
という事の方が重要だった。もしそれが
「中途半端なロックやパンク等慣らしたら容赦なく糾弾させてもらう。」
という厳しい目もあったが、ソニックがドラムスティックを抜き、熊襲太鼓を
《カッ!ピカッ!ドドン!タタドン!ゴオッ!ボオッ!》
と鳴らすと、ムジーク・フェライン全体がビシッと引き締まる。ソニックが余計なことを一切言わず、ただただ歌い続け、演奏する。いつもと全く代わらない「Sonic」。豪華な壁などお構いなしに、エレキギターやベース、そして熊襲太鼓と共に「Jet」「Burst」「Ghost」「Magnet」「Volt」「Combat」そしてイタリアで開眼した「Drift」を音に乗せて放っていく。この日のオーディエンスからは歓声が一切無い。ソニックは
(こいつら。俺達を試してるな。なら・・・)
と特大の「Sonic」を放つ。これまでにない「Sonic」。これまでのアタッキング・ソニックとは違う「Innocent」、森のような世界を体現する「Forest」、そこから派生した「Scarlet」、「Planet」、「Target」、「Elegant」、「Hornet」と新たな「Sonic」を全曲を通じて放ってみた。この一連の「Sonic」でムジーク・フェライン全体を全く別の景色に変えて見せた。まるで幻術を見せているようだった。その空間は
「一切の混じりけもない澄んだ星空の下にある綺麗な森に咲く朱の上品な花を目標に群がる蜜蜂」
とこの日のオーディエンスは解釈したらしい。ソニックにとっては
「この舞台に立たせてくれた妻の家族を意識したモノ」
と意識して演奏したとライブ後に話す。「Innocent」は今は亡き史郎、「Forest」は緑、「Scarlet」は茜、「Planet」は葵、「Target」は自らを愛してくれている桜、「Elegant」は菫、そして「Hornet」は菜月と子供達。ソニックは
「俺は大切な家族を守るために戦い続ける。それは拳や武器で傷つけ合う事じゃない。この音楽というこの「Sonic」という力を音楽に乗せて戦う。」
という意思表示の表れでもあった。尚、この時放った「Sonic」は生涯一度きりでもあった。後年、ここまで緻密な「Sonic」は放てなかったという。オーディエンス達はステージにいるソニック達を観ずに、別なところを観ていた。観ていたと言うより、この空間で耳を澄ませていたとでも言うべきだろう。ソニックは
(そうそう。エデンの時と同じ感覚。流石こっちの人達は耳が肥えてやがる。エデンのあいつらにはピンスポ当てたモンだけど、ここではその必要もねーみてーだな。こーいうライブが俺達の真骨頂なんだよな。見えねーとこから聞こえてくる何かを感じ取る。音楽の街の住民はそーいうとこしっかりわかってくれてるじゃん。ここでライブ出来てマジでよかったぜ!)
と確かな手応えを感じていた。「Sonic」1つ1つに歓声を上げることなく、噛みしめている。2000人弱のオーディエンス達だったが、全員が「Sonic」の「Magnet」を兼ね備えているように吸収しようと感じ取れた。Sonicは1曲ずつ丁寧に真剣に歌い奏で続けた。いつもとは別の意味合いでオーディエンス達と戦っているようないつもと違う雰囲気の中、約2時間のライブが終わった。ソニックの両手は極度の緊張から汗でびっしょり濡れていた。
そしてライブ終了後、オーディエンス達に盛大に拍手されるソニック達WattsTowers。その拍手の後、オーディエンス達から
「これからも頑張れよ!」
「絶対負けんなよ!」
「お前がこの時代のミュージック・ソルジャーだ!」
「いつでも聴いてるからな!」
「お前らならこの時代を変えられる!だから突っ走れ!」
「俺達が認める!お前がこの時代の音楽を牽引するんだ!」
「まだまだ戦いは続くんだ!何があっても決して諦めんじゃねーぞ!」
ソニックは?と思っていたが、何故か涙が溢れていた。認められたとか励まされたとかそういう意味ではない。
「これからも世の中と戦う為に頑張れ!」
と背中を押された戦士のような感覚がこみ上げてきたのだった。ソニックは
「俺の、俺達の戦いは間違っていなかった。この戦い方でよかったんだ。」
というソニック達WattsTowersのこれまでの戦い方を肯定するような賛辞に涙が止まらなかったのだ。この盛大な拍手と賛辞はソニック達WattsTowersが次の国、スロバキアへ向かうまで延々と続いていた。このライブが始まった時点で5時間後にはスロバキアへ向かうことが決まっていた。残りの3時間程、このムジーク・フェラインからスロバキア国境まで、ソニック達WattsTowersの乗る大型トレーラーの行列に民衆は拍手で送っていた。WattsTowersの妻達は
「これってあのハリウッド・ボウルの時みたいじゃない?ほら、桜がソニックに初めてチュー・・・
桜が慌てて
「ちょっと!恥ずかしいでしょ!」
と話しを止めるが
「・・・あれからもう30年以上も経つんだ。ソニックとの子供達も大きくなって・・・」
と夕暮れを見上げ、今では夫の勇ましい姿を確認し、妻達と帰国の途に着いた。そして、このライブを主催したF・ハプスブルクは
「・・・この時代にも戦う音楽家がいてよかった。」
と空っぽになったムジーク・フェラインで1人佇んでいた。
ソニックは今まで「破壊」的に「Sonic」を放っていましたが、今回に限り「芸術」として放っています。ソニックはこれまでアルファベットを頭文字にした「Sonic」を意識して放っていますが、今現在放っている「Sonic」は今回のを入れて14つ。残り12つの「Sonic」も今後出て来ます。




