第62話 黒い兄弟と息子を称える新たな「Sonic」
ソニックがヨーロッパに来て初めて前向きな人物達と出会います
スロベニアを後にしたソニック達Watts Towersは南下し、イタリアのナポリに着いた。他にローマ、ミラノでライブを行う予定である。
ナポリとローマの公演を終え、ミラノ近郊を大型トレーラーの行列が走る。コンボイ達が信号で停止していると、大型トレーラーに大勢の少年達が押し寄せ、窓やサイドミラーを磨きにやってくる。彼らはこのイタリアでサッカー選手になるべくアフリカや南米から連れてこられた少年達で、チームから「使い物にならない」と解雇され、国に戻る手段もなく路上で生活しているストリート・チルドレンであった。日銭を稼ぐために窓磨きをして生計を立てていた。だが、それとは別の少年達が夜になると大型トレーラーの冷凍車を車上荒らしにこそこそやって来た。Watts Towersが追い払うが、彼らは何か結束しているようだった。このイタリアに詳しいバルカンは
「オメーらマフィアの手下か?」
と尋ねても誰も口を開かず黙秘する。
翌日、地元民に彼らのことを尋ねると
「奴らはコーサ・ノストラを叩き込まれてるんだよ。」
と話す。この欧州ツアーに同行している鉄治が
「あ!コーサ・ノストラってもしかして死神のリックが入ってたっていうあれか?」
イタリアのマフィアには「オメルタの掟」という厳しい血の掟があるのだが、リックはエデンというライブハウスを狙っていたため別物のようだが、様子が似ている。彼らの一部はルーマニアから昔の共産国家から逃げてきた移民の子孫や、南米、対岸の北アフリカや無政府のソマリアやエリトリアから来た者もいて、それぞれがギャングのようなコミュニティを作り、縄張り争いをしているという。その中の1人であるエンツォという少年が
「俺の爺ちゃんが元カルチョの代表選手だったんだ。元はウルグアイの代表だったらしいんだけど、ムッソリーニの時代に無理矢理イタリアに連れてこられて、強制的にイタリア代表に入れられて、そこで怪我したらお前いらねーってこの国に取り残されて・・・」
ソニックは
「ここは昔は南米辺りまで出てくのも多かったんだよな。なのに逆輸入もしてたって事か?」
と思い、他にも
「昔はスイスや旧ユーゴスラビアからさらわれた人達もいたぞ。」
と当時のファシズムを振り返る人物もいた。
「・・・何かむちゃくちゃだな。移民の他にそんな人達もいるなんて。」
ルーマニアで2万人のストリート・チルドレンを助けたばかりのWatts Towersだったが、新たに独裁者のやり方に気に入らない怒りを覚える。
「もし俺達がLAでのあのライブが起きていなかったら、アメリカでも・・・いや、もう起きてたんだ。ジョー達もその子孫じゃねーか。」
そして翌日、再び大型トレーラーの窓拭きに来る黒人の少年達が数名やって来る。彼らは「黒い兄弟」というコミュニティを結成しており、夜に物を盗みに来たエンツォ達とは違い、働くことに意欲的で、貧しいながらも何か小さな仕事を探して生きていると話し、窓拭きの他にも靴磨きや配達員、芝刈り等とにかく出来る事をやって日銭を稼いでいるようだ。因みにエンツォ達や他のコミュニティとは敵対しており、働きながらも邪魔をされ、いざこざが絶えないと話す。そのリーダーであるオットーというガーナから来た少年が話す。
「俺達は確かに貧しいし、よそ者だ。帰る手段もない。でもせめて全うに生きたいって気持ちはあるよ。カルチョの選手になれなかったのはもうしょうがないとしても、そこで他の生き方もあるって事は覚えられたんだ。こうして生計を立てて何か始めたいと思ってるんだけど、いっつも邪魔が入ってさ・・・」
オットー達「黒い兄弟」は、皆黒人である。だがマフィアとの繋がり等持たずに夢を探して生きていた。言ってみればソニックに出会った後のWatts Towersのようなものであった。ソニックは
「具体的に何かやりたいことあるのか?」
と尋ねると、オットー達「黒い兄弟」のメンバーの口から次々と本当にやりたいことが出て来た。ソニックは
「それなら俺達の財団が金出すから学校通ってみたら?」
と提案すると、オットーが
「やろうとしたけど無理だった。黒人はダメって言われて・・・」
と下を向いてしまった。そんな時、ある青年がソニックを見つけ声をかける。
「あれ?父ちゃん達じゃん。今イタリアかよ?」
声をかけたのはソニックの長男、誠剛であった。ソニックは
「あれ?誠剛!何でここにいんの?」
誠剛はアメリカのミシガン大学に進学していた。機械いじりの好きな元おもちゃドクターの息子は、車両に興味を持ち、中学生からGTの所に入り浸っていた。そして、動力に関心を持った誠剛は新しいエネルギーを探している未来の科学者の卵として頑張っていた。更に大学で仲間とベンチャー企業を立ち上げたばかりだった。そんな誠剛が
「大学の研修だよ。フェラーリとフィアットの工場見学。父ちゃん達は今からライブか?」
とソニックと傍らにいるオットーを紹介する。すると誠剛が
「・・・そうか。やりたい事があんのに踏み出せねーなんてな。」
と話を聞くが、誠剛は
「別にイタリアじゃなくても学校ならあるよ。」
ソニックは東欧でかなりの移民を出していたため
「またLAに送る羽目になるのか?」
とぼやくと、誠剛が
「ったく親父は頭固てーなー。アメリカにしか目が行かねーんだから。このヨーロッパにも学校なんていくらでもあんだよ。今調べてやるよ。」
とノートパソコンを取り出す。誠剛はオットー達に
「このパソコン、俺が一から部品かき集めて作ったんだぜ。スゲーだろ。」
と自慢する。誠剛は滅多にソニックや桜に物をねだらない子でもあった。与えられた物より自ら作り出す所は父親に似たのだろう。オットー達「黒い兄弟」のメンバー達は
「ほんとに自分でこんなハイテクなもん作ったのかよ?スゲーじゃねーか!」
と感心している。ソニックは
「こいつは君達くらいの年頃で近所の子供達のおもちゃ治してたからな。今じゃ部品さえ揃えば車も1人で組み立てられるんだぜ。」
と説明する。しばらくすると誠剛が
「あったあった。このイタリアじゃ少ないな・・・えーっと、フランス、ドイツ、スイス、ベルギー、オランダ、それと北欧辺りなら入れそーだよ。あ、北欧は消費税高いな。止めとこ。」
と調べてくれた。だが、オットー達は金がない事を告げる。すると誠剛が
「ならこっちで俺が会社作るよ。父ちゃん。コイツら全員俺が雇ってもいいか?大学通いながら会社立ち上げててよ。従業員いるんだよ。君らも働きながら学校通ってみねーか?」
「ウチの親父がよく言ってんだよ。やりてーことがあったら速攻動けって。もう夢あんならいちいちアメリカ行かなくても大丈夫だよ。働く気あんなら大歓迎だし、仕事なんて慣れだからよ。その内金も貯まるだろ。」
と誘った。オットー達「黒い兄弟」のメンバー達は、それより誠剛が組み立てたノートパソコンに釘付けだった。
「俺もそれ作ってみてー!出来るかな?」
と誠剛に尋ねるとあっさり
「出来るよ。君らの中にいるかもだけど、アフリカのルワンダって国はその精密機械作って経済安定させたんだぜ。だから出来るよ。俺が組み立て方教えてやるよ。」
と話ながら
「あー!そーだ!だったらPC組み立てる会社にしよう。それ、どう?」
とオットー達に尋ねる。すると全員
「やりたい!やりたい!」
と賛同した。ソニックは
「いいのかよ?お前研修は?」
と聞くと、誠剛は
「まだ来たばっかだから時間はあるよ。こっちに高校時代の連れもいて人脈もあるし頼んでみるよ。」
と心配ないようだったが
「でも、この人数だけか?もう少し人欲しいなー。」
とオットー達を見て話す。ソニックが
「そんなに雇って給料払えんのか?」
と問うが
「大丈夫。株で儲けたから。」
と即答。自分が戦っていた間に真っ直ぐ成長した息子を目の当たりにしたソニックは
「菜っちゃんといい、お前といい、頼もしくなったじゃねーか。」
と褒めると
「俺には母ちゃんがいたからだよ。菜月姉ちゃんだって父ちゃんがいたからだろ?人間褒めてくれる人や頼りにしてくれる人がいれば伸びるんだなって思ってさ。俺も姉ちゃんもそれになろーとしてるだけだよ。」
Watts Towersの一同が
「俺達もそーだったな。誠剛。オメーもちゃんと父ちゃんの背中見て育ったんだな。」
と感心していた。
そして夜、ミラノのアルカトラズという所でライブを行うソニック達Watts Towers。この日に臨時バイトとしてオットー達「黒い兄弟」に入場チケットを確認する仕事に就いてもらった。終わったらそのまま演奏をタダで聴いていいと言われ、彼らは意欲的に働いた。そして、ソニックが久しぶりに新たな「Sonic」を披露する。それは、「Jet」の応用形、巨大なタイヤが客席に転がり、場内を走り抜けるような「Drift」と呼ばれる新たな「Sonic」。9・11のライブ以来新型を発動していない実に20数年ぶりの「Sonic」であり、息子の誠剛や他の子供達が産まれてから久しく出していなかったモノだった。チケットを買って一緒に研修に来ていた大学の友達を誘って来ていた誠剛は
「おお!新種じゃねーか!これは初めての「Sonic」じゃねーか?」
と驚く。子供達が産まれてから今までどこか丸くなっていたソニック。だが、このヨーロッパに来て新たな問題と立ち向かい、そして成長した息子が自分の意志で誰かを救おうと戦っている姿を見て触発された様だった。この「Drift」が会場をチョロQのようにぶつかりながら跳ね返り続けていた。
ベースとドラムの
《ドゥン!》
《タタン!》
という軽快なリズムに合わせて終わりまで響いていた。
そして、ミラノを発つ頃、ソニックは誠剛に「黒い兄弟」の雇用を任せた。だが、その中に冷凍車の物を盗みに来ていたエンツォ達やルーマニアからの移民の他、様々なコミュニティの少年達が混ざっていた。彼らは「黒い兄弟」と敵対していたのだが
「こいつらには負けたくねー。だから働いてこいつらよりでかくなってやる!」
と野心を燃やしながら入ってきたのだ。誠剛は
「それが資本主義って奴だよ。とにかく頑張った分だけ給料やるからよ。切磋琢磨して頑張んなよ。」
と歓迎し、ビッグ・ジョーが誠剛に
「何かあいつら、NYのジャンボ・マックスみてーな面構えしてんな。ありゃ骨ありそーだから期待出来るぞ。」
と太鼓判を押した。
後に彼らは懸命に働き、PCを組み立てた技術やそれで得た知識を元にヨーロッパのIT業界を支えると共に、自らの夢を叶えて行くのであった。その中にギリシャで出会ったワリドの様に「21世紀ルネサンス」と呼ばれる人材を、この「元祖ルネサンス」の国イタリアから多数輩出するのであった。
何処かで成長したソニックの子供を登場させたかったので、この話にしました。因みに彼らソニックの息子達はソニック自ら護身術を伝授しています。




