第6話 闇の炎に集いし者
この話は残酷描写があります
更に数日後、焚き火を囲むファミリーが新たに11人加わった。彼らは燃やすゴミを無言でドラム缶の中に入れカタメ達と暖を取った。
【ロック・ベン・ムーア】
通称「ロッキー」
ワイオミング州ララミー出身。赤毛の豪腕。南米ボリビア出身。元鉱山師で高所に強い。何も使用せず外壁を登れる空き巣の常習者。ロス暴動の参加者
【サラナート・シン】
通称「イミダス」
カリフォルニア州サン・フランシスコ出身。印僑の子孫。シリコンバレーを経て移り住んでいる。特技は計算と金勘定。大卒の博識だが、その大学までずっと迫害されてきた。ロス暴動の参加者
【ジャック・デイビス】
通称「ジャッキー」
ジャマイカ出身。仕切りや司会が得意。音楽通。拾ったステカセを大事に持って、毎日ラジオを聞いて情報を得ている。
【ハミルトン・サンダース】
通称「サージェント(軍曹)」
ジョージア州アルファレッタ出身の元軍人。若い時湾岸戦争に参加し、撃たれて左手中指がない。地理に詳しい。30代前半でここでは年長者。ロス暴動の参加者
【カルロス・ジウマール・サントス】
通称「ジウ」
ブラジル・サンパウロから来た移民。黒人でレオとよく張り合う陽気な性格。カポエイラの達人。ロス暴動の参加者
【トニー・マルコス・セザール】
通称「トニーニョ」
ジウと共にブラジル・リオ・デ・ジャネイロから来た移民。裁縫が得意で小銭を稼いでいる。柔術使い。ロス暴動の参加者
【タイラー・マクブライド】
通称「マック」
ニュージャージー州アトランティックシティ出身。大酒飲みの肥満体。この中では一番長く住んでいる情報屋。アレックス同様拾った新聞や本を読んでいる。ロス暴動の参加者
【エドガー・ホプキンス】
通称「エディ」
オレゴン州ポートランド出身。暴力事件で大学を中退し、政治家の親に勘当されて流れ着いた。ITを操る知恵袋。近眼で眼鏡をかけている。ロス暴動の参加者
【バシリス・アポロストス】
通称「アポロ」
イリノイ州シカゴ出身のギリシャ系移民。ビロードのモヒカン頭。物流に精通する調達屋だが、盗んだ物も多い窃盗の常習者。ロス暴動の参加者
【ニコラス・ジョンソン】
通称「ニコ」
スキンヘッド。ペンシルバニア州フィラデルフィア出身。施錠荒らしの常習犯。握力最強でドアノブを破壊する程。武器は拾った鍵や釘等尖った物。ロス暴動の参加者
【シルベスター・ブルース】
通称「ブル」
ワシントン州シアトル出身。香港とアメリカ人のハーフ。まだ13歳だが、接近戦に滅法強いカンフー使い。カタメと同じ黄色人種。生真面目な性格。ロス暴動の参加者
彼らもまた、カタメと同じだった。この世にただただ産み落とされ、その日から迫害され、何とか自力で生きていき、逞しさだけは身につけた。だが、一人一人は強いが、社会という悪魔に身ぐるみを剥がされ全てを奪われた。自由も人権も何もかも奪われて、ここにいる。まるで人間達に野生の掟を奪われジャングルに住む獣の集まりだ。光を求めて日が沈む西へ夕陽を追いかけている内に、そこはもう太平洋という大地の終わりにぶつかり、行き場もなくこのワッツ・タワーの下で思い悩んでいた。自分はこの先何処へ行けば光にありつけるのかと。夜になり光が失くなると、既にゴングが鳴り、見えない敵、見えない誰かをただひたすら殴り倒す日々。時には凶器や銃弾が飛び交う日もある。そして誰かの「何か」を奪い合う。朝になれば自分と名前も知らない誰かが血だらけになって倒れており、傷も癒えずに太陽だけを見ながらまた夕陽が暮れるのを合図に再び戦い続ける。暇だなんて片付けられない。彼らはどうしたらいいのかわからずにもがいている。きっと太陽だけが答えを知っていると今も信じ続けている。太陽が沈めばまた戦わなくては生きて行けないのだから。
エデンの連中はその「何か」がドラッグだった。確かにドラッグは悪い。だが、彼らは悪くないと思う。ドラッグをヤル事が悪い事だと誰にも教えられない、教わる権利さえない。気がついた頃にはその快楽の誘惑に負け、ここにいる奴ら以上のクレイジーな事をしでかし、自分達が何をやったかなんてわかりもせず、記憶にも残ってないだろう。ドラッグとは人間から獣に退化させるシロモノだ。
(彼らの闇の中にドラッグを掴ませたこの社会が、大人達が悪いのではないか?そいつを叩き潰せば何か解決するのではないか?学校すら通わせないこの社会と何も教えてくれない大人達。被害者は俺達とこいつらなんじゃないか?)
カタメは仲間の話を聞いて思った。
また夕陽が暮れ、街中の奴らが暴れ出す。カタメと鉄司はアメリカに来て丸10日間何も食べていない。カタメの足下に太い胴体の不気味な模様の蛇が這っていた。カタメはドラム缶の中からまだ燃えてない木の棒を取り出す。それに巻き付いた蛇の頭を胴体から2本指で突き刺し無理矢理引きちぎる。暴れる胴体をよそにカタメはちぎれた蛇の頭を思い切りガン!と踏んづけた。蛇の胴体が動かなくなった。その蛇の胴体をドラム缶の炎で黒焦げになるまで焼き、食べた。その蛇の名称なんてわからない。太くて不気味な模様のその蛇に毒があるかなんて空腹で倒れそうな今のカタメにとっては知ったこっちゃない。飢えというのはそのような狂気を生んでしまう。真っ黒に焦げた蛇をクチャクチャ噛み締めて飲み込む。カタメは嘔吐しようとするが、口を無理矢理押さえて腹に戻す。他にも鳩等の野鳥、ザリガニ、野良鰐等を捕まえては食べた。肉食動物を食べ続け、カタメの人格が獰猛な野獣になっていく。瞳も猫のように細くなっていく。そしてカタメはニヤリと笑いながら言った。
「何でも焼けば食える。」
「人間以外食っていい。」
その姿を見たワッツ・タワーの面々は、カタメを見ながら
「こいつやべー。」
「関わりたくねー。」
「不味くねーのか?」
「本物の馬鹿だ。」
「ヤクでもやってんのか?」
「Jesus!」
「俺らよりキレてやがる。」
「あのガリガリの身体で、しかも重傷のはずなのに何処からあんなパワーが出るんだ?」
と口々に話していた。カタメは拾った鉄パイプ1つで野鳥を殴打し、野良鰐の背に鉄パイプを串刺し背中を強引に無理矢理裂き真っ二つにした。鉄治が
「それ、ワニ革だぞ。」
と説明しても、ハンドバッグの材料だという事もわかっていない。野良犬や野良猫も餌食となった。それくらいクレイジーにならないとジャンキーと化したエデンの奴らに太刀打ち出来ないとカタメは考えていたからだ。
時には鉄パイプに割れ瓶をくくりつけ海に潜り、魚や蛸、若芽等を取って食べた。因みにカタメはカナヅチで泳げない。カタメは衣類を鉄治に預け、足に拾った縄を結び鉄治に持っててもらい、限界まで潜った。それらを蛇を焼いたようにドラム缶の火で焼き、黒焦げにして食べた。
次第にカタメの声は海水の影響でしゃがれていき、長時間海に潜った事により、大きな声を出せるようになった。やがてカタメの傷だらけの身体は筋肉に覆われ締まっていき、髪や髭はみるみる伸びていき、まるでモンスターを見るかのように人々は離れていった。カタメの側でまともに会話出来るのは、日本から連れ出した鉄治だけである。見た目で言えば完全な浮浪者。そのような生活が3ヶ月程続いた。前述したカタメの「仲間」が合流するのはその後である。
カタメがふと腕時計を見た。エデンでとっくに壊されていた。日本から日付変更線を通り、ただでさえ日付がわからないのに、今が何月何日で、何時何分何秒すらわからない。カタメは自分も何もわからない1人になった事に気付いた。
カタメは満身創痍の身体だ。だが、そんなカタメの身体に変化が起きていた。左半身の火傷が発汗作用を奪い、逆の右半身に作用する。そして、カタメが毎日振り回している鉄パイプにはまるで何かが宿っているような切れ味がある。そのいびつに変化した身体から、カタメや鉄治がいう「何か」がこれから開眼する事になる。西に沈む太陽だけが知っているようだ。
鰐の肉は実際に食べられるそうですが、ロスには鰐はいません




