第5話 ワッツ・タワーのヤンキー達
この話からWatts towersの紹介になります
病院からワッツ・タワーに着くまで朝までかかった。包帯まみれでよろよろと歩くカタメに一同騒然とする。
「また戻って来やがった!」
「まだくたばってねーのか?」
「オメーはいったい何なんだ?」
「死神か何かに取り憑かれているのか?」
「このガキいつになったら懲りるんだ?」
その中にいる大柄な黒人青年がカタメに尋ねる。
「おい、オメー。どーしてここに戻ってくんだ?」
彼の名前はジョーダン・マグワイア。
通称「ビッグ・ジョー」。ワッツ・タワーの重鎮である。
カタメはワッツ・タワーの柵にガシャンともたれ掛かり、崩れるように座り込んだままボソッと答えた。
「ここしか!・・・・ここしか、帰るとこねーんだよ。」
するとビッグ・ジョーは一旦離れ、カタメに汚れた毛布を渡した。
「おい、これ被っとけ。ここは滅多に雨降らねーが、まだまだ冷えるぞ。」
そして周りのギャラリーに言った。
「おい、オメーらほっとけ。そいつ何にも持ってねーぞ。」
ボロボロの汚い毛布。カタメにとってそれは何より暖かかった。毛布を被り、カタメは久しぶりに悔し涙を流す。カタメはしばらく誰にも相手にされなくなった。
明くる日、カタメと鉄治は最後の金を持って買い物をする。購入したのはチタン入りの手甲と安全靴のアーミーシューズ。手足が負傷すれば演奏出来なくなると考えたからである。これで2人は全財産使いきった。完全に裸一貫となって次の勝負に挑む。流石に3回ステージに立ってこのザマじゃ何か変えないとと2人で話す。更に先の2品を買って金がないので別に仕事を探すか作るかしなければいけなかった。
カタメはどう見ても重傷。楽器を弾ける状態ではないし、指1本動かせないだろう。こうして生きてるのが不思議なくらいだ。自分がこいつを食わせなきゃと鉄治が動く。医者の話では、銃弾がカタメの腎臓を貫通し破裂したらしい。鉄治はほうぼうで仕事を探すが見つからない。途方に暮れてワッツ・タワーに戻ると、カタメが重傷の身体で何と火を起こしていた。足下に木片を挟み、拾った木の枝を立て、両手で挟み、何度も何度も回転させる。カタメの残された左眼はその1点しか見えてない。自分も何とか生きようとしていたのだ。
夜になり、ようやく火が付いた。ドラム缶の中にゴミを入れ、起こした火を入れる。すると、今まで暴れていた男達がその火の周りをぐるりと囲み、暖を取る。みんな光がなかったから暴れていたのだとカタメは気付いた。
(きっとエデンの奴らも同じだろうな?闇の中で何かに触られたら怖くて振り払うのは本能なんだろうな?ましてやエデンの奴らは闇の中で「ドラッグ」という得体の知れない物を掴まされてもがいている。この国に来て、自分の「何か」は知らないけど、やらなきゃいけない事がはっきりわかった)
とカタメは思っていた。
それから毎日、そのドラム缶の火を囲んだ男達12人。彼らがカタメの最初の仲間、ファミリーとなる。
【ジョーダン・マグワイア】
通称「ビッグ・ジョー」
アラバマ州モービル出身。身長195cmもある巨漢。車を持ち上げられる程の怪力を持ち、界隈の重鎮。ロス暴動の参加者。
【フェルナンド・ゴンザレス】
通称「ファルコン」
スペインのカタルーニャ地方出身。赤いキャップ帽がトレードマーク。俊足と高いジャンプ力を持つ盗人。ブーメランの使い手。ロス暴動の参加者。
【アパラチア・モーリス】
通称「アパッチ」
先住民族ナバホ族の血を引く。ナバホ・ネイション ウィンドウロック出身。大きめのパーカーがトレードマーク。風や気候、動植物に詳しい。通信や暗号解読が出来る。左腰にトマホークを持つ。
【ミッシェル・ソレイユ】
通称「ロケット」
フランス・ヴェルサイユ出身。好戦的で気が短いが、弱いもの苛めはしない好青年。両耳に大きなピアスを下げている。マウントを取る者を特に嫌う。ロス暴動の参加者。
【ジェームス・ジュノー】
通称「JJ」(ジェイジェイ)
テネシー州メンフィス出身。褐色の明るいムードメーカー。口達者で要領が良い。全身に刺青をしている。メリケンサックを所持している。ロス暴動の参加者。
【アレクサンダー・バノビッチ】
通称「アレックス」
ボスニア・ヘルツェゴビナ出身。内戦から逃れて来た難民。大人しいが鋭い観察力がある軍師。拾った新聞をいつも読んでいる。
【ライオネル・オルテガ】
通称「レオ」
南米コロンビア出身のサッカー狂。不法入国した父に置き去りにされた。金髪のドレッドヘアが特徴。バク宙等アクロバティックな動きをする。ロス暴動の参加者。
【リチャード・キーガン】
通称「キッド」
マサチューセッツ州ボストン出身。小柄なアイルランド系移民。キレたら止まらないバーサーカー。ボクシングをかじっており、素手での喧嘩は負けなし。ロス暴動の参加者。
【ゴードン・ギブソン】
通称「ゴッグ」
ミシガン州デトロイト出身の元整備士。ゴーグルとツナギがトレードマーク。機械と電気に強い。スクラップに置かれてある部品で様々な物を作る。
【ブライアン・レノックス】
通称「ブライ」
サウスダコタ州スーフォールズ出身。ビッグ・ジョーに次ぐ189cm の巨漢。聞き上手で調整が上手い。常に冷静で機転が利く。ロス暴動の参加者。
【ジュゼッペ・アルベルティーノ】
通称「アル」
イタリア・シチリア島出身。ナイフの天才で恐喝の常習者。幼少期に人買いにさらわれてこの国に連れて来られてきた。ロス暴動の参加者。
【ユルゲン・シュバイツァー】
通称「ジャーマン」
旧東ドイツ・ドレスデン出身。社会主義政権下の元、家族で移住したが、その家族に裏切られる。生真面目で手先が器用。ロス暴動の参加者。
焚き火を囲みながら、カタメは彼らに自分の事をたどたどしい英語で話した。迫害されて片眼を奪われた事、復讐に人を大勢殺し、故郷を破壊して檻に入れられた事、檻から出た後に出会った浪川家の事、音楽との出会い、この国に来た後自ら名前を捨てた事。そしてこないだのエデンでの戦いを。みんなカタメの話を聞いていた。そして、彼らが口を開く。
「ここにいる奴らはみんなそうだ。」
「お前と同じだ。何人も人殺しているし、檻に入って宛もない奴らばかりだ。」
「それでもお前は恵まれている。平和な国に生まれて学校に通えてたんだし、今やることがはっきりしてるからな。」
「俺らはそれすりゃねー。だから暴れてる。何で生まれてきたのかすら誰も何もわからねーし、居場所も気付いたらここしかねー。」
「訳もわからず人を傷つけて、物を盗んでとにかく今日生きようと毎日暮らしている。いいか悪いかそんな問題じゃねー。死にたくねーからやってる。」
「ここにいる誰もがどうやって生きたらいいかわからねーんだ。」
「俺達は3年前、この街で暴動を起こした。何人かはまだ刑務所に収監されている。」
「それに去年、この街で大地震が起きた。俺達ワッツ・タワーの住民には物資なんざ届いてない。この街に俺達は見捨てられたんだ。」
更に彼らの中には、迫害だけでなく、人種や肌の色を理由に学校にも通わせられない者を何人かいた。カタメはそれを聞き、自分はまだ甘っちょろい事を自覚した。日本ではカタメがアメリカに発った直前、阪神大震災が起きた。
(日本人は助け合ったというのに、こいつらは見捨てられただと?この社会はどんだけ腐ってるんだ?)
とカタメは思う。彼らは焚き火を囲みながら、カタメは彼らに聞かれた。
「お前、名前無いんならなんて呼べばいいんだ?」
カタメは視線を下にずらし、ポツリと
「カタメかナナシでいいよ。」
と返した。まだカタメには、「自信」というものがなかった。自らの存在を示す「自信」が。だから名前も名乗れない。恥ずかしくて言えやしない。それは日本では人殺しの名前だからである。
Watts towersは話が進むにつれ増員します




