第59話 戦争を潜り抜けた国
ソニックが白人同士の争いを耳にします
ハンガリーをあとにしたソニック達Watts Towersは、一旦南に進路を取り、クロアチアへ向かった。この国は、ソニックがアメリカに来た年に内戦をしていた国であった。オシエク、スプリト、ザグレブでの公演を予定している。この国の国土はまるで鋏のような形で、その鋏で挟み込むように、アレックスの母国、ボスニア・ヘルツェゴビナが存在する。
オシエクへの道すがら、一番後部を走っていた貯水タンク車のコンテナが
《ドガーン!》
という音と共に吹っ飛んだ。全員
「何が起きた?!」
と大型トレーラーを降りると、運転していたジェフと助手席に座っていたディオに怪我はなかったが、コンテナが跡形もなく吹っ飛び、火災を起こしていた。皆で火を消していると、消防車が来て無事消火されたが、ソニック達Watts Towersは消防士に
「道路標識見なかったのか?髑髏マークあったろ?ここは地雷の不発弾が埋まってる場所だぞ!」
一同肝を冷やし、血の気が引いた。この国は、40年ほど前に独立戦争を行っていた国であった。EU圏内とはいえ完全に油断していたのだ。次第に警察が来て聞き取り調査が行われた。ソニック達Watts Towersは、ここで足止めを食らう。ジェフとディオ、大型トレーラーの責任者コンボイが残り、ソニック達は先にオシエクへ向かい、ライブを行った。先程の顛末から「Burst」を使えなかったソニックは心残りがあった。
ライブを終え、次は南側のスプリトへ向かう。ここにも髑髏マークの標識があった。ソニックは
「戦争はまだ続いてるって事か・・・」
と緊張感を高めた。ここのライブでも「Burst」や「Combat」を使えず、消化不良のライブとなった。
そしてクロアチアの首都、ザグレブへ向かう一行は途中で爆発した貯水タンクを購入しようと、ザグレブ市内にある「プリマコシュペド」という運送会社により、新しいコンテナを発注していた。この会社で働くダボールという壮年の男性が見積もりを行おうとソニック達Watts Towersに応対する。そのダボールが遠い空を見ながら
「・・・俺の父はセルビア人で母はクロアチア人だったんだ。ある日突然親父がクロアチア人のお袋に暴力振るうようになって、その後俺の兄貴は35年前にそんな親父に無理矢理戦争に借り出されて死んでしまったんだ。元々は同じ国に住む人間同士だったのによ。突然セルビア人から敵視されるようになっちまってな。・・・兄貴はボスニア内戦で死んでしまってな。当時サラエボの住民達を狙撃する任務に就いてたそうだが・・・兄貴も不本意じゃなかったと思うよ。当時大学生で、将来は自分で車を組み立てたいって夢があってな。俺が兄貴の夢を継いだって訳だよ。」
と寂しそうに話す。ソニック達Watts Towersが「第2次ロス暴動」を行っていた時に、この国は別の戦いを強いられていた現実を知らされた。あの当時ソニックは
「この理不尽で滅茶苦茶な戦いはいつまで続くんだ?」
「どーして俺達はただ生きてるだけなのに、こんなゴタゴタに巻き込まれなきゃいけねーんだ?」
と思っていた。そして自分達に得な判決を下そうとしていた裁判官達に
「オメーら全員アメリカ人じゃねーのか?俺がこの国に来た時、そーとしか思ってなかったぞ!」
と言い放ったのを思い出した。彼らはユーゴスラビア人から、独裁政権が終わった直後からクロアチア人へと考えを改め、セルビア人やムスリム人を敵視するようになったという。ダボールはその時点で父のセルビアを取るか、母のクロアチアを取るかの選択に迫られていたという。ソニックは
「ユーゴスラビア人じゃダメだったのか?」
と尋ねると、ダボールが
「あの当時、そんな事言ってたら今頃俺はこの世にいねーよ。どちらかの選択を迫られたんだ。まるで脅迫されるかのようにな。兄貴が親父のセルビアに引っ張られたけど、その兄貴が俺に「母さんを頼んだぞ。」って言い残して戦場に行って死んでいった。俺はここザグレブに住んでいたってのもあってクロアチアを選んだのさ。親父がお袋にDVやってたってのもあって守ってあげなきゃいけねーからよ。」
ソニック達Watts Towersは、自分達みたいに人をひとくくりに出来ない現実を知る。ダボール達クロアチアにはアイデンティティがあり、分離独立した他の国々も同様だった。この旧ユーゴスラビアは
「7つの国境、6つの国家、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字」
と表現されるほど複雑な国家であった。現在では7つの国家が分離独立しており、特に隣国のボスニア・ヘルツェゴビナは民族が共存しており、セルビアに付くか、クロアチアに付くかの選択を迫られていたというのがボスニア内戦の一因でもあった。
「そりゃアレックスもジャーマンも帰りたくねーわな・・・」
とソニックは思う。アレックスは青春時代にこの内戦に巻き込まれており、両親を殺され単身でLAに逃れてきた。ソニックがアメリカに来る丁度1年前の事だとビッグ・ジョーは話す。ソニックは
「ある日突然俺らそれぞれが国から敵だって言われたらどー思う?ワッツ・タワー以後の事でよ?それが国からの圧力ってスゲーな。」
と皆に話す。ダボールが
「俺だってそうしたかったんだ。でもそれは今でも許されていない雰囲気さ。それほど当時は狂気に満ちてたって事よ。」
ソニックは
「こっちでは白人至上主義ってのが渦巻いててよ。・・・そんな白人でもいろいろあるんだな。あんたやお袋さんはそれでも幸せか?」
と尋ねる。ダボールは
「戦争が終わっただけ幸せさ。今はこうして会社勤めも出来てるし。母もあれからクロアチア人の男性と再婚して上手くやってるよ。俺もクロアチア人と結婚してるからな。でも、子供達にはそういう話はしないんだ。偏っちゃうといけねーからさ。」
と笑いながらも少し寂しげに話していた。ソニックは安堵し
「そんな戦争を経験してもしっかりした考え持ってんだな。あんたスゲーよ。」
とダボールに話す。そして
「辛いこと話させて悪かったな。今度この街で俺のライブ来てくれねーか?家族の分もチケットやるからよ。」
と話すと、ダボールが
「友達も連れてっていいか?少数だけど同じ考えで内に秘めてる奴らが何人かいるんだ。それにソニックみてーなミュージシャンが来るなんてこの国じゃ滅多にねーからさ。頼むよ。」
と言うと、ソニック達Watts Towersが
「大歓迎だよ。まとめて連れてこいよ。」
とチケットの束をダボールに渡す。
そしてザグレブ市内にあるトヴルニツァ・クリトゥレにダボールが家族や友人を連れてやって来た。この日DJを務めるジャッキーが
「オメーら!このライブは戦争じゃねー。「Sonic」だ!楽しくやろーぜ!」
とMCを行う。そしてソニック達が入場する。
《ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!》
鉄の入ったアーミーシューズと、腰に下げた2本のドラムスティックが重なる音が場内に響き渡る。だが、このザグレブではこの音に不快感を持つ者もいた。ソニックの下半分の衣装は軍服にも似ていたからである。ソニックはステージに上がると
「俺は銃や兵器なんて持ってねーよ。あれダセーじゃん。安心しな。」
とエレキギターを構え、「Jet」を放つ。
《キーン!ビュン!》
このライブでは、戦争を思い返す「Burst」や「Combat」は使えない。ソニックはこのライブに限って「Magnet」を中心に演奏した。どんな民族でも引き込み包み込む「Magnet」を多用しながら、「Jet」と「Volt」を中心に音楽に乗せ放っていく。
《グイッ!》
《ヒュン!》
ソニックが「Magnet」でステージ側へ引き込み、一瞬の軽い「Jet」を辺り一面に一瞬で放つと、オーディエンス達に火が付いた。
《ビカッ!バリッ!》
《ドゥンドゥンドゥンドゥンドドドゥンドゥンドゥン》
《シューン!》
いつもよりかなり強弱に気をつけ、丁寧に「Sonic」を放っていく。ソニックはマイクを握り
「民族なんてどーでもいいからよ。自分自身と戦えよ!戦わなきゃいけねーのは自分自身の中にあるんだ!それに負けるなよ!」
「・・・俺の仲間にはこのヨーロッパツアーに参加したくねーって仲間がいる。そいつはここ旧ユーゴの出身で民族同士の争いが嫌でLAに逃れてきた。・・・別になに人だっていいじゃねーか。民族の優位性持ってる奴なんて、俺らの国に巣くっていた白人至上主義者と変わらんぞ?もっとも俺らはここに来る前に成敗してきたがな!」
と言い放つ。それに呼応したオーディエンスが
「俺達はそんなモンとっくにどーでもいいと思ってるわ!俺らの親世代の頑固ジジイの戯言だ!オメーに言われなくても解ってるさ!」
ソニックはそれを聞き
「いいじゃねーか!最高だよ!オメーら!今日は特別だ!久々に朝まで演奏すっからな!付き合ってくれよ!一緒に下らねー世の中音楽でぶっ壊そーぜ!」
とこの国に来て初めて「Burst」と「Combat」を放つ。熊襲太鼓を叩き
《ボワッ!ゴオッ》
《ダッ!ダダダダダダ!》
オーディエンスは
「これを聴きたかったんだ!あんたも遠慮なんてしねーでいつも通りやれよ!」
とソニックを励ます。ソニックはニヤリと笑い
(戦争経験したってのにタフな連中だ。)
と惜しみなく「Sonic」を朝まで放ち、オーディエンス達も大いに盛り上がった。
2日目のモチュヴァラでのライブも同様に行い、クロアチアでの公演は終了した。ソニックは「旧東側」でのライブはどこかモヤモヤしながら行っていたが、ここに来て充実感に浸っていた。
そしてクロアチアを発つ前にダボールから発注した貯水タンクのコンテナが届き、大型トレーラーに接続する。ダボールに
「俺達の国は戦争やってたけど、今の若い奴らも捨てたもんじゃねーだろ?俺達は大丈夫だ!この国で幸せに生きていくよ。」
と話し、ソニック達Watts Towersは
「このヨーロッパツアーでも最高のライブが出来たよ。お前らのおかげでな。」
と握手を交わし、去って行った。今まで「旧東側」では様々な問題と直面してきたソニック達Watts Towersは、ようやく充実したライブが出来、戦争を潜り抜けた人々のタフさに勇気づけられたのだった。
この話では一部のサッカー選手の話を参考にしています




