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第58話 誇り高き黄色人種

今回は別の差別を目の当たりにします

 ブカレスト・ノルド駅前での公演が終わり、ソニック達Watts Towersは次の国、ハンガリーへ向かった。この国での公演は少し変わっており、デプリツェンで2日、ブダペストで4日というスケジュール。ブダペストは元々ブダとペストに分かれていた都市であった為である。


 この国はヨーロッパの中でも一風変わっており、先祖はソニックや鉄治、ブルと同じ黄色人種、フン族の末裔達であり、かつてヨーロッパを分断する程の勢いを持っていたが、隣国オーストリアとの共同国、旧東側を経て、比較的早くEUに加入したものの、オルバーン政権が長きに渡り親ロシア側に付いてEUと対立しており、ソニック達がここに来るついこないだまで


「周辺国や権力者に振り回されている国」


であったが、2年前の政権交代により一新された、旧東側の中では比較的安定した国に生まれ変わろうとしていた。ソニックはこのオルバーン政権を


「アッティラみてーなもんじゃねーか?あの人ウラル山脈から来たんだろ?」


と認識していたが、別の角度から


「俺ら黄色人種は怒らせると怖えーからよ。血の気が有り余ってんだよ。俺のいた日本もそーだけどよ、モンゴルとか、何か1回導火線に火付いたら止まれねーとこあってよ。この国の人達も似たよーなもんだよ。」


とWatts Towersの仲間達に話す。


 大型トレーラーに乗りハンガリーの道路を走る。あちこちに噴煙のようなものが上がっていたが、住民達は


「あれは湯気だよ。この国は温泉で有名なんだ。」


と説明してくれた。ジェフやバロンが


「せっかくだから入ってこーぜ。」


「ここで有名な温泉は何処にあるの?」


と尋ね、セーチェーニ温泉を紹介されたWatts Towers一行はブダペスト市内にあるセーチェーニ温泉へ向かった。ギリシャやルーマニアで疲労していた皆はセーチェーニ温泉で疲れを癒やそうと温泉に入る。ここでバズが


「・・・ここって男女分かれてるのか?」


と聞く。バズは性適合手術を終え、現在は完全に男として暮らしており、2015年のオーバーグフェル対ホッジス裁判により、一般女性と結婚を果たしていたが、まだ自信が持てずにいた。性適合手術の際には、ソニック達Watts Towers全員が脚の筋を全員バズに提供しており、見事に成功した。


「オメーまだ気にしてんのかよ?ここは水着で男女混浴だってよ。」


とジェフが話し、ほっとするバズ。だが、その温泉内で事件は起こる。


「おい!オメー女だろ?!」


と男の怒号が飛ぶ。ビクッとしたバズだったが、別の人物であった。


「違げーよ!俺は男だ!」


「嘘つくな!竿も玉も付いてねーだろ?!」


その人物はオールインワンの水着を着用してはいるが、小さな乳房が膨らんでおり、入浴していた男性客数人と口論になっていた。バズが


「この人が男だって言ってんならそーだろ?」


と食ってかかる。荒っぽい男性客がバズを突き飛ばした瞬間、ソニックや数名のWatts Towersがキレた。


「おい!オメー!俺の仲間に何しやがんだ!」


と72名でわっと立ち上がると、男達はびびって去って行った。次第に従業員が駆けつけ、


「オタクら揉め事は他でやってくれませんか?」


とソニック達Watts Towersが怒られたが、一同


「すみませんでした。」


と全員頭を下げるが、バズだけはイラッとしていた。


この温泉にしばらく滞在していると、さっき絡まれていた人物と偶然再会し、礼を述べた。彼の名はルカ。バズと同じでこれから性適合手術を行い男になるという青年であった。


「あの・・・さっきはありがとう。」


とバズに謝る。バズが


「もっと筋肉つけた方がいいよ。乳房無くなるから。」


と助言するが


「これでも鍛えてんだよ。でもなかなか付かなくてさ。食べ物も必要以上に食いまくってるのに、何でなんだろう?」


と返答する。更に


「この国じゃ俺みたいなのはバイ菌扱いさ。さっき君達も見てただろ?オルバーンのヤローが性転換禁止なんて法律作ったから、今まで出来なかったのをよーやく始められたんだ。こないだまでもっと屈辱的な事されてたんだ・・・俺は男なのによお・・・」


涙するルカだったが、バズは


「だったら何で泣いてんだよ?1人でも戦えよ。それが男だ!」


と厳しい言葉を浴びせる。更にバズはルカの顔面を殴る。


「男なら立てよ!やり返してこいよ!下向いてたって始まらねーだろ?殴られてちくしょーって思うのが男の性だろ?血の気が多いのが男だろ?戦わねーならいつまで経っても変わらねーぞ!」


「・・・俺だってソニック達の中にいなかったらお前と同じだったよ。俺はそんな中でも男として戦ってきたんだ!こいつらに守られてきたんじゃねー!一緒に戦ったんだ!男としてな!」


と言い放つ。ルカがバズに殴り返しながら


「俺にはお前みてーな仲間なんかいやしねー!親兄弟や周りの奴ら全員敵だったんだ!今までわかってくれる奴なんて何処にもいなかったんだ!お前らアメリカの奴らにわからねーだろ?自由が許されてるんだからな!」


とセーチェーニ温泉一帯に響き渡る怒鳴り声でバズに言い放つ。バズが


「だったら今から俺達が仲間だ。それと、世の中全員敵だって思ってたのはオメーだけじゃねー。俺もこいつらも最初はそーだったんだ。ちゃんと腰入ったいいパンチしてるじゃねーか!それでいいんだよ。」


とルカに手を差し伸べる。ソニックは


「こいつも10年くらい前に手術終わったばかりでよ。そん時男になって結婚したんだ。そんな直ぐ解決出来るよーな問題じゃねーんだ。バズだって俺と初めて会った時から20年後に実現したんだ。俺らに出来る事ありゃ協力すっからよ。言ってみろよ。バズは俺らの親友だからよ。そいつが仲間だって言うんなら俺らも仲間だからよ。」


とルカに話す。


 ソニック達Watts Towersは、大型トレーラーの中でルカの話に耳を傾ける。


「・・・俺はずっと男だと思ってたんだ。なのに親父もお袋も俺にドレスなんか作って着せよーとしやがるし、成長すりゃ学校で胸揉まれてよ。さっきみてーにぶん殴ってやり返したら全部俺のせいだよ・・・お前が異常だから、頭が病気だから病院行けだの差別されて育ってよ!さっきだってそーだ。どいつもこいつも俺のこと変な目で睨みやがって!こんな世の中、オメーらみてーにぶっ壊してーよ!」


ソニックは


「それは止めとけ。」


と止める。ルカは


「どーしてお前らがよくて俺がダメなんだ?」


と返す。ソニックは


「・・・実は俺も祖国でそー思って大勢人殺したんだ・・・お前とは理由は別だけどよ・・・あん時の俺はもうそーするしかねーって思ってたからよ。だけど運良くこいつらと出会って考えが改まったんだ。お前にはもう俺らがいるだろ?だから戦うのはいいとして、ぶっ壊すのは止めとけよ。それやんのはヒトの心1回捨てなきゃなんねーのよ。そーなってほしくねーからよ。」


と諭す。ルカが困惑し


「だったらどー戦えばいいんだよ!お前らだってもーすぐこの国からいなくなるんだろ?」


と返すが、ソニックは


「ここ(頭)使うんだよ。お前も俺と同じ黄色人種だろ?俺ら黄色は一旦怒らせると怖えー種族だからよ。キレたら止まんねーのは同じだと思うぞ?それにお前らマジャール人は頭の回転早いだろ?だから尚更頭脳で戦うんだよ。」


ルカはエトヴェシェ・ロランド大学を受験し、筆記試験にトップ合格するほどの秀才であったが、面接で性自認の話しをしたら不合格となり、両親からも迫害されたという。それを聞いたソニックは


「なんだ。オメー頭いいんじゃん。なら理解ある国の大学入って勉強すればいいよ。金ならウチの財団が出すからよ。」


と理解すると、ソニックの義弟スコッチに連絡する。ルカにUCLAの入学は可能かと確認の電話をすると、


『えーっと、今ならギリギリ受験出来るよ。そいつパスポートは?こないだこっち着いたルーマニアの連中達とは違うのか?』


『違う違う。隣のハンガリーの奴でよ。スゲー頭いいから恐らく受験は問題ねーと思う。ただ、ウチのバズと同じ奴でさ。それでだよ。』


スコッチは1発で納得し


『なら今すぐでもいいんじゃねーか?早くしねーと締め切られて来年って事になるぞ。』


ソニックはルカに確認する


「向こうは今すぐって言ってるぞ。逃したら来年って言ってるけどどーする?」


ルカは


「今から行きたい!パスポートはもう持ってる。それより向こうで学費と住むとこどーすればいい?宛てなんてねーぞ。」


するとバズが


「ならウチに住めよ。ただし、俺の可愛い妻には手出すんじゃねーぞ。」


と住居もあてがわれたバズは迷わず


「LAに行くよ。バズ、ソニック。皆ありがとう。」


と礼を述べた。ルカの新しい人生が始まろうとしていた。そしてバズは


「その前に俺らのライブに来いよ。これからやるからよ。それ聴いてからでもいいだろ?」


とチケットを渡す。


 それから4時間後、ブダ側にあるGarden Kobuciでのライブ後方にルカの姿があった。バズがプレゼントしたスカジャンを着て現れたルカは、ソニックの放つ「Jet」に


《キーン!ギュン!》


と心を貫かれ、一瞬で燃え上がり拳を突き上げ、終わりの頃にはアリーナまで来て初めての「Sonic」を堪能した。ルカはソニックを男として惚れたのであった。


 そして翌朝、ルカはバズとソニック、Watts Towersに礼を述べ、アメリカへ旅立っていった。そのルカは、家を去る前に今まで迫害してきた両親や地元の連中を全員ぶん殴って出て行ったと話す。ソニックは


「昔の俺みてーな事したのかよ?まあいいや。今度会うときはそいつら跪かせてやれ!そんな時がお前が見る世の中が変わった時だと思うからさ。」


と話していた。バズは


「今の俺やルカみてーなのが世の中に大勢いるんだよな。あいつも幸せになってほしいな。」


とポツリとこぼすと、ジェフが


「おい!しみったれた事言ってんな!コンボイ!もう一回温泉行くぞ!バズのあそこ洗い直さねーといけねーからな!」


と冗談交じりで話す。そんな笑える仲間がいるから幸せなんだろうとソニックは心の中で思いながら


(差別っていろんな形であるんだな。今までの移民と政策だらけでうっかり見落としてたよ。)


と心に刻んでいた。

バズは第8話の熊を食べた時から登場し、第44話で女→男に変わった人物です。あまり物語に登場しなかったのですが、しっかりWatts Towersの活動に参加してきました。いつかは題材にしようと思っていたので今回クローズアップしました。

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