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第56話 国家が捨てた名もなき少年

ソニックが大問題を抱え、基本に戻ります。その前編です

 ソニック達Watts Towersはブルガリアでの公演を終え、次の国ルーマニアへ向かった。首都のブカレスト、コンスタンツァ、ティミショアラでの公演を予定している。


ブルガリア同様に静かでのどか、そして不気味さを持った空気。「旧東側」とはこんなものなのだろうと、コンスタンツァでの公演を終えたソニック達Watts Towersは、ルーマニア2番目の公演先、ティミショアラへ向かう。ここでソニックはある単語を耳にする。


【チャウチェスクの落とし子】


1989年のルーマニア革命の発端となった共産党政権に対する蜂起がティミショアラで始まり、1週間後にチャウチェスク政権の崩壊とルーマニアの自由化へと繋がったが、チャウチェスクが独裁政権を強いていた時代の強制的な出産奨励や人工中絶中止政策により、政権が倒れ貧困生活を余儀なくされた親が育てられなくなった孤児達は劣悪な環境に放置され、約10万人の子供達がストリートストリートチルドレンとなり暮らしている。現在では国際的な支援がなされ、大幅に減ってはいるが、未だにその暮らしから抜け出せない子供達が存在する。多くは成人し、ホームレスとなって現在に至る


 ティミショアラでの公演が終わったソニック達Watts Towersは、首都ブカレストへ赴く。するとそこには、ギリシャで出会ったワリドのように窃盗や置き引きをする少年達がいた。ソニックは


「・・・ここもかよ。」


と思っていたが、程なく警察に逮捕される少年達。ここに通りすがりの人物が現れ彼らを庇うが、その人物が今度は警察官達にボコボコにやられていた。一部始終を見ていたソニック達Watts Towersは、


「おい!そのガキ共は悪いけど、こいつは悪くねーだろ?」


と警察官達を止める。警察官達は


「こいつロマだぞ!」


とリンチを止めない。


「だったらなんだ?!」


「ただの旅人じゃねーか!俺らと同じだ!」


とイビルとディアブロが食ってかかる。この2人はバスク出身でロマを熟知している。そしてソニックが


「俺達は数年前に自由の国に巣くった威張り腐ったプレジデントを成敗したんだけどよ。今度はオメーらを成敗してやろーか?この人はどー考えても悪くねーだろ?」


と言いながら、警棒で地面に「Jet」を叩き付けると、警察官達はびびって去って行った。その彼はエルトンという名のコソボから来たアッシュカリーという民族で、今はこのルーマニアへ流れ着き、先程のような少年達を庇い、旅をしているという。


「あんた旅人だろ?何であいつら助けたんだよ?」


と尋ねると、エルトンは


「・・・あーいう少年達は祖国でも、このヨーロッパでも腐るほど見てきたんだ。・・・でも、俺もそーだけど、何かほっとけなくてよ。もちろん悪いことしてる奴だってのは理解してるよ。たださ。あいつらそれも知らず生まれ育ってきてるんだぜ?親の顔も、自分の本当の名前も知らずにさ。・・・だから俺に出来る事なんてあんな程度さ。・・・俺も難民みてーなもんだしさ。」


Watts Towersが一同揃って


「それは俺達も同じだったんだ。こいつと出会うまではな。」


とソニックを指さす。そんなソニックも


「俺も片眼奪われて、こいつらと出会って変われたんだ。あんたアッシュカリー・・・って呼んでいいのかな?てことは音楽やってんのか?」


エルトンは


「オルガンとかアコーディオンなら出来るよ。ただ持ち運べないじゃん。」


それを聞いたソニックはスタジオ車からあるものを取りに行った。菜月が小学校の時に使っていた鍵盤ハーモニカである。それともう一つ。いつも練習で使っている充電式の折り畳み電子ピアノをエルトンに渡し、


「あんた曲書けるか?書けねーなら俺の曲でも弾いてあいつらに聴かせてやってよ。音楽はタダだからよ。試しに何か弾いてみてくれねーか?」


とエルトンは旧ユーゴスラビアの曲「なんと素晴らしいセルマの体」を演奏する。ソニックはその曲を知らないが、一度聴いただけでベースを取り出し、エルトンとセッションして合わせていく。すると、さっき窃盗をしていた少年達が集まってきて、路上ライブと化した。ソニックは


「見てみなよ。みんなあんたの曲聴きに集まってくるだろ?」


どんどん集まってくるストリート・チルドレンの数。Watts Towersの皆が


「・・・どこにでもいるんだな。昔の俺達と同じ奴ら。」


と思い、一緒に盛り上がったり、彼らの話を聞いていた。ソニックは


「もうブカレストでライブやる必要ねーんじゃねーか?」


と思うほど群がってきた。

 

 そのどさくさに紛れて大型トレーラーの食糧車から、冷凍されている肉塊を盗みに少年達5人がミグとハルクにシメられていた。


「どーゆーつもりだ?ガキ共!」


そんな彼らにソニックは


「その食いもんくれてやってもいいけどよ?その後どーすんだよ?」


と尋ねると彼ら5人は下を向き、何も言えずにいた。今日食べていくのに精一杯だということは、ソニックもWattsTowers達も痛い程わかってはいたが・・・


ソニックとエルトンのセッションを聴きに来た彼らは親や周囲の人物、世の中に迫害され生きてきた。激しい差別やネグレクトを受けたのはソニックやエディ、バルカン、ギャリー、ランボー、ベガ、ムスタング、こないだ帰国の途に着いたパイレーツ。今回来なかったジャーマンやアレックスと同じであった。それもWatts Towers74人の3倍はいる人数に


「片眼奪われた俺と同じ思いをしてる子供達がこんなにいるのかよ?」


と驚く。彼らは名前と祖国を捨てたソニックとも、こないだ助けたワリドみたいな祖国と故郷を奪われたのとも違う。今度は


「祖国も故郷もあるのに、名前も親も知らない少年達」


であった。この中に自分の本名や親の顔を知る者は誰もいなかった。正真正銘の孤児達が200人くらい目の前に現れたのだ。それはこの国の元独裁者が強いた政策がバックにあった。彼らはその犠牲者である。ソニックは彼らに


「俺達は今夜と明日の夜、この街でライブやるんだ。それ終わったらまたここに集まれるか?お前らタダで聴かせてやっからよ。その代わりその間は盗みとかすんじゃねーぞ。俺もお前らの今後のこと真剣に考えっからよ。特にそこの奴ら何人か!オメーらクスリやってんだろ?匂いでわかるぞ。」


彼らの数名は「オーロラック」と呼ばれるシンナーのようなモノを吸っていて強烈に匂っていた。ソニックはシャツを脱ぎ


「俺の身体はな。そーいう連中に傷つけられたんだ。マジで止めねーと脳ミソ溶けて人からモンスターに化けんぞ。」


と忠告した。


 その後ソニックは彼らのことを考えており、エルトンやWatts Towers達と話していた。


「・・・あの人数じゃ流石に菜っちゃんに頼めねーよな。」


「エルトンがここに孤児院作れねーのか?金は俺らの財団で出すからよ。」


「俺は無理だ。ここじゃロマって呼ばれてるからな。場所さえあればいいんだけど・・・」


エルトンは昔、コソボでギムナジウム(小学校高学年~高校年代)の教師をやっていたらしく、紛争から逃れ、欧州を転々とし、このルーマニアへ流れ着いたのだという。オルガン等の楽器が弾けるのは職業上の事でもあった。何となく話がまとまっていく。


「エルトン、あんたもう一度先生やらねーか?」


エルトンは黙り込む。


「・・・あいつらパスポート取れねーよ。どーやって連れてくんだよ?」


こないだのワリドは1人で、しかも夢を持っていた。だが、彼らはそれすらない。第一、人を信用しない。更に字も読めない学業不良児である。ソニックもWatts Towersもそこは昔と共通していた。


「俺らもそんなだったよ。ソニックみてーな強烈な個性持った奴がここにいれば簡単なのにな。」


ここでソニックがふと


(ん?待てよ?強烈な個性・・・あいつら人を信じない。字も読めない・・・つまりこれから何かを信じることが出来る。言葉を英語から覚えられる。・・・エルトンが鉄兄ぃの立場だとして、あいつらをWatts Towersに置き換えるとすると・・・)


ファルコンが


「ん?何考えてんだ?オメー。難しいツラして。」


ソニックが


「なあ、オメーら、何で今まで俺に付いてきてくれたんだ?」


と話す。ビッグ・ジョーやコンボイが


「今更何言ってんだよ?面白れーからに決まってんだろ!」


「あの時の俺らが考えられたかよ?ここにいる奴らと同じ能力だった俺達があの暴君を俺らの力でぶちのめしたんだぜ!」


ソニックが


「そーだよな。あの時はマジで面白かったよな!今もだけどよ?」


 もう夕方になっていた。その時、どこからかピアノの音が聞こえてくる。ソニックは


「この曲は確か・・・」


このピアノ曲は、ソニックがまだアメリカへ来て一週間経ち、瀕死の重傷でトーランスの道端に倒れた時、妻となる桜が弾いていた「アラベスク」であった。ソニックはこの曲を聞き、「死にたい」から、「ぜってー生きてやる!」に変わった思い出の曲である。ソニック鉄治に


「あんちゃん。このシチュエーションどっかで覚えねーか?」


鉄治はわかっていたが


「でもよ?オメーどーすんだよ?」


ソニックはニッコリ笑って鉄治とWatts Towers達に


「いつも通り、コイツらに元気と勇気を与えんだよ。エデンのあの頃みてーにな。」


一同


「なるほど!」


と納得していた。もうWatts Towersも成長し、立派な大人になっていた。どん底から抜け出したソニック達Watts Towersには、今ここでやるべき事は言われなくてもわかっていた。鉄治がエルトンに頼み


「よーし!割り振り決めんぞ!エルトン。あんたは出来るだけ大勢ストリート・チルドレンをコイツらと集めてくんねーか?飯食わせるからって言ってよ。」


と、エルトンにアルとジウを同行させ、人を集めに行った。あのLAでのライブから3年経ったソニック達Watts Towers。このヨーロッパで最初のバトルステージを整えようとしていた。




 







難解な問題なので2部構成になります。

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