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第55話 うなだれる薔薇

旧東側へ入ったソニックが現実を突きつけられます

 ワリドを乗せたアーチボルト・ロウ号をマルタに向かわせたコンボイ主導のWatts Towersは一路ブルガリアへ入国する。ここではプロヴティブ、ソフィア、ヴァルナの順で公演を行う予定である。あまり経済が安定しておらず、チケット代は格安に設定している。


 何処かのどかな風景と、思った以上に快適な気候。EUに加盟したものの、元共産国家の名残が何処か消えずにいるこの国でソニック達Watts Towersは


「せめて音楽で元気にしてあげよう。」


と思いながらプロヴティブに到着。ここで2日間の公演を終えたソニック達Watts Towersは次の場所、ソフィアへ向かう。


 ソフィアでは、ソニック達Watts Towersがラス・ベガスで共演や対バンをしていた世界中のミュージシャン達が集結していた。その中に今回Sonic Los Angelesも加わり派手にやろうという小規模のロック・フェスが行われる予定である。


 その途上に薔薇の谷と呼ばれるバルカン山脈に面した場所があり、現地の女性達が薔薇を摘んでいた。ソニックは


(のどかだなあ。)


とスタジオ車から眺めていると、何故か女性達は薔薇を摘み終わった後も下を向き、うつむいている。ソニックは


(腰でも痛いのかな?)


と思っていると、女性の1人がそのまま倒れ、それを見たショックで連鎖的に次々と女性達が倒れていく。見過ごせないソニック達Watts Towersは彼女達に近寄る。どうやら貧血のようだとドクターが診断する。訳を話すと


「満足に病院に行けてない。」


と口々に話す。


「飯食えてんのか?」


とソニックが尋ねると、


「毎日食べていくので精一杯です。」


と返答する。ここは医療財政難であり、医者にかかっても医薬品の不足や老朽化した医療設備に頼る事が多く、治る病気も治らないと話す。また、経済危機に瀕しており、病院へ行ける者は少数だと話す。


「・・・欧州はアフリカや中東と違って平和だと思ってたけど、そーでもねーんだな。」


とソニックは思う。実際に隣国のセルビア等旧ユーゴスラビア圏内の数カ国はライブどころではなく断られていた。この事を義兄のデイブに電話で話す。すると


「俺やスコッチも困ってんだよ。薬なんて簡単に輸出出来ねーからさ。それはお前もわかってんだろ?」


確かに、薬といえばメディシンとは限らない。ソニックにとってクスリはドラッグでもある。もやもやしたまま彼女達を家へ送り届けると、ソニック達Watts Towersは彼女達の家を訪ねびっくりする。そこには、昼間から酒を飲んでいる男達が暴れている。つまり、妻や娘達に働かせ、自分達は働かず楽をして暮らしていたのだ。俗に言うニートである。ソニック達Watts Towersがキレだし


「おい!オメーんとこの女がこんなになってんのにオメーは何やってんだ!」


と怒鳴る。男は


「うるせーな!仕事がねーんだからしょーがねーだろ!」


と呆れた返事をする。


「なら一緒に薔薇摘むの手伝えばいいだろ!」


と説教をかますが


「あれは女の仕事だ!大体オメーら何者な・・・


と話してる間にソニックの怒りの「Volt」を足下にお見舞いする。


「俺はアメリカから来たSonic Los Angelesだよ!オメーら五体満足なくせに何で働かねーんだ?女に食わせてもらってるダセー男はヒモって言うんだよ!オメーらヒモはその気になりゃちょん切れんだよ!恥ずかしいと思わねーのか?」


男達はそれでも


「しょーがねーだろ?働いたって給料上がらねーんだからな!何が資本主義だ!笑わせるな!共産国家だった昔と変わらねーじゃねーか!」


と矛先を国の政策に向ける。だが


「そう思うならオメーが政治家になって国変えりゃいいじゃねーか!人のせいにばっかしやがって!それとも何か?今度は神のせいか?」


とソニックも折れなかった。実際にソニック達Watts Towersが運んだ女性達はしばらく働けないだろう。倒れている女を尻目に冷たい視線を送る彼らを許せなかった。


「とにかくこの人達は俺らが病院へ運ぶぞ。オメーらに任せておけねーからな!」


と言って倒れた彼女達を寝台車に乗せ、去ろうとしたが、男達に


「病院なんて滅多にねーぞ!医者がいねーんだからな!」


と言っていた。


 取り敢えずソフィア市内の病院に当たってみる。


「何だよ?あるじゃねーか。」


と思いながら搬送していると、女性達が


「ここまで来る交通費がないんです。」


と話す。更に病院側から


「医師不足は事実です。コロナ禍は大変でしたよ。ここも高齢者が多いので、治療が済んだら出てってもらうことになります。」


と言われる。彼女達はソフィアでの公演が終わる2日後に引き取りに来るということで病院側と交渉が成立した。医療費もソニックの財団から出すということである。


 ソフィアには、ラス・ベガスで出会った世界中のミュージシャン達が既に集っていた。


「遅せーぞ!オメーら。何やってた?」


と訊かれるとソニックが


「あっちの薔薇摘んでるとこで女の人達がバタバタ倒れててよ。さっき病院に入れてきたとこなんだよ。」


と事情を説明する。ヨーロッパで活動するミュージシャン達が


「ああ。あそこか。重労働だからな。景気も悪いし。」


とわかっていた様子。そして


「これが現実なんだよ。ヨーロッパでEU圏内でも格差があるんだよ。かといってオメーのいるアメリカと違ってそれぞれ国だからよ。そこのやり方に従うしかねーんだよ。大体ここは元共産国家だからな。政治も混乱してて東西で大分違うぞ。」


と説明される。ソニックは


「こないだのポルトガルといいギリシャといい、問題があんのは何処も一緒なんだな。それにずっと付き合わなきゃいけねーんだな・・・」


と自分の無力さを感じる。初めて「東側」に入ったソニックは現実を突きつけられたようだった。


「だからよ、せめて俺達の音楽で元気になってもらおーじゃねーか!」


と促され、ソニックは


「そうだったな。わかった!やろう!」


と、さっきの病院があった方角を探す。


「・・・確かあの建物の方だったな。よし!」


とステージの向きを変える。彼女達を運んだ病院に向かって「Sonic」を放とうと決心した。そして出したのは熊襲太鼓。その熊襲太鼓にソニックは


(なあ、さっきのお前も見てたろ?9・11の時みてーにまた命吹き込んでくれねーか?)


と頼む。熊襲太鼓が


(・・・ようやくお前から俺を頼るようになったな・・・いいだろう。)


と呼応した。


 こうしてSonic Los Angelesの「旧東側」でのライブが、戦いが始まった。今日は活力を与えるために「Burst」主体で「Sonic」を放つ。静かで、何処か緩やかで、何処となく冷たい空気の中、ソニックの「Burst」と熊襲太鼓の


(ボオッ!ゴオッ!)


という身体の中からエネルギーが燃え上がるサウンドがソフィア市街地に響き渡る。舞台袖や客席で観ていたミュージシャン達が


「・・・あれがプレジデントをひれ伏させた「Sonic」か。随分パワーアップしやがって。俺らの立つ瀬がねーじゃねーか!」


ソニックが


(おい!各国の独裁者共!この辺に浮遊してんなら耳かっぽじってよーく聴け!)


と天に向かって「Ghost」を放つ。すると、どこか沈んでいた街中の空気がからっと明るくなるのが見えた。ソニックが


「遠慮しなくていいんだぞ!どんどん弾けろ!もうお前らを縛っていた独裁者や共産主義はいねーんだ!お前らは自由なんだぞ!いろいろチャレンジしてみろよ!」


とMCで話す。すると、オーディエンス達がどんどん飛び跳ね始めた


「もっと他の「Sonic」もあるんだろ?浴びせてくれよ!」


と注文通りに「Jet」「Volt」「Combat」締めの「Magnet」を放ちライブは終了する。


 2日目の公演が終わり、病院へ搬送された女性達を迎えに行くソニック達Watts Towers。女性達が


「どうか彼らを責めないで下さい。彼らも元は労働者だったんです。代わっていく世の中について行けてないだけなんです。私たちは皆さんのおかげで元気になりました。本当に有り難うございます。」


と感謝を言われたが、


「・・・いつも通りやってるだけなんで。あんたらも無理しないで頑張って下さいね。」


と薔薇の谷に返した。


次に向かう先はルーマニア、ハンガリーといずれも「旧東側」である。ソニック達Watts Towersの見えない独裁者の影という新たな敵との戦いはまだ始まったばかりである。



実際は至って平和な国です

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