第53話 祖国と夢を奪われた少年
ソニックがかつて手を出せなかった被害者と出会います
ソニック達Watts Towersは、一旦地中海をアーチボルト・ロウ号に乗って東へ進み、東欧で唯一早くにEUに加盟していたギリシャへ向かった。ギリシャへの渡航中にアフリカ大陸を望み、
「へえ、あっちがアフリカなんだあ。結構近いんだなあ。まあ、フラビオ達みてーに泳ごうとは思わねーけどな。」
と案外ヨーロッパとアフリカは近いことを知る。そして、そんなアフリカに近いギリシャは快晴で日差しもあり
「こんな晴天だったら星空も綺麗だろーな。昔の人が星座作る気もわかる気がするよ。」
と思いふける。だが、このエーゲ海に入ると状況は一変する。
このギリシャも移民問題を抱えており、このアーチボルト・ロウ号も移民を乗せた船だと勘違いされ、ギリシャ政府に尋問される。船長のパイレーツが
「俺達はSonic Los Angelesを乗せた一行だ。このギリシャでのライブが終わったら直ぐさま出て行くよ。」
と説明し、アテネのピレウス港へ入港を何とか果たすも、コンボイ達大型トレーラーは食料を全て取り上げられ、寝台車とスタジオ車のみ入国を許可された。話によれば、アフリカや内戦で命からがら逃げてきたシリアやレバノン、アフガニスタンの住民達を受け入れている内に施設の過密化や治安の悪化、移民の押し戻しに経済危機にも瀕しているという。特に中東から近いこのギリシャはそんな移民達の中継地にもなっており、国内で混乱が生じているという。このギリシャはアメリカの支援を受けていたが、そんなアメリカを滅茶苦茶にしたソニック達Watts Towersは
「俺達ってここじゃ敵視されてるんじゃねーか?」
と疑問に持つが、ギリシャの外務省が
「そんなことはない。むしろ歓迎している。ただ、国内のこの現状で皆過敏になっているだけだ。」
と言われた。ソニックは
(確かにアメリカと違ってこの国土じゃな。)
と思いながら入国する。このギリシャではアテネ、テッサロッキ、クレタ島のイラクリオで2日間の公演をそれぞれ行う予定である。
大型トレーラー2台でアテネでの会場、ヘロディス・アッティコス音楽堂に向かってゆっくりと出発する。すると、街中で窃盗や恐喝等の事件が垣間見えた。黙って通り過ぎることも出来ないソニック達Watts Towersはその犯人達を捕まえ警察に引き渡す。彼らは涙目で
「・・・こんなことやりたくてやってるんじゃねーんだ!」
と訴えかける。それを見た元盗賊のアルやニコ、ルークは
「ソニックと出会う前の俺達だよな。」
と振り返る。ニコが
「そりゃ生きたいって気持ちはわかるけどよ?生き方ってもんがあってよ。お前にもいつかわかる時が来るからよ。」
と諭すが、窃盗犯は
「俺は祖国も故郷も奪われてここに来たんだ!お前らなんかにわかってたまるか!」
と怒鳴りながら警察に連行される。どうやら居場所をなくしたソニック達Watts Towersと、居場所を奪われた彼とは勝手が違う事を知る。アルが警察官に
「そいつの身柄は俺らが引き受けるからよ。取り調べ終わったら放してやっちゃくれねーか?盗んだモンは俺らが弁償すっからさ。」
と頼み込む。アルもニコもルークも、ソニック達Watts Towersにとっては人ごとでは済まされないと皆が思っていた。皆昔の自分達と重ね合わせていたからだ。今日一日生きるために誰かを傷つけ、人の物を奪い、夕陽が暮れたらそれを実行してきたWatts Towers。しかし彼はやりたいことがないわけではなく、それすら奪われているような気がしてきた。
そして数時間後彼は釈放され、盗まれた人物にソニック達Watts Towers全員が謝罪し、盗まれた物を弁償した。彼の名はワリドという少年。シリア出身で家族で普通に生活していた10年前に「イスラム国」に国を占領され、家族とともにこのギリシャへ難民として逃れてきたが、その家族も難民同士のいざこざで去年に亡くし、現在は1人で仕事も友達もなく難民キャンプで生活しているという。そんなワリドには夢があった。
「大きな家を建ててみたい。」
ワリドの両親は大工であった。綺麗なモスクを建設している父を見て、幼い頃から勉強していたそうだ。そんな小学生の時に 「イスラム国」がシリアにやって来て、ワリドの全てを奪っていった。そしてこのギリシャでも仕事にありつけず、先程のような窃盗をしながら暮らしていたと泣きながら話す。ソニックは
「ここにもイスラムかよ?一体何なんだよ!」
とかつての9・11を思い出していた。ソニックはワリドに
「もし夢が叶う環境にあったらお前はどーしたいんだ?」
と問いただす。ワリドは
「建築の勉強がしたい。それでこの国にある美しい建造物を自分の手で手がけてみたい。」
と話す。ワリドの眼が輝いたのを確認したソニックは
「この国じゃなくてもいいか?一個当てがあるんだけど。」
と尋ねる。ワリドは
「戦争のない国なら何処でもいい。」
と返答する。するとソニックは直ぐさま菜月に電話した。菜月の経営する「みんなの家」で預かってもらおうとした。ワリドに
「アメリカでウチの妹がお前みてーな夢持ってる連中を支援する仕事に就いててよ。そこでもいいか?」
と尋ねると、ワリドは
「でも、そんな金なんて・・・それに俺は難民だし・・・」
と消極的になるが、ソニックは
「お前夢があんだろ?俺達より随分恵まれてんぞ?そんな奴がいつまでもこんなとこいちゃいけねーよ。ヨーロッパのライブ終わったら俺もそこ行くからよ。俺らが何とかこの国からアメリカに連れてってやるからよ。夢を投げ出すなよ。」
と諭す。これは、菜月の父である龍司に「カタメ」を名乗っていたソニックが言われた事と同じである。ソニックはグラミー賞を取ったときに天国の龍司に誓った
「俺もいつか、そんな天才を見いだせる人間になろう。」
という言葉。ソニックはワリドを「天才の原石」と信じていた。あの頃の龍司と同じ事をしようとしていた。LAのワッツ・タワーの元住民達の中に建築関係の仕事に就いた者もおり、菜月に預けて学校にも通わせてやろうと思っていた。菜月も
「困っている人を助けたい」
と龍司の意志を継いで活動している。ワリドはソニックからスマホを借り、英語で菜月と話す。菜月は
「いつでもおいでよ。待ってるからね。」
と優しく伝えた。
ソニック達Watts Towersは、このアテネ、ヘロディス・アッティコス音楽堂のライブにワリドを手伝わせた。日給で金も渡した。ワリドは
「・・・紙幣なんて持ったの何年ぶりだろ?」
と話すくらい驚いていた。
そしてソニック達Watts Towersのギリシャでのライブが始まった。今日のソニックは空に向かって歌い、空に向かって「Sonic」を放った。この歴史的建造物を壊したくないだけではなく、夢のあるワリドをこんな目に遭わせた神に対する怒りを込めていた。晴天の夜空に「Volt」を食らわしヒトとしての怒りを天にぶつけた。ポルトガルの時同様にオーディエンスはそれにただただしびれていた。最後にソニックが「Jet」と「Burst」を同時に音に乗せて放つと、ほんの一瞬だけ星空が斬り裂かれ、沈んだはずの太陽が再び燃え上がったように見えたとオーディエンス達は話す。
そのままテッサロッキ、クレタ島のイラクリオでのライブが終わったソニック達Watts Towersは、大型トレーラーの寝台車にワリドをかくまい、アーチボルト・ロウ号に乗せてギリシャを去った。この後はブルガリアでの公演だが、パイレーツとアーチボルト・ロウ号の船員達は急遽アメリカへ一時帰国してもらうよう頼み、フロリダ辺りでワリドを菜月や財団の人物達に引き渡すよう頼んだ。
後日、菜月から電話が入る。菜月は
「あの子凄いよ。早速家の修繕頼んだら30分で終わらせちゃったの。それに凄い勉強熱心で・・・あの子天才かも。」
と驚くべき早さでいろんな物を吸収していると話す。
ソニックと菜月が亡き龍司の意志を継いだ第一歩でもあった。
戦争は人から何もかも奪ってしまいます。戦時中の日本もそうだったのではないでしょうか?




