第42話 RELIVE⑧ いっぱい泣いてよかったな
菜月が遂に世に出て成功を収めます。
この話の終盤がこの小説のメインテーマです。
菜月の主演映画「Lady Street Fighter」が2014年5月に公開された。日本では丁度ゴールデンウィーク真っ只中である。興行収入はうなぎ登りに上がり、アメリカでは7月4日の独立記念日以降から急激に映画を観に行く人々が増え、大成功を収めた。横浜八景島で両親を目の前で失い、テディベアを抱えて震えていたおとなしい女の子がここまで強く立派に育ったのである。日本では
「この娘は何者なのか?」
と話題を呼び、誰が言ったか明らかではないが
「Sonic Los Angelesが義妹として引き取った女の子」
とばらしてしまい、余計に話題になった。未だ素顔を見せないソニックをよく知る女性として祖国日本で有名になった。この成功を機に年末には続編が検討され、ファンは菜月のこの「Lady Street Fighter」に更なる期待を寄せた。菜月がバトンを振り回すシーンを観て、日本の女の子達が一斉にバトンを習い出すという社会現象まで起きていた。
そして翌2015年2月、菜月はアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。日本の女優では快挙であった。ハリウッドのドルビー・シアターにソニックや若草家一同、窓香達親友4人と黒澤や逸見、そして鉄治とWatts Towers全員が招待された。黄色いドレス姿でオスカー像を手に取り、レッドカーペットを歩く菜月を見て、感極まって泣いてしまうソニック。
(テディベアを抱えてたあのおとなしい菜っちゃんがレッドカーペットを歩くなんて・・・)
すると菜月が
「もう。兄ちゃんまた泣いてるー。」
ソニックは菜月に
「菜っちゃん!周りよく見ろ!」
そこには菜月が招待した全員が嬉し涙を流していた。
「あの菜っちゃんが・・・ほんと立派になって・・・」
ソニックだけではない。最初に日本に迎えに行った桜と史郎、仲良しの菫、姉でもあり先生でもあった茜、葵、そして緑。毎日遊びに誘ってくれた親友の窓香、由香里、望美、千尋。師匠の黒澤、逸見。そして練習に付き合っていたWatts Towersの男達全員が号泣していた。ソニックは菜月に
「いっぱい泣いて良かったな。こんなに強くなれたじゃねーか!」
と声をかけると、菜月も思わず泣いてしまった。恐怖ではなく、正真正銘歓喜の嬉し涙だ。レッドカーペットを歩き終わった菜月を皆で胴上げした。その後菜月が甘えるような小声で
「兄ちゃん。抱っこして。」
と頼んだ。ソニックはあのテディベアを抱えた当時の菜月を思い出し
「・・・そういうとこ、ほんと変わんねーよな。」
と菜月を抱きかかえた。初めて会った頃、菜月はソニックが片腕で抱えていたものだが、今は両腕で抱えるほど大きく成長していた。菜月はソニックに抱えられ、しばらく抱きついたまま離れなかった。幼かった菜月とそういう所は変わってなかった。
記者会見が始まる。ソニックとは違いカメラOKの菜月は、取材陣にこれまでの経緯を語った。ソニックとの出会いと別れ。祖国で両親を失ったこと。怖くて震えていた時に初恋だったお兄ちゃんから「アメリカで一緒に暮らそう。」と誘われたこと。そのお兄ちゃんが「Sonic Los Angeles」と名を変え、LAのヒーローになっていたこと。一緒に暮らした若草家への感謝や、共に過ごした親友4人への感謝。それらを守りたくてアクションを始めたこと。師匠の黒澤や前任者の逸見との出会い。そして稽古に付き合ってくれたWatts Towersという大勢のお兄ちゃん達のこと。これらの質問に丁寧に答えた。ある記者が
「ソニックは優しいですか?」
と質問された。家から一歩表に出ると、ただならぬ殺気を放ちながら歩くソニック。普段LAでは拳銃所持者や薬物中毒者、カメラを向ける者達を半殺しにしているのをまざまざと見ていたからである。菜月は
「お家では「兄ちゃん」だけど、表に一歩出たら「お兄様」になってます。お家ではレディファーストなナイトだけど、外に出た瞬間皆を守ってくれるバトルモードに切り替わるんです。まるで二刀流の武士みたいでかっこいいんです。そんな兄みたいにかっこいい人になりたくてここまでやってきました。」
と明るく話す。更に菜月に
「映画を観る度お兄さんより強いと思うのですが?」
すると菜月は
「絶対無理です。ライオンに勝つようなお方ですから。」
と笑って返した。
つい最近のことであるが、菜月の運転する車でソニックや桜、子供達を連れて動物園に行ったときの話。檻の中でライオンが暴れ出し、柵に身体をぶつけ、爪で柵を引っ掻いていた。桜や子供達が怯える中、ソニックは平然とライオンの目の前に柵越しに「ガン!」と柵を叩き付け、鬣を掴み睨み付けると、ライオンは1度後ずさりした。再びライオンが暴れ出すと、ソニックは柵をガンガン掴み、牙を剥くライオンの口の中に思いっきりシャウトした。すると、ライオンは尻込みしてしょぼくれて奥へ歩いて行ったという。その後菜月に
「菜っちゃんはこういうの真似しねーでくれよな。みんなのお姉ちゃんなんだからよ。」
と話すが、家に帰ると桜にこっぴどく叱られ正座させられていたという。
(何でライオンに勝つ人がお姉ちゃんに負けてんだろ?)
と不思議に思ってたという。その話を聞いた記者達は失笑していた。どんな獣でも無敵なソニックは女に弱い事を露呈されてしまったからだ。
その裏でソニックが一部の記者に質問されていた。カメラは向けられていないので答えた。
「どうして彼女を引き取ったのか。」
と。ソニックは
「長くなるのでその質問、後でもいいですか?」
と答え去って行った。
そして祝賀パーティーが行われた。ドルビー・シアターに招いた全員と、映画の共演者やスタッフ、監督等制作陣がごっそり参加していた。共演者やスタッフは、「Sonic Los Angeles」のライブに来ていた者も多く、ソニックはサインに追われていた。そんな大人数のパーティー会場でソニックと桜の子供、誠剛と真優、茜と葵の子供達がソニックを通じ菜月に何か言いたげな顔をしている。ソニックが
「菜っちゃん。この子達が学校でお姉ちゃん自慢したいって言ってるよ。」
すると菜月が
「もちろんいいよ。学校で苛められたら菜月姉ちゃんの弟だ!妹だ!って言いなよ。苛められないから。」
と頼もしいお姉ちゃんに変わっていた。かつてのソニックと同じ言葉である。
その夜、ソニックと桜は2人でうっとり話していた。
「凄いよね。菜っちゃんも気付けばオスカー女優なんて。日本に迎えに行った時には想像も付かなかったわよ。このウチは天才を2人も抱えることになったんだね。」
するとソニックは桜にこう返答する。
「天才は君達だよ。俺も菜っちゃんも君達がいなきゃただの変わった奴で終わってたよ。若草ファミリーは全員そんな天才を見つけて光らせる天才なんじゃねーか?」
「いいじゃねーか。俺も菜っちゃんも君達がいなきゃ泥に埋もれた変わった鉱物だよ。俺が思うに、君達も鉄兄いやWatts Towersも、窓香ちゃん達も、天才に気付いて共に行動した人が本当の天才だと思うよ。皆が俺達を掘り上げてくれなかったら俺達は今も泥に埋もれて時間が過ぎて風化したままだったんじゃねーか?「何?こいつ」って。特にこの若草ファミリーはそういう天才だらけだよ。そりゃ参るよ。天才に囲まれて俺達は暮らしてたんだからよ。」
桜はにっこり微笑んで
「この子達も何かの天才なのかもね。」
と眠る子供達を2人で見つめていた。
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いっぱい泣いて育った菜月だからこそ強くなれたんだと思います。泣くことは決して悪いことではありません。強くなるために必要な事です。




