第41話 バトンを回すミーアキャット
帰郷した菜月が本格的に始動します
2012年6月下旬、菜月と菫が帰国した。2人ともアメリカに帰り、人生の分岐点を迎える。LAでは菜月にグリーンカードが発行された。もうビザを取りに帰国する事はなくなった。LA国際空港で迎えに来たジャンゴが
「お帰り!ミーアキャット!」
とハグして迎えた。いつも一緒にいた菜月がいなくて寂しかったらしい。
菫は、ソニックのUCLA のゼミで一緒だったスコッチとの結婚を控えていた。スコッチはNPO に8年間参加し、アフリカのルワンダから同時に帰国する予定である。かねてからソニックから財団の責任者をやってほしいと打診を受けていたので、仮の責任者を勤めていたソニックと引き継ぎを行う。
菜月は帰国早々黒澤に呼ばれ、道場に行った。その黒澤から
「菜月を主演にするアクション映画の打診がある。私も関わる事になったからきちんと準備しておくように。」
と伝えられ、菜月は
「どんな感じの作品ですか?」
と尋ねると、黒澤がDVD ボックスを持ってきた。その映画は1970年代に、日本で出会った逸見が主演を勤めていた日本のアクションシリーズで、ハリウッドでリメイクするという作品であった。当時の日本では知らない者はいないくらい有名な作品であり、菜月の父、龍司もはまって観ていたらしい。監督はその作品の主人公に菜月を指名したのである。その監督は、菜月が中学時代に初めて撮影所を訪れた時に黒澤達が出演していた映画の監督で、菜月の事は黒澤の秘蔵っ子として今まで気にかけていたようだ。日本から帰国後、現在の菜月を観たいと監督は話しており、後日黒澤道場に来るという。その日は黒澤からDVD ボックスを全巻借りて若草家に帰った。シリーズ4作品もあり、菜月は
(本当だ。逸見さん、男の人達大勢倒してる・・・これを超えるようにしないと。)
と気を引き締めていた。クランクインは7月上旬である。タイトルは
【Lady Street Fighter】
監督は、菜月が初めて撮影所に行った際に黒澤に紹介されたバレンティン・マスチェラーノという人物で、マカロニウェスタンを撮っていた監督だが、日本映画とも造詣が深く、特に日本のアニメを好んだ。菜月の事は中学時代から一方的に知っており、黒澤と成長度合いを確認しながら抜擢したという事であった。黒澤が菜月を日本へ修行に出したのは、この映画を菜月にやらせてみよう。という意図があり、その為に前任者の逸見に連絡し、動きを見てもらったと言うわけだ。
今年は学業に専念し、翌年大学を卒業した後に撮影の為、時間はたっぷりあった。それまで黒澤道場と大学を行き来しながら芝居の稽古をする毎日を送った。
2013年6月に菜月達5人はUCLAを卒業し、社会人としての第一歩を踏み出す。菜月はアクション女優、窓香は執筆家、由香里はファッションデザイナー、望美はメイクアップアーティスト、千尋はフラワーアレンジメントの傍ら、造園に興味を持ち、ソニック達Watts Towersがサンバーナーディノに作った野外音楽堂に手を加えて華やかにした。この5人はそのままLAアナハイムに一軒家を購入し、ルームシェアをして暮らしている。だが、ソニックにはその家は入りづらい。家屋が真っピンクでガーデニングが綺麗にされている「女の館」だからである。長女の真優はその家を気に入っており、よく泊まりに行っている。9月にはミュージックタワー・シカゴが完成。ソニックも更に前に進む。
2013年11月、菜月の映画がクランクインされた。菜月はただ臨むのではなく、マスチェラーノに色々な意見を出していた。
「集団モノにしたい。」
「警棒みたいな短いバトンを使用したい。」
「兄たちから教わった技を惜しみなく使いたい。」
「パルクール等アクロバティックな動きをやりたい。」
「この作品の中で「昇龍旋風脚」を使いたい。」
菜月の熱意にマスチェラーノは
「こんな活発な娘に育ったのか。」
「発想が独特でこっちが追いつかなそうだ。」
と舌を巻いていた。
菜月はアクションこそ出来るが、芝居や台詞はまだまだで、その点をマスチェラーノは徹底的に鍛えた。素直な菜月は覚えが早く、割とすんなり覚えた。たまに親友達と暮らしている「女の館」から若草家に戻ってくる。家ではソニックの子供達の前では「優しいお姉ちゃん」だが、ソニックが
「家に帰ったときくらいだらけていいんだよ。疲れて持たなくなるよ。」
と言われ、ソニックや桜、緑の前ではいつもの甘えん坊の妹に戻り、心身の力を抜いた。時折撮影に葵が顔を出していた。怪我が増えてきたからである。そんな葵だったが、菜月の撮影現場を見て、菜月が監督や共演者と激しく口論しているのを見かける。葵は
「菜っちゃんこんな厳しい現場で仕事してるのか・・・」
と普段のおとなしかった菜月からは想像も出来なかったという。更に菜月の戦う相手は9割プロの男性アクション俳優である。如何にも強そうな筋肉の塊相手に菜月の必殺技が次々と繰り出される姿に葵は
「菜っちゃんほんと強くなったんだね。」
と安心したようである。中でも菜月はバトンを使ったアクションを多用していた。その姿はまるでソニックが皆を守るために2本の警棒で相手を倒す姿そっくりである。
「兄ちゃんの後ろ姿ちゃんと見てるんだなあ。」
と菜月の想いが伝わるアクションだった。共演者や監督、スタッフとも上手くいってるようだ。口論が終わると菜月が作った弁当を皆で仲良く食べている光景も見られた。
家に帰ると窓香、由香里、望美、千尋達が台本合わせに協力していた。ほぼ男の台詞をこの4人が読み合わせていた。また、リアリティが足りないと、Watts Towersの何名か呼ばれ、菜月に協力していた。車の中でジャンゴが何気に台詞を合わせ、早朝にアナログ・キングダムの一角で芝居する事もあった。特に演技力の高いブルやロケット、イビル、JJ、ガッサ、ドミンゴが菜月に付き合い、大柄な役にはブライやジェフが相手を務めていた。菜月の為に皆で協力し、義妹の成功を期待していた。こうして菜月がUCLA4年を迎える直前に映画はクランクアップされた。
2014年4月に菜月が主演の映画「Lady Street Fighter」がクランクアップされ、ソニックと若草家は試写会に招待された。スクリーンには派手なアクションをこなす菜月の姿に若草家一同は顔や目を塞いだ。最早娘として扱っている菜月が危ないアクションをするのを同じように痛い顔で観ていた。それだけ皆で可愛がって育てたからだ。ソニックも同様だが、菜月がスクリーンの中で頑張っているのを見逃したらいけないと堪えながら観ていた。そして
(菜っちゃん、Watts Towersの技ほとんどモノにしてる。)
と驚いていた。ファルコンの必殺技「バードチョッパー」、ジャイロの必殺技「大車輪プロペラ蹴り」、ブルの必殺技「内臓掴み」、キッドの必殺技「アッパー&エルボー」、ブライの必殺技「タイヤ投げ」、ジウの「人間歩き」、トニーニョの「連続間接固め」等々
日本でも試写会が行われ、日本で活動するソニックと菜月を知るミュージシャン達は菜月がバトンやヌンチャクを振り回すシーンを観て口を揃えて
「兄ちゃんのドラム捌きそっくり。やっぱり追いかけてるね。」
と話す。この映画の主題歌やサントラはソニックは一切関わっていない。それはソニックも菜月も身内が関わるのはお互いのために良くないとそれぞれ思っていたからである。この映画の音楽は、かつて路上ライブを行っていた少年時代のソニックを知り、菜月が大ファンである三沢舞が担当した。
その夜菜月も成人を迎え、大学を卒業し社会人になった祝いに若草家全員で皆で酒を飲んだ。12月にはソニックのプロジェクトであるミュージックタワー・ニューオリンズが完成し、菜月は大学を無事卒業した。菫から
「菜っちゃんそこそこ強いよ。」
と聞かされていたソニックだったが、最後まで酔い潰れなかったのはまさかの人物2人であった。気の強い茜と葵は早々に潰れ、ソニック、史郎、菜月が同時に眠ってしまった。直後に菫もダウン。朝まで飲んでいたのは緑と桜だった。ソニックが目覚めた頃、2人ともウォッカを開けてまだケロッとしていた。のんびり屋は酒が強いと思い知らされた。緑と桜は酔い潰れる菜月を見ながら
「あのテディベアの女の子も知らない間に大きくなって。菜っちゃんもソニックみたいに優しい男の人のお嫁さんになってほしいね。」
と菜月の将来を期待していた。
菜月は初めて観たソニックのドラム裁きに憧れバトンを取り入れました。
因みに菜月の主演映画のモデルは「女必殺拳」です。




