第39話 RELIVE⑦ アンダーグラウンドから這い上がれ!
ソニックはアメリカに来た過去を振り返り、菜月は第二の師匠に出会います
「俺がアナーキーだって?そんな古くせーもんじゃねー。俺は全ての神が大嫌いなんだよ!」
2009年9月、菜月が日本へ短期留学へ旅立った直後、「Sonic Los Angeles」がアポロ・シアターでのライブで言い放ったMCである。ソニックがアメリカに来てもう14年の月日が経っていた。16歳の冬にLA国際空港の歩いて20分の所にあるワッツ・タワーのスラムから這い上がって、後2年もすれば人生の半分をアメリカで過ごした事になる。
少年院を出て、初めて愛をもらったのは神ではなく、菜月や龍司、千春や「Try flyers」のメンバーである。
イングルウッドへ入って1分後、当時のマネージャー、鉄治がソニックの首根っこ掴んで弾丸を避けなかったらこの世にいないだろう。その時ソニックを助けたのは神ではなく、威勢のよく喧嘩が強い鉄治というただの人間である。
そして初ライブの時、体中に凶器を投げられ、銃で撃たれ、身体を燃やされたときに助けてくれたのは、やはり神ではなくライトボーン医師である。
空腹に我慢できず、熊を狩って一緒に運んで食べたのも、神の思し召しではなく、Watts Towersというスラムにいた荒くれ者の人間に力を借りたからである。
菜月が祖国で孤独になった時、助けに行ったのは神ではなく、若草ファミリーという優しい人間達である。
ソニックは、この多くの人々は紛れもなくヒトであり、神ではない事を良く理解している。自分がこの場にいられるのは、神のおかげではなく、これまで関わった全ての人間であるということをソニックは伝えたかった。神など役に立たん。菜月の通っていたカトリック系の女子校の教師は特に信仰が深かったが、ジャンキーを目の前に教師は卒倒し、そこに神は降臨しなかった。降臨したのは菜月という1人の普通の女子高生が放った「昇龍旋風脚」である。以来その教師は菜月達に神を強要しなくなったという。
ソニック達Watts Towersがよく大型トレーラーに乗りツアーに行くと、行く先々でポツポツと黒人の少年達が路上にうつむいて暮らしているのを目撃する。彼らはストリートチルドレンである。ソニックの立ち上げた財団では、その子供達を移動図書館で訪れて本を配っていた。子供達がその本を燃やしたり売ったりしようとすると、彼らは
「その本を燃やしたり売ったりしても、今日生きることしか出来ねーだろ?それよりその本を一生の教科書にする気はねーのか?それが出来ればこの生活から脱出出来るんだぞ。俺達もいろんな間違いを犯して、本に助けられて一生懸命勉強してここにいるんだ。その本何回も読んで理解して行動して、このアンダーグラウンドから這い上がってみせろよ。ぜってー幸せが待ってるからよ。」
と諭しているという。彼らもまた。この世に神はいないと肌身で感じているからだ。その本を書いたのも配った財団のスタッフもまた人間なのである。
この年、茜が妹達に遅ればせながら結婚した。相手は
【ジャーメイン・スチュアート】
通称「ジャム」
デイブの友達であった。
2003年イラク戦争を経験し、敵の銃弾を食らい左手を失う。その後除隊し、茜の勤務する日本人学校の近所にある地元の小学校の非常勤講師として勤務していた。子供好きで勉強を教えるのが得意なジャムは、茜と共に私学校を創設するそうだ。ジャムはアラバマ州モントゴメリー出身の黒人男性で、就職難の為軍隊に志願したが、左手を失い後悔していた。そんなジャムと史郎、葵の夫で最近開業医となったデイブと飲んでいると、ジャムが語る。
「ソニック、やっぱお前の言う通りだったよ。戦争なんてするもんじゃねーな。神なんていやしねー。失うモンばっかで例え勝ったって何にも残らなかったよ。虚無感しか残らねー。」
そんなジャムを支えていたのが茜だったという。ジャムもまた、「KKK」に迫害されていた1人だった。本当の敵は身近に別にいたのだった。だからこそ、どんな子供達も通える楽しい学校を作ろうと考えていたのだ。史郎もデイブも言葉を失った。実際にデイブは「国境なき医師団」に参加し、ジャムのような人間を大勢治療していた。ジャムより最悪な四肢をもがれた者もいたという。ソニックも片眼を奪われ苦労してきた。だからこそジャムに協力したかった。ソニックは
「ジャム、どーせならあんたの考えるオリジナリティー溢れる学校にしなよ。ウチの財団頼っていいからよ。」
デイブも
「それなら俺が校医になってやるよ。茜姐さんなら食事は作れるだろ?健康管理バッチリだから俺も力になれるよ。」
するとジャムは涙ながらに感謝した。史郎は
「俺の息子だろ。こいつらはお前の義兄弟だ。お前の苦しみは俺達の苦しみなんだからな。」
とジャムを慰めた。遅れて茜と桜も一緒に飲んだ。茜が考えるには、学費無料の学校にしたいと話す。そして、昔ソニックが特別授業で行ったマグロの解体のような社会に役立つ事を教えたいとジャムと相談して決めていた。テストの点数等ではなく、子供達が生き生きと楽しめるような、皆で助け合って勉強するような学校にしたいと話していた。ソニックとデイブが
「姉さんらしいじゃねーか。そーだよな。勉強って楽しいもんだよな。大学や菜っちゃんの小学校ん時の授業見てそー思ったよ。姉さんの授業って何か楽しいんだよな。」
茜とジャムはこうして結ばれたのだった。茜は結婚するとき、自分がジャムの左手になる。と誓ったという。
一方その頃日本では、菜月が黒澤が設立したアクションクラブに通いながら、菜月の母、千春の母校であるお茶の水大学へ留学するという二足のわらじを履いた生活を送っていた。また、菜月はマネージャーとして同行した菫と一緒に人生初の一人暮らしとアルバイトに明け暮れていた。アクションクラブの門下生達は、初見の菜月の素振りを見て
「竹刀が見えねー・・・それに教えることが全くねー!」
と驚いていたという。
黒澤は別口に、元弟子の女優、逸見栄子という人物に菜月を頼んでいた。彼女は当時、弟子の中でも別格であり、シリーズ物の映画に主演として何本も出ていたこのアクションクラブの大先輩である。この逸見の作品をアメリカでリメイクし、主演に菜月を起用したいと裏で話していた。その逸見が道場へやってきた。門下生達が直立不動でいる中、菜月に声をかけた。
「あなた、こっちに来なさい。あたしが腕前見てあげる。」
門下生達は「え?何で?」と驚いていたが、菜月は即答。立ち会いが始まった。因みに菜月はこの道場でまだ「昇龍旋風脚」を見せていない。側にいた菫が
「ヘッドギアとネックガードした方がいいですよ。この娘まだここで必殺技出してませんから。」
と忠告すると、周りはざわつく。
「え?まだそんなもの隠してたのか?」
とどよめいていた。逸見は
「いいけど、あなたも付けなさいよ。こっちも本気出すから。」
と既に臨戦態勢のようだ。自分の後釜を任せる以上半端は許されないのである。
試合が始まると同時に逸見が仕掛けた。菜月は避けながらあの必殺技を狙っている。長年一緒に過ごした菫には一発でわかる。逸見と菜月のハイキックがクロスした瞬間、菜月の必殺技「昇龍旋風脚」が逸見の片脚を封じた。それでも戦う逸見。菜月が逸見の引きずる片脚を避けようとすると、逸見の怒号が飛ぶ
「あんた!何で狙わないの!ここはそんな甘えた事じゃやってけないのよ!」
菜月はハッとして再び攻撃する。そして逸見の体制が揺らいだ瞬間、菜月の「昇龍旋風脚」が頭部と首に見事に決まった。逸見は
「・・・これが黒澤さんが言ってた昇龍旋風脚か・・・あなた面白い娘ね。あとでウチに来なさい。」
と誘われたが、菜月は
(師匠もファルコン達もジャンキー達も倒した筈なのに、何でケロっとしてられるの?)
という不安があった。かといって「大丈夫ですか?」なんてことも言えなかった。
その夜、逸見の家に菫と一緒に招かれた。逸見の夫は父、龍司と同じ九州出身のミュージシャンだった。
「上がって上がって。」
と家に入る。逸見は脚にもキテいない様子だった。菜月が父の事を話すと、逸見の夫が
「え?君のお父さんって昇龍旋風脚の龍司君?」
と驚いていた。九州で有名だったのは本当らしい。続けてソニックとの関係も話した。すると逸見が
「そう。あれって「Sonic」じゃない?あたし一応LAのライブに行ったことあるけどタイプが違うみたいね。お兄さんのは全体的に放ってるけど、あなたは1カ所って感じがしたわ。でもそれでいいのよ。あなたは身体の中に「Sonic」持ってた方がいいよ。その方が魅せられるから。」
菜月は
(あたしにも「Sonic」出来てたのか・・・でも人に向けたらマズいよね・・・)
と不安になっていたが、何故逸見が「それでいい」と言ったのか尋ねると。
「これからあなたの相手は全員武器持った男って事になるからよ。絶対に必要になるから。さっきの昇龍旋風脚のようにいざって時に思いっきり使ってみたら?いい画になると思うわよ。」
更に菜月は何故昇龍旋風脚を食らってこうして平気でいられるのかを尋ねた。逸見はあっさり
「あなた攻撃ばっかで受け身練習してないでしょ。明日からしごくから覚悟してらっしゃい。」
と菜月に告げた。菜月にとっては一から這い上がる気持ちでいた。
所は戻って翌年2010年2月、LAでは、ソニック最後のプロジェクト。ミュージックタワーLAがダウンタウンより東に離れたエルモンテに完成した。更に9月にNYのマンハッタン島、ブロンクスに完成。「Burning Gear America」所属の新人をはじめとした世界中のアーティストがこの「虎ノ門」から世に這い上がっていくのである。世界中のミュージシャン達が、何かを伝えようとさすらいの旅が始まった。
人を助けることが出来るのは神ではなく人であると言うことをソニックは身に染みていました。




