第37話 炸裂!昇龍旋風脚!
この話からしばらく、成長した菜月が本格的に活躍します。
菜月が高校へ進学し半年の月日が経っていた。朝はボクサーのキッドやカンフー使いのブル、空中戦に強いファルコンや、武器使いのジャイロ。そして巨漢のビッグ・ジョー等が菜月のスパーリングパートナーとして相手をしている。彼らは
「既に俺達より強いんじゃねーか?」
あのWatts Towersの猛者達も、今の菜月の強さを認めていた。更に菜月はアクションを志しているので、あらゆるシチュエーションを彼らに要求していた。上空からのワイヤーアクションや、水面を駆け抜ける等、レパートリーが豊富でWatts Towersは全力で菜月をサポートしていた。
そんなある日、「Burning Gear America」に転職した元「Try flyers」の古賀が、仕事ついでに菜月に会いたいと言い、ソニックと一緒に黒澤道場で稽古している菜月を迎えに行った。
「蹴り足がまた遊んでるぞ!もっと真っ直ぐ振れ!」
と黒澤がサンドバッグを蹴る菜月に厳しく指導していた。すると古賀が
「お、あれ昇龍旋風脚じゃねーか?」
ソニックは
「何すか?それ。」
と尋ねる。古賀が
「菜っちゃんの父ちゃんの必殺技だよ。知らなかったのか?」
それを聞いた黒澤が
「その話、もうちょっと詳しく説明していただけますか?」
と2人を奥の部屋へ通した。古賀が黒澤に話す
「菜っちゃんのお父さんは、博多のドラゴンってあだ名の九州じゃ知らない者はいないくらいのワルでしてね、あの昇龍旋風脚に何百人と倒されたんですよ。最後、長州の虎が事故に遭い亡くなって以来あいつは昇龍旋風脚を封印してしまって、結局あれ以来、昇龍旋風脚は封印した筈なんですが、こんなとこで観られるとは・・・・」
黒澤は、菜月のクセを話し出した。
「菜月はハイキックの後、振り抜きが下がる癖があって。中々直らないのでどうしようかと思ってたんですよ。それ狙ってたのか・・・」
古賀が具体的に説明する。
「その後素早く踵落としが入るんです。昇り龍に噛み付かれるような感覚と、稲妻に打たれるような感覚。ハイキックと踵落としの2段蹴り。それが昇龍旋風脚です。足で体重の乗った往復ビンタ食らうのようなものですね。」
それを聞いた黒澤は
「わかりました。私なりに指導し直してみます。」
と告げた。
菜月を車に乗せ、道場を後にしたソニック。初めて龍司と出会った時の事を思い出す。
(そうだったよな。おっちゃんと初めて会ったときヤクザ秒殺してたよな。その後ベンツ全部ひっくり返してたし。まさかそこまで有名人だったとは・・・菜っちゃんもそっちの遺伝子受け継いだんだろーな。)
と思っていた。
次の日から菜月は黒澤に「昇龍旋風脚」の稽古を指導されていた。最初はパンチングボールを使って練習していた。家に帰っても、地下室の天井に吊り下げたネットにサッカーボールを入れて練習していた。
一方この時期、菫は大学に通いながら、ソニックの初代マネージャー、鉄治の所へ頻繁に通っていた。どうやら菫は菜月のマネージャーの仕事に就くようだと鉄治に聞かされた。ソニックは
「あの2人、一番仲良かったからなあ。」
と納得していた。菫といえば菜月にとって歳が近い一番相談できる姉であり、ソニックに言えないことは大概菫を通して聞くような間柄である。菜月が落ち込んでいるときは、決まって菫の部屋で同じベッドで寝るくらい可愛がっていた。そんな菫と菜月はソニックと桜が結婚した際に2人で決めていたようである。これは残念会での出来事
「菜っちゃんがデビューするならあたしがマネージャーやってあげるよ。」
「いいの?お姉ちゃんやりたいことないの?」
「菜っちゃんを世界一の女優さんに育てたいの。だから一緒にやろうよ。」
と話していたようで、その場には茜や葵、鉄治達Watts Towersも同席していた。現在菫は、鉄治やマックにマネジメントの心得や、イミダスに経理、ボスに経営を教わっている。個人事務所から始めるようである。
菫は早速黒澤とも話し、菜月に仕事を取ってきた。映画の脇役で台詞も一言くらいだが、カメラ慣れはした方がいいと黒澤も背中を押した。高校2年の春、菜月は女優デビューしたのである。ソニックは自分の経験から
「スタッフの皆を大事にするんだぞ。」
と菜月にアドバイスした。複数の監督やスタッフから
「礼儀正しく気立てのいい明るく元気な女の子」
と高評価をもらっていた。また、菜月はよくスタッフに手作りのサンドウィッチやおにぎりを差し入れに持って行ったと言う。ソニック達若草家では、菜月が中学校に上がってから、全員菜月の作った弁当を食べていたのを思い出す。ソニックは
「もう充分いい女なんだけどなあ。彼氏出来ねーかなあ。」
と思っていた。何故なら菫に
「菜っちゃんは兄ちゃんが怖いからモテないのよ。」
と言われ気にしているようである。
「Sonic Los Angeles」今年のツアーは3班に分かれて行なわれた。社長となった鉄治と副社長に就任したボス、管理職に就いたジャッキー、ランボー、ブライ、マック、エディ、アポロと、経理事務の職に就いたイミダス、アレックス、ドクター、ムスタング達12名は「Burning Gear America」の所属アーティストの対応に追われ、ファルコン、ジャイロ、アパッチ、キッド、ブルの5人は菜月を鍛えたいと話していたのでLA に残留。ハック達3名も楽器発注が増えてきたので帯同せず。代わりに普段菜月を送迎しているジャンゴと、日本から合流した木村がツアーに加わった。いつもより20名少ないが、現場責任者となったビッグ・ジョーを中心に1月から3月に南部、4月から6月に西部、7月から9月を北部と3回に分けて回る予定である。特に9月はNYで行い、9・11の追悼を兼ねている。この年からツアーをこのルーティーンで回り、移動中や10月から12月にアルバム制作を行うように定着していった。
ソニック達が西部を回っている4月に、菜月の通う女子高の文化祭に複数の男達が乱入してきた。彼らはドラッグをやってるジャンキーであった。普段菜月達に厳しい女性教師が卒倒していた。ファルコン達5人が直ぐさま駆けつけたが、既に彼らは倒れていた。菜月の足元に数名の男達が転がっていた。菜月が可愛い声で
「ファルコーン!出来たよ!綺麗に決まったよ!」
とはしゃいでいた。ジャンキー達はいずれも頭部と首を押さえて吐血し悶えている。その内の1人は前歯を折られていた。菜月が父、龍司の必殺技「昇龍旋風脚」を開眼した瞬間である。ジャイロがジャンキー達の首根っこを掴んで
「おい!テメーら!女の子に蹴りかまされてザマ-ねーじゃねーか?2度と俺達の妹に手出すんじゃねーぞ!ついでにパパ(売人)のとこまで連れてけ!」
と言い放ち、ジャンキー達を校外へ連れ出す。その時、シアトルで公演していたソニックは心配になり直ぐさま飛行機でLA に戻り
「菜っちゃん!怪我ないか?また側にいなくてすまなかった。」
と話すが、菜月は全く気にしておらず
「兄ちゃーん!出来たよ!あたしの必殺技。」
と生き生き話していた。ソニックは菜月に
「ドラッグやってる奴らは死なねー程度にボコっていい。」
とは言っていたが、まさかここまで強烈だったとはと腰が抜けた。窓香達もいたが
「あまりに速くて見えなかった。」
と言う。
この一件で菜月は必殺「昇龍旋風脚」でジャンキーを倒し、再編されたLA 市警から表彰状をもらった。だが、暴力行為を行ったとして菜月は学校側から停学処分を下された。その事に納得がいかないソニックは学校に押しかける。
「よお、ウチの妹いなかったらオタクら殺されてたよな?何?この処分。」
学校側は
「神の教えに背いた罰よ!」
と言い放ったが、ソニックは
「なら今すぐここにその神を降臨させてみろよ。出来たら手引いてやるよ。」
と薄ら笑いながら言った。教師達は何も言えず、菜月の停学処分を解いた。
後日、黒澤道場で披露した。ファルコン達5人も付いていたが、5人共首にコルセットを巻き・・・
「黒澤さん。半端じゃないっすよ。ヘッドギアとネックガード付けないとこの様っすよ。」
と黒澤に忠告した。最後に立ち会いを行ったブルの口から
「黒澤さん。ソニックの「Sonic」は「線と面」なら菜っちゃんのは「点」ですよ。食らったら身体の芯まで残りますよ。俺達はこのザマでしばらく何も出来ませんから。」
それを聞いた黒澤はゴクリと唾を飲み込み、自ら立ち会おうと言われたとおりにヘッドギアとネックガードを付け菜月と試合をした。
「はじめ!」
の掛け声と共に菜月からただならぬオーラを感じた。菜月が普段より巨大に見えたのである。黒澤が
(ソニックと初めてやった時と同じ感覚だ・・・)
と思いながら隙を伺った。菜月の構えはムエタイのように片足を上げていた。両者全く動けず1時間くらいが経過した頃、ようやく菜月が仕掛けた。菜月が右脚を上げると、黒澤が交わし空を斬るが・・・
《ギュン!ガゴッ!》
その瞬間菜月の踵落としが決まると同時に、黒澤の顎先にハイキックが綺麗に決まった。脚での往復ビンタを身体で味わった感触だった。
「それまで!」
と声がかかると脚にきてフラフラになりながら黒澤は
「・・・見事だったぞ菜月。あとはその昇龍旋風脚をスクリーンでどう魅せるかだな。」
と話す。菜月は
「しょーりゅーせんぷーきゃく?」
とわかっておらず、全く知らずに稽古していた。黒澤は一言だけ
「菜月のここ(心)には亡くなったお父さんがしっかり宿っているってことだ。これからも精進しなさい。」
と菜月にエールを送った。因みに黒澤は、踵落としを食らった際、咄嗟に背筋でガードしていたと言うが、強引に身体を振り落とされ、ハイキックは顎をかすっていた。もしヘッドギアとネックガードを着用していなかったらファルコン達同様動けなかったろうと話す。菜月はまだ
「しょーりゅーせんぷーきゃくって何?」
と気になり、ポートランドで公演中のソニックに電話で話した。ソニックは
「菜っちゃんのお父さんが得意にしてた最強の必殺技って聞いたぞ。それにしても菜っちゃんスゲーじゃねーか。そういう事何も知らねーで自分で考えて身につけたんだろ?兄ちゃんの言った通りだったじゃん。菜っちゃんには兄ちゃんとは違う特別な「何か」を持ってるよ。」
それを聞いた菜月は静かに喜んでいた。
(お父さんはもっと強かったんだろうな・・・)
キャノンボールが終わった朝のような満足感。この「昇龍旋風脚」をひっさげ、菜月はこれから更なる飛躍を遂げることとなる。
菜月の「Sonic」は兄とは違い派手に物を破壊するような物ではなく解りづらいので、対人の格闘技に込めています。また、意図的に「Sonic」を放つ兄とは違い、無意識に放っています。




