第36話 愛し合う覚悟
ソニックと桜が偶然出会った一組のカップルとの話です
菜月が高校へ進学した2005年秋、ソニックと桜はようやく結婚した。あの1996年1月20日のあのライブからもう10年弱の時間が経っていた。この年のアルバム作成やツアー、桜の仕事なども考慮して、結婚式は翌年の7月1日になる。どうやら菜月がこの後に行われる披露宴で何か考えており、鉄治やビッグ・ジョー等に相談している様子が見られた。この結婚式はLA全体で祝福された。特に1996年1月20日のライブを観に来ていたオーディエンスが中心となり、ソニック夫妻を派手に祝福しようとしていた。もちろんソニックが大嫌いなカメラ撮影は中止ではあるが、LAの人々は
「やっとくっ付いたか!」
と言われるほど待っていたようだ。因みにこの結婚はソニックの婿入りでもある。史郎から週末に飲むと必ず言われてた事だった。
結婚披露宴では、菜月が高校で立ち上げた劇団の初公演の日でもあった。脚本は窓香、衣装は由香里、メイクは望美、千尋が道具を製作し、かなり本気モードのようだった。その舞台の最後、菜月がソニック達2人にパルクールをしながら近づいてくる。そして、何故か桜の顔にキスをして終わった。ソニックは
「俺じゃねーのか?」
と言ってしまったが、これには訳があり、菜月にとっては
(兄ちゃんをよろしくお願いします。)
という意味だったという。
今年は珍しく1ヶ月バカンスを取り、新婚旅行に行くことになった。行く先は決めてないが、サウスウェスト・チーフ鉄道に乗って2人でぶらぶら旅する予定だ。他の鉄道は1998年の時点でソニックが懲りた。と言って消去法で決まった。因みに桜はグランド・キャニオンに行ったことがないということだったので、1度2人で観に行こうと以前から話していた。
2005年7月5日、昨日は独立記念日だった。その午後、ロス・アンゼルス・ユニオン駅で2人で列車を待っていると、2人の老夫婦がLAのチンピラ共に絡まれ、老人男性が突き飛ばされ、杖でやり返したがナイフを突きつけられていた。アメリカではよくある光景で、ソニックがこのチンピラ共を撃退した。
一緒にいた老人女性にお礼を言われた
「ありがとうございました。ほら、あなたも。」
だが、老人男性は
「うるせえ!こんな若僧に礼なんぞ言えるか!こいつも移民なんだろ?」
と言い放ち、ソニックの手を払い怒って去って行った。
そしてサウスウェスト・チーフ鉄道に2人で乗り、夜になって食堂車で夕食を食べていると、あの時の老夫婦とばったり遭遇した。同じ列車に乗っていたのだ。ソニックと桜が
「よろしかったらご一緒しませんか?」
と誘い、4人で食事をした。彼らは村で作ったワインをLAの酒場に出荷した帰りであった。相変わらず老人男性は意地を張り強がる態度で礼を言わなかった。桜が新婚旅行だと2人で指輪を出すと
「あらまあ、新婚さん?」
と驚いていた。行く先は決めていないことを告げると老人女性が
「ウチの村でよければどうですか?」
と誘ってくれた。この老夫婦の住む村はカンザス州とオクラホマ州の境界線にあるという。
彼らの名前はベンジャミン・デコイア 通称「ベン」とダイアナ・デコイア 通称「ダイアナ」という、先住民と白人の夫婦であった。明るくフレンドリーな性格なダイアナは、ベンの話をする。
「ウチの主人は先住民族の生き残りで、村一番の勇者だったんです。若い頃は「荒野の赤い勇者」って呼ばれてたのよ。」
ソニックが
「白人嫌いの爺さんに何であんたが惚れたんだ?」
と尋ねると、ダイアナが
「まだ小さい頃に村で一番強い主人に命を助けてもらったんです。」
と話す。ソニックは
(ターザンみてーなもんか)
と食べながら思っていた。ベンとダイアナは村人達と葡萄農園とワイン醸造を営んでおり、ワインの出荷を終えこれから村へ帰る所だったという。ダイアナはソニックを見て
「若い頃の主人にそっくり。」
と話す。ソニックは
(あんたの旦那両眼あんじゃん)
と捻くれた様子。頑固で不器用な性格はお互い様だと桜とダイアナは盛り上がっていた。だが、ベンがソニック達を嫌うのは理由があった。ダイアナが話す。
ベンの父親は、とある先住民族の子孫で村の酋長であった。ベンが少年期、白人に村を襲撃され、両親や村の人々28名を目の前で虐殺された。ベンは生き残った人々と村を再建した。若い彼は成長し、17歳で「荒野の赤い勇者」として移民達から恐れられていた。そんなベンだったが、ダイアナが少女期、両親とベンの暮らす村の近くにピクニックに行った。するとダイアナは両親とはぐれて迷子になってしまう。そこを通りかかったベンが保護し、ダイアナの両親を探すため、馬に乗って探し回った。両親は無事見つかるが、ベンは両親や地元警察に迫害されてしまったという。
この話を聞いてソニックの食べていたステーキのフォークが止まる。ダイアナは話を続ける。
それから10年後、大学で農業を学んだダイアナはあの時の礼として、ベンに尽くそうと近くに住むようになり、そこで勝手に葡萄畑を作り始めた。ダイアナは「一緒にやりませんか?」と何度も誘うが、あの時迫害されたベンはダイアナに冷たくあしらった。それでもダイアナは一年後、葡萄畑を完成させ、ワインを自分で作り村人達に振る舞った。それを許せないベンは、更にダイアナに冷たく当たった。何度突き放しても諦めないダイアナだったが、再びベンの村へ移民達が襲撃に来た。ベンが追い払おうとするが、その前にダイアナが白人達に泣きながら立ち塞がり、ベンの村を守ったという。その勇気を認め、後にベンはダイアナを嫁に取ったのだそうだ。
だが、そのベンは傲慢不遜に話す
「当時チビだった白人のダイアナに手をかけられず助けてしまったから、ダイアナに付きまとわれて結婚することになっただけだ。」
(俺が菜っちゃんのテディベア取り返したのと同じか・・・)
と思い、ベンを見てソニックは
「俺達も同じ移民なんだよな。ましてや俺は祖国で人を大勢殺したんだ。だけど、それを含めて桜は俺を受け入れてくれた。何でか未だにわからねーけど、皆愛の力とか言うんだよな。爺さんすまなかった。俺達があんたらの土地に住まわせてもらってるんだよな。この国でどんなことしても、お礼を言うのは俺達の方だったよ。」
その夜、トイレに寄ったベンにソニックが車窓を見ながら質問する
「なあ、何であんたは白人のダイアナを許したんだ?」
ベンは
「若僧、いつかわかるよ。」
と言って去って行った。
数日間列車に揺られ、4人は村へたどり着いた。ソニックと桜は歓迎され、ソニックのことは村人達も知っていた。また、村人達も
「若い頃のベンみてーだな。」
と皆話していた。
ダイアナと村人達は、ソニックと桜にワインを振るまい、皆で楽しんだ。この感覚はWatts Towersと熊を狩って捌いて食ったときと同じ感覚だった。酔い潰れたソニックはその場で寝てしまう。
酔い潰れたソニックとベンを見ながら、桜はダイアナから
「愛する気持ちが強ければ、どんな困難も乗り越えられるのよ。どんな悪い敵が現れようと、2人でいれば怖くなくなるの。あたしはベンが守ってきたこの村と景色をベンと一緒に守りたかったの。どんな強大な敵が現れようとね。あたしは本気でベンを愛しているから自然と盾になれたのよ。」
と聞かされていた。桜はダイアナから「本気で愛する覚悟」を考えさせられる。
次の日の早朝、ベンが1人で起きて朝日をじっと見ていた。列車で会ったときと顔つきが全く違う勇ましい男の顔と鋭い眼光でオレンジ色の空を見上げていた。ソニックが側にいることに気付くとベンが
「付いてこい。」
とソニックを大きな谷の上に誘う。ベンが指笛を鳴らすと、一羽の白頭鷲がベンの右腕に止まり、ベンが右腕を前に出し再び飛び立たせた。朝日に向かって飛ぶ白頭鷲と、長槍とトマホークを持って谷にたたずむベン。するとベンが
「おい、若僧。見てろよ。」
と言うと、ベンはトマホークを一閃。
《ギュン!ズバッ!ビューン!》
《ビカッ!ズドーン!》
《ボッ!ボオッ!》
なんとソニックの必殺技「Jet」を反対側の谷へ放ち、崖が真っ二つになる。更に長槍を天にかざし、今度は「Volt」を鳴らし、谷底へ落とす。。そして長槍の刃とトマホークの刃で、ソニックの足元に「Burst」まで放った。ソニックは驚く。
(俺以外にもいたんた。「Sonic」を放つ人間が・・・)
老体ではあるが、ソニックと全く同じの「Sonic」という未知の能力を持っていた。後で若い頃は今のソニック以上の力だったと村人達から聞かされる。ベンは
「お前も能力者だろ。一目でわかったぞ。この力を持つ意味を決して忘れるな。お前はいずれこの世の中を変える男だ。」
「俺にとって大事なものは、長年に渡って築き上げたこの村とこの最高の景色だ。だが、ダイアナのおかげで俺は新しい大切な何かを手に入れた。それは言葉では言い表せないものだがな。」
と告げる。ソニックは彼に人生において大切な「新しい大切な何か」を考えさせられる。そしてソニックは真剣な顔つきになり、ベンに
「もしこの村が荒らされたら俺が守りに来ます。」
と約束し、ベンに自分が着ていたスカジャンを約束の証としてプレゼントした。
ダイアナは2人の帰り際、出来たてのワインを2本プレゼントしてくれた。そしてソニックは帰りの道中1人思う。
(この村の地平線を壊した奴ら、ぜってー許さねー!)
と怒りに燃え、絶対全部守り通すことをベンに誓った。
長旅を終えて若草家へ帰ったソニックと桜。緑に
「どうしたの?2人とも元気ないけど喧嘩でもしたの?」
と尋ねられたが、2人でにっこり口を揃えて
「俺達にしか味わえなかった最高の旅だったよ。」
と明るく報告した。
この話でソニックは初めて他者が放つ「Sonic」を目の当たりにしました。
ソニックの持つ能力は彼一人だけに許された特別な力ではないということです。




