第34話 RELIVE⑥ 何かを守るって難しいぞ
菜月が挫折した後、しっかりとした夢を持ち始める話です
「菜っちゃん、そりゃ違うよ。やってる事は間違ってねー。けど、この子に言った事は間違ってるよ。」
菜月が中学校へ進級してから2ヶ月が過ぎたある日のこと。菜月達は5人揃って男子の上級生に絡まれた。2年ほど前と同じシチュエーションだったが、その上級生を菜月が撃退した。だが、その前に菜月達と同じ小学校から一緒に入学した男子生徒がその上級生の前で注意し、ボコボコに殴られてしまった。その後に菜月が上級生をやっつけたのだが、菜月はその男子生徒に
「男のくせに情けないわね。」
と言ってしまった。彼の名前は安在達斗。菜月と同じ日本人学校で茜の担任していた生徒だったが、ひ弱で大人しく、争いごとは好まない真面目で優しい性格の割りに度胸が据わっており、悪を許せないタイプの男子である。
学校に呼ばれたソニックだったが、そのことに関し菜月にキレていた。
「達斗に謝りにいくぞ」
と、菜月達5人を連れて病院へ向かった。達斗は重傷で、両腕と右脚を折られ、首や肋骨も何本かいっており寝たきりの状態だった。ソニックは直ぐさま達斗と母親に土下座し、謝罪した。だが、菜月達は彼をまだ「情けない奴」として見下していた。菜月達のこの態度にソニックは病室でキレだした。
「菜っちゃん、そりゃ違げーだろ。やってる事は間違ってねー。けど、この子に言った事はぜってー間違ってんぞ。」
菜月はまだわかっていない。確かにソニックは男だし強い。いつも自分を守ってくれる優しい兄ちゃんだ。だからこそ達斗がただただ殴られてたのを見ていた。男ならやり返すのだろうと。だが達斗はやり返さなかった。男だろうと暴力が嫌いな男子だっている。ソニックも同じ年頃の頃はその部類だった。ソニックには達斗の気持ちが痛いほど伝わり、昔の弱い自分と重ね合わせていたのだ。
「おい、皆この子に謝れよ。皆を守るためにこんな酷い目に遭ってんだぞ。」
菜月は
「何で悪い奴をやっつけたのに怒られなきゃいけないの?男の子だったらやり返すでしょ?」
と達斗のことが眼中にないようだ。ソニックは
「菜っちゃん。やっつけたのはいいとして、この子に何て言ったんだ?兄ちゃんがキレてんのはそこだぞ!」
菜月は無言になった。ソニックはこの病室でスカジャンを脱ぎ、着ていたシャツを破り捨て上裸になった。ソニックの身体は日々のトレーニングで筋肉の引き締まった身体だったが、至る所に多くの深い傷跡で埋め尽くされていた。刺青を入れたヘラクレスといったところか・・・この傷はほとんど、あのダウンタウンの外れにあるライブハウス「エデン」で受けた傷だ。下腹部には銃痕もある。あのジャンキー達に毎日凶器や鈍器を投げられ、拳銃で撃たれ、左半身は大きな火傷痕まである。菜月はその話を、この病院の医院長であるライトボーンに聞かされていた。遅れて窓香達4人の両親や菜月の師匠、黒澤も駆けつけた。ソニックはこの傷跡を見せて菜月に再び話した。
「兄ちゃんはな、アメリカに来てずっと無抵抗で大事なもん守ってきた。それがどんなに辛いことかわかるか?」
「菜っちゃん。何かを守るって難しいぞ。菜っちゃんもこないだ経験したばかりじゃねーか。兄ちゃんNYにいて菜っちゃんの事守ってあげられなかった。兄ちゃんスゲー後悔したよ。」
「確かに大事な友達守った菜っちゃんはスゲー成長したよ。でもその「情けない」って台詞で全て台無しにしただけじゃなくて、菜っちゃん達守ったこの子を傷つけたんだぞ。それがどーいうことかわかるか?」
「兄ちゃんはいつも菜っちゃんに泣いていいよって言ってたろ?あれは菜っちゃんに優しい女の子になってほしかったから言ってたんだぞ。でも余計な力持ってその優しさまで捨てたって言うんだったら兄ちゃんがっかりだな。」
菜月も、この部屋にいる全員が真剣にソニックの話を静かに聞いていた。そしてソニックは床に胡座をかき、
「菜っちゃん。ケジメだ!兄ちゃんの顔面思い切り殴れ!心配しねーでも女の菜っちゃんにやり返せねーよ。おい!菜っちゃんが殴るまで誰一人この部屋から出さねーかんな!」
菜月は
(兄ちゃん。本気で怒ってる。)
と畏怖し始めた。
菜月はソニックに叱られた事が1度だけある。それは、ソニックが菜月に自転車を買ってあげた2ヶ月後の事である。菜月はいつもの5人と自転車で遠出したが、夜になっても誰も帰って来ない。ソニックや親達は心配し、鉄治やWatts Towers、更に小学校の先生方100人以上の人数をかけ、総出で探し回った。アメリカはとにかく治安が悪い。1時間後、コンボイ部隊のターボとクリスが発見した。クリスは
「見つかったぞ。ウェストカーソンの東の辺りで5人共自転車押して泣いて歩いてる。」
と報告し、トラックの荷台に自転車を積んで菜月達を連れて帰った。その時ソニックは、菜月の頭を平手で殴った直後、強く抱き締めて静かに泣いた。
「・・・心配したんだぞ。」
それを目の当たりにした友達の両親達は、ソニックの迫力に負け、殴るのを止めた。皆、ソニックがやらなかったら誰かが自分の娘を殴っていた。後で菜月に何処に行ったか尋ねると、ソニックと初めて2人で行ったローリングヒルズまで行ったが、帰り道が分からず彷徨っていたと言う。
あの時とは明らかに様子が違うソニック。次第に菜月はしくしく泣き出した。大好きな兄ちゃんを殴れず、手が震えていた。
「菜っちゃん。遠慮はいらねー。思いっきり殴れ。あん時ミット吹っ飛ばしたくれー思いっきりだぞ!」
そのあまりにも気迫のあるソニックに部屋中凍り付いた。ベッドから動けない達斗でさえも。黒澤はその様子を静観していた。ソニックの教育方針をじっくり見ていた。そして、菜月が遂にソニックの左頬を泣きながら思いっきりグーで殴った。するとソニックが
「菜っちゃん、いてーか?どこが痛い?まず手痛くねーのか?ここ(心)も。その涙はそういうことだろ。何かを守るって自分もいてーんだ。」
「いいか?悪者やっつける強さと悪者から守る強さってーのは違うぞ。強さの意味間違えんなよ。菜っちゃんは友達守りたくて格闘技始めたんだろ?だったらこの子だって守らねーとさ。この子は菜っちゃん達5人分痛かったんだぞ。それに菜っちゃんに冷たい事言われて余計に傷が深くなったんだ。その涙はわかったって証だ。これからは強さの意味忘れんじゃねーぞ。」
ソニックは菜月達と一緒に達登と両親に改めて謝罪した。黒澤も指導が至らなかったと謝罪した。達登は重傷で動けなかったが、全員を許した。
あの一件以来、菜月はしばらくスランプに陥った。稽古に身が入らず、それを見かねた黒澤が、ソニックにある提案をする。
「冬期休暇の間、俺に預けてくれないか?」
ソニックは
「菜っちゃんがいいって言えばいいですよ。」
クリスマス・イブに入り、菜月はビバリーヒルズの黒澤邸から、ハリウッドの撮影所に足を運んでいた。黒澤は当時、ハリウッド映画のキャストに抜擢され、菜月に直に見てもらおうと考えていた。そこにはいつもと違う師匠の姿がある。危険なアクションを行うため、撮影スタッフと綿密なディスカッションをしながら行っていた。黒澤は同時にキャスト達のアクション指導も行っていた。その映画の主人公は女優だった。その映画には日本の俳優も多数出演しており、中には菜月より少し年上の若い女優も混ざっていた。黒澤は菜月に対し
「格闘技は誰かを守ったり、傷つけたりするのもあるが、こういう風に魅せる事も出来るんだ。やってみないか?」
菜月の気持ちが思い切り揺らいでいった。そして、休暇が終わり若草家へ帰る菜月が珍しく、ソニックに物をねだった。
「兄ちゃん。買って欲しいものがあるんだけど・・・」
自分の服すらねだったことのない菜月が欲しいものと聞いてソニックは喜んで買ってあげたのはテレビとDVDプレーヤー。菜月はそれからというもの、家に帰って夕食を済ませると、決まって自分の部屋で黒澤から借りたDVDを観ながら同じ動きを何度も繰り返していた。
そして1ヶ月後、ソニックと若草ファミリーに
「兄ちゃん。あたしアクション女優になる!」
と言って驚かせたが、ソニックはあっさり
「わかった。いいよ。怪我に注意すんだぞ。」
と返答する。緑や桜、菫が
「そんな簡単にでいいの?」
と尋ねるが、ソニックは
「菜っちゃんの話ちゃんと聞いてねーだろ?「なりたい」じゃなくて「なる」ってはっきり言ってんだぞ。ありゃもう止めらんねーし、止める理由なんてねーよ。菜っちゃんは自分の光見つけたんだからよ。どーやら菜っちゃんの特別な「何か」が生まれそーな気がしてわくわくしてきたぜ。」
と何かを悟ったような発言をする。
この日から菜月の目の輝きが驚くほどに変わった。毎日DVDのキャラクターと格闘する毎日。あまりに熱心なので、ソニックと史郎が菜月のために動き出した。この若草家の地下室には、史郎とソニックが週末に使っている酒を酌み交わす部屋の他にそこそこ大きなスタジオがある。ソニックは使ってないのでそのスタジオを菜月の練習部屋に代えようと相談していた。菜月はそれを聞いて
「いいの?」
と言ったが、ソニックが
「せっかくマジになれること見つけたんだろ?兄ちゃん達応援すっからよ。」
と言って菜月を喜ばせた。ソニックは地下室に、DVDプレーヤーとルームシアター、サンドバッグを買ってあげた。地下室の改築にゴッグ、エディ、アポロ、シャフト、ルーク、ターボ、サブに協力してもらった。それからというもの菜月は朝まで地下室にこもり、毎日稽古をしていた。たまに気絶した菜月をソニックが抱きかかえて部屋に寝かせた。
一方達斗は、順調に怪我が回復するものの、入院中に何か考えていた。菜月達が見舞いに行ってるが元気が無いようだ。病院にたまたま寄ったソニックと、もうすぐ定年退職になるニールが様子を見に行った。達斗は弁護士を目指していたらしいが、今回の一件で言葉だけじゃどーにもならない事を味あわされた。達斗はソニックに
「このままじゃほんとに情けない。」
と話す。ソニックは
「そんなこたねーぞ。お前はちゃんと戦えたじゃねーか。」
と諭すも達斗は
「やっぱこのままじゃいけないと思うんだ。もっと強くならないと。」
と思い悩んでいる様子。達斗は一緒にいたニールに
「・・・あの、警察官になるにはどうしたらいいんですか?」
と言い出す。するとソニックは
「それじゃあ俺の「敵」になっちまうよ。別のになってほしいな。例えばこのニールみてーなのとかさ。」
年老いたニールは戸惑う
「おいおい、こんな小僧にインターポールが務まるかよ。こう見えて世界中飛び回ってんだぞ。」
それでも達斗は
「俺、強くなりたいんです。今まで弁護士になろうって思ってたけど、それじゃ通用しないって事がわかったんです。俺、皆の夢を守れるような男になりたいんです。」
と話した。明らかに達斗の目は輝いていた。それを感じたソニックは
「本当は性分じゃねーんだけど、妹守ってくれたお礼だ。俺がお前の師匠になってやる。怪我治ったら俺んとこ来い。ただし、菜っちゃん達には秘密だぞ。俺達2人だけの約束だからな。他所に言いふらすなよ。」
というと、達斗から
「はい!よろしくお願いします!」
と頭を下げられた。
菜月が自分の光を見つけたのと同時期に、もう一人の光をソニックが預かることになった。怪我が治った後、達斗は毎朝ソニックに直々に技を伝授される唯一の人物となる。後年、彼が全世界を揺るがす大手柄を上げる事になるとはソニックさえもわからなかったろう
よく有名人になろうとするのを反対する親がいるのですが、ソニックは反対しませんでした。この御時世に安定した生活は保証されていないからです。生きてるうちに何でも好きなことをやって欲しいというソニックの親心を書きました。奈月はソニックと別の道で成功を掴んでいきます




