第3話 下らねー世の中をぶっ壊せ!
日本編三部作最終章です。
龍司はカタメと初めて面会したときから思っていた。
(こいつ、絶対何か持ってるな。)
それが今、的中した。
ライブはいつも盛況だ。バックは龍司達「Try Flyers」が手伝っている。路上ライブでは集まりが悪いが、いつも最前列でバンダナを巻いた少女がカタメの歌を聞き入っている。名前は知らないが。彼女に名前を訪ねられても
「カタメでいい。」
とだけ返した。大分後の話になるが、2人は思わぬ形で再会する。
一方龍司はカタメを見ながら考えていた。確かにカタメは歌も曲もいいセンスを持ってる。だがこのままでいいのだろうか?
「あいつバンド作んねーのか?友達や仲間作って一緒に音楽やらねーのか?」
カタメにそんな発想は無い。何故なら人が信じられないからだ。いつも路上でやるか、金を貯めてスタジオに1人で籠もるかであった。バンド募集の張り紙等見向きもしなかった。そんな時、ある男がカタメを訪ねてラーメン店にやって来る。
【高木鉄治】
ミュージシャンをスカウトする駆け出しのマネージャーをやっているこの男が、カタメをプロにしてメジャーデビューさせようと話を持ちかけた。
「メジャーデビューして一緒にやらないか?」
毎日のように訪ねてくるこの胡散臭い男にカタメはうんざりしていた。実はカタメには既に多くのレコード会社や音楽関係者がカタメを引き入れようとしては、追い返されていた。どんな大人もカタメにとっては
「俺を利用する奴ら」
「見せしめようとする奴ら」
に見えていた。それでも付きまとうこの男は、どうしてもカタメの曲を世に出したかった。それにはある理由があった。
鉄治はマネージャーに成り立てである。数ヶ月前まで警視庁の警察官であり、機動隊に属していたこともある武闘派である。鉄治は数ヶ月前に犯人に拳銃を撃ったが、誤って民間人を負傷させてしまった。事故なのだが責任を取りそのまま辞職し途方に暮れていたところ、路上ライブでカタメの曲を聞き、1発で惚れ込んでしまった。カタメの歌に救われたのである。余りに度が過ぎたのか、カタメは
「オメ-らしつけーんだよ!俺はカメラが嫌いなんだ!これ以上まとわりつくなら音楽なんて辞めんてやんぞ!」
とまで言い放つ。それには深い理由がある。1度罪を侵した自分が世間に顔も名前も明かしたくない。カメラ向けられるなんてたまったもんじゃない。何も晒されたくない。あんな目に遭うくらいなら、いっそ死んだ方がマシだと鉄治に向かって怒り出す。すると鉄治が
「つまりカメラ向けられて、顔映りたくないって事か?」
そんな都合のいい話なんてない。カタメはひっそり暮らしたいだけ、ただ生きていればいいと思っていた。カタメは不器用な男だ。芸名なんて考えたくもない。すると鉄治が提案する。
「それならいいレコード会社がある。あそこのミュージシャン達はメディアに一切出ないが、ミリオンヒットを連発するミュージシャンが多数在籍している。そこでならどうだ?」
「は?そんな都合いいとこねーだろ?」
とカタメは返したが、龍司や「Try Flyers」のメンバー達は、あそこならと理解していたようだ。まだ鉄治を疑いつつ、1週間後そのレコード会社に2人で赴く。そのレコード会社とは
【Burning Gear】
1980代初頭に発足。音楽業界では新興勢力だが、この1990年代初頭から、所属ミュージシャンが次々と台頭。ミリオンヒットを連発し現代に至る。
そこの関係者は、カタメとは路上ライブやライブハウスで2、3回程声をかけていたが、断られていた。他と同様「胡散臭い」からだ。
その「Burning Gear」の社長、塚原慎也と直接面会する事になったカタメと鉄治。カタメはギラギラした左眼を尖らせ睨んでいるが、塚原の顔は違った。ニヤニヤして胡散臭い事に変わりはないが、どこか掴み所がない。だが、その瞳は何故か輝いていた。まるで、初めて大きな夢を持ち、それに向かって興味を持ち出した子供のような眼であった。カタメがどんな暗い過去や今の考えを話しても笑顔で
「へえ、うんうん!そうかあ!」
と、好奇心旺盛に聞き返してくる。カタメが過去を話しても何とも思っておらず、むしろカタメの未来について聞いてきた。こんな人物と会うのは初めてであった。塚原はカタメの話をニコニコしながら真剣に聞いた。そして、カタメにこう提案する。
「それなら、彼と一緒にアメリカ行って来なよ。アメリカなら君の事誰も知らないだろ。」
「アメリカに行って君の思うその下らない世の中って言うの?君の音楽で一緒にぶち壊してみなよ。」
「返事は後でいいよ。若いんだからゆっくり考えなさい。」
塚原のその話を持って帰り2人は部屋を出る。
その夜カタメは部屋に籠り1人で悩んでいた。すると龍司がカタメの部屋越しに座り語りかける。
「なあ、お前何でいつも簡単に諦めるんだよ。何で簡単に大事なもんを平気で捨てるんだよ?」
カタメはただ黙って聞いていた。
「別に今すぐアメリカ行けって言ってるんじゃないぞ。お前には何か・・・可能性があるっつーか、その、上手く言えねーんだけど・・・お前の中に特別に大事な何かが秘められているような気がすんだよ。それを簡単に捨てちゃいけねーだろ?」
カタメは怒りにも震えにも聞こえる声で返す。
「そんならその大事なもんあんたにくれてやるよ。もう嫌なんだよ!こんな面も名前も世間に晒すのはよ!」
龍司は諭すように話す。
「だけどな、その大事なもんってーのは、お前みたいなごく一部の人間しか握れねーもんなんだよ。俺がどんなに必死に頑張っても掴めなかったもんを、お前は既に掴んでるのに放り投げてしまう。そいつを他の誰かが拾おうとしても、簡単に掴めねーんだよ。それって勿体ねーと思わねーか?」
カタメは沈黙して聞く。
「お前あんなに死にたいって思ってたんだろ?だったら1回死んだつもりで行ってこいよ。ダメならまたここに帰って来ればいいからよ。」
部屋越しにカタメが泣いているのを確認した龍司。今あいつを慰めたなら、あいつは2度と自分で前に進めなくなる。
「答えは自分自身で決めるんだぞ。どっちにせよ頑張れよ。」
そう言って龍司は店に戻った。
カタメは考えていた。
(確かにアメリカ行けば誰も俺の正体なんか知ったこっちゃねーよな。つーか誰も俺に興味ねーんじゃねーか?俺はここに来るまでずっと「死にたい。」と思っていた。だったらアメリカで派手に死んでやろう。)
カタメの決意は固まった。
翌日、鉄治がラーメン屋を訪ねて来た。覚悟を決めたカタメは鉄治に話す。
「わかったよ。あんたとアメリカ行くよ。けどな!あんたは俺の骨を拾う役だ!向こうで死ぬまでぜってー帰らねーからな!どんなことがあってもだ!」
鉄治は自らも覚悟した。今のカタメのような目をした者を何人も見てきた。あれは戦いに赴き死ぬ覚悟をした目だ。
(その前に絶対あいつを世間に出してやる。その為なら何だってやる。あいつ以上徹底的に汚れてやる!)
鉄治は固く誓った。
後日、「Burning Gear」に2人で赴く。契約は2年。生命保険と保険証、パスポートと片道の飛行機代が渡される。それまでに結果を出さなければ契約解除ということだった。
その日は別れ、カタメは菜月の保育園に迎えに行った帰りに、近くの水族館・シーパラダイスやコスモワールドに連れていって遊んだ。龍司の許可は取ってある。菜月とも1度別れ、再開する事になるのだが、その続きはしばらく後になる。
そして、アメリカに経つ日がやって来た。荷物はギターとベース、着替え、テントと寝袋、和英辞典。「Try Flyers」のメンバーが衣装代わりにと渡したスカジャン4着、そして、片道切符。足下で菜月が泣いている。
「兄ちゃん、行かないで。」
カタメはしゃがんで菜月に囁いた。
「必ず逢えるよ。生きていれば必ず。菜っちゃん、またな。」
1995年1月20日 カタメは鉄治と共にアメリカへ経つ。このくだらねー世界をぶっ壊すために
次回からはアメリカ編に突入します。
ファンタジー要素はその後の話になります。




