↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/79

第29話 世の中への引導と熊襲太鼓の力

ニューヨーク編三部作中編です。


 コンボイ達がトレーラーをマンハッタン島へ運び終わったのは、9月13日午後14時頃であった。それでもまだ瓦礫は一向に片付かない。そんな中、トレーラーのスタジオ車のコンテナから突然「あの物」が勝手に鉄で出来たコンテナをぶち破り、自力で転がってワールドトレードセンター前にいるソニックの前で止まった。「熊襲太鼓」である。その「熊襲太鼓」が


《ボオッ!ボオッ!》


と雄叫びを上げ、ソニックと意思を通わせる。


(俺を叩け。こいつら全員助けてやる。)


ソニックは


(こんな時に何言ってやがる?この状況がわからねーのか?オメーに構ってる暇はねー。)


それでも熊襲太鼓は


(こういう状況だから俺が存在するんだ。全身全霊で叩け。俺は2000年以上前から準備してきたんだ。俺に全部任せろ。俺を信じろ。そしてお前自身と仲間を信じろ。)


ソニックは手を止め、瓦礫の撤去作業中の者達に説明する。


「熊襲太鼓が叩けって言ってる。全員助けるってよ。やってみるわ。」


ハックに準備を手伝ってもらい、台を作り、叩きやすいよう身体を紐で縛り鉢巻きをぎゅっと締め気合いを入れる。この熊襲太鼓に「Sonic」を撃ち込む。これが自分に出来る、自分にしか出来ない唯一の事だと言い聞かせながら。


 ソニックの長いドラムスティックで熊襲太鼓の演奏が始まった。始めは誰も気にも止めていなかったが、あれだけ重い瓦礫が、運ぶ者達にとってみるみる軽くなっていったそうだ。あれだけ踏ん張って持ち上げていた瓦礫がひょいひょい片付いていく。まるでバスケットボールくらいの軽さだと誰かが話した。祈っていた住人達も加わり、バケツリレーのように片付いていく。更に救急車や仮救護所となったトレーラー内の患者達、特にベッドで今にも死にかけていた者達が次々と活力を与えられ、熊襲太鼓のリズムで脈拍が安定し回復していった。ソニックは熊襲太鼓を叩きながら


(あの時の啓示ってこれのことだったんだな・・・)


(だがな、ありゃ間違ってるよな。救っているのは目の前にいる瓦礫撤去してる奴らや、応急処置してる奴らだしな。あんな見えねーもん信用しなくてよかったぜ。)


(おっちゃん、今ならきちんと答えられるよ。生きてるってどういうことか、死んでしまったらおしまいなんだよな。生きているから助けたいし、生きているから繋がっていくし、生きているから人を信じたくなるんだよな。今、俺は心の底から目の前で生きることに頑張っている奴らに生きててほしいからさ。)


(俺の中にいるんだろ?おっちゃん。頼むよ。いたら俺に力を貸してくれ!)


ソニックの熊襲太鼓は激しさを増し、リズミカルに、まるで周囲の人間達に底力を与え、命を吹き込んでいるような音色だった。また、空や大地を揺るがし、この惨劇を生んだ世の中や物事に喧嘩を売るような、戦いを挑むような力強さを備えていた。瓦礫はテンポ良くどんどん撤去され、傷病者はパワーと元気をもらい、何も出来ずにいた周囲の人々やマンハッタン島の住民達は、この熊襲太鼓の音色で勇気と希望をもらい動き出した。この太鼓の音を聞いた全員が正気に戻り


「今、自分に出来ることは何か。」


を考え実行に移しだした。ある者は瓦礫の撤去を手伝い、消防隊、Watts Towers、ジャンボ・マックス達ハーレムの男達を休ませた。ある者は彼ら撤去作業を行った者達に水や食料を提供した。力のない物もマッサージや輸血をした。ベッドで苦しんでいる人々を励まし、まだ瓦礫の下敷きになっている人々に


「Hang in there!」

「Don`t give up!」

「You can do it!」


とエールを送り続ける者も多くいた。ソニックは


(それでいいんだ。俺達みんなでやれることをやろう。)


と思いながら、実に2週間飲まず食わずでこの熊襲太鼓を叩き続けた。あの「ドラム殺し」の熊襲太鼓をここまで叩ける人物は、叩かれてる熊襲太鼓ですら未だにいなかったとソニックと通わせていた。


 そして、あの事件から半月が経った時、ソニックは力尽き、倒れてしまった。意識はあり言葉も話せるが、両腕が上がらない。熊襲太鼓が


(どうした?もう終わりか?)


と問いかける。ソニックは意地でも太鼓を叩こうとするが、力が入らず熊襲太鼓に身体がもたれかかる。すると熊襲太鼓が、


(お前に伝えた筈だ。俺に全部任せろ。俺を信じろ。そしてお前自身と仲間を信じろと。ここにいるのはお前だけではないだろう?お前1人で生きてるつもりか?お前1人で戦っているのか?)


ソニックは今、目の前にいる者達をぐるりと見渡した。数時間だけでいい。俺の代わりに誰かこの化け物太鼓を叩ける奴はいないかと。ソニックは少し頭を柔らかくして考え、そしてその旨を熊襲太鼓に伝える。


(お前は1人で叩かなきゃダメなのか?)


熊襲太鼓は答える。


(何人でも構わんぞ。ただし、全身全霊で叩ければの話だがな。)


ソニックは熊襲太鼓に確認した。


(あそこにいるでかい奴2人、お前はどう思う?)


熊襲太鼓は


(奴ら2人が本当の意味で力を合わせられるなら可能だろう。舐めてかかるなと伝えておけ。)


ソニックは倒れた身体を無理矢理起こし、その2人の男に代役を頼んだ。その男達は


「ビッグ・ジョー!ジャンボ・マックス!こっちに来てくれ!」


イースト・ハーレムで出会って以来因縁のあるこの2人。あれから半月経ち、瓦礫撤去作業を共に行っているが、あれ以来口も利いていない。向こうがでかい瓦礫を持てば、こっちはもっとでかい瓦礫を運ぶ。こっちが重い瓦礫を持てば、あっちはもっと重い瓦礫を運ぶ。そんな意地の張り合いをこの作業中に今でもやっている。そんな2人だからこそ頼んだ。


「熊襲がお前ら2人を指名してる。代わりに叩いてくんねーか?俺はしばらく動けねーわ。腕が上がらん。」


完全にへばったソニック。立つことも難しく消耗していた。だがビッグ・ジョーは一度叩いて手首を折っている。この熊襲太鼓の恐ろしさは身をもって知ってはいたが引き受けた。ジャンボ・マックスも何故か引き受けてくれた。恐らく1人ずつじゃ両者の腕が持って行かれるだろう。だが、野球やゴルフのようにドラムスティックを1本ずつ、野球のバットやゴルフクラブのように全力のフルスウィングで叩けば、この怪力2人ならと信じて指名した。ソニックは説明する。


「このスティックを両手で持って互いに呼吸を合わせてフルスイングして叩くんだ。全力で集中して叩かねーとこの化け物太鼓に身体ごと持ってかれるぞ。パワーと根性が桁外れなお前ら2人だけが頼りだ。この太鼓叩いて皆を蘇らせてくれ。お前らだから出来るってこの太鼓が言っているんだ。数時間だけでいい。頼む。叩いてくれ。」


2人はそれぞれドラムスティックを1本ずつ手渡され、構えた。ビッグ・ジョーが


「おい、オメーちゃんと合わせろよ!」


と話し、ジャンボ・マックスが


「テメーこそな!俺を舐めんな!」


と言い放つ。ソニックが熊襲太鼓を叩いている間、ハックが持ってきたメトロノームのリズムに合わせて、2人同時に叩いた。ビッグ・ジョーもジャンボマックスも、腕の太さは菜月の身体ほどである。そんな巨漢の2人に叩かれた熊襲太鼓は、ソニック以上の大きな音を響かせた。側にいた女性数名に音頭を取るようソニックが頼んだ。2人の呼吸がバッチリ合い、熊襲太鼓が再び鳴り響いた。最初は同時だったが、互いに阿吽の呼吸でソニックのようなテンポとリズムの掛け合いで、再び周囲の者達に活力を与えた。その間、ソニックは約半月ぶりに食事を摂った。皆が交代で休憩している間もソニックは全く休んでいなかった。その時ソニックに水を差しだした女性がいた。その女性はNY在住の日本のシンガーだった。ソニックの熊襲太鼓を聞き、ボランティアに参加したと話す。


彼女の名は加藤 真琴。日本のソウルシンガーでこのマンハッタンを拠点に活動している。9・11のテロにより避難誘導されていたが、ソニックの熊襲太鼓の音色を聞き、再びマンハッタンに戻ってきた。先程までは救護所の手伝いをしていたと話していた。後にこの事件がきっかけとなりNY復興に尽力し、後年は世界中でボランティア活動を行うようになる。


真琴に運ばれて、トレーラーの寝台車で仮眠を取った。その間にビッグ・ジョーとジャンボ・マックスは、一心同体にでもなったように熊襲太鼓を叩き続けていた。熊襲太鼓はこの男達を認めたのである。ソニックが眠っている間に、瓦礫の中から息のある人々は大体救助されたようだ。半日近く眠っていたソニックだったが、2人と交代する頃にはすっかり打ち解けていた。


「オメーやるじゃねーか。」


「オメーもな。中々楽しかったぜ。」


2人はそのまま座り込み、その場で眠ってしまった。東西の横綱が手を組んだような光景だった。


【ジャック・ボガード・マックス】

通称「ジャンボ・マックス」


この次期にハーレムの重鎮として生きていた彼は、この9・11の事件がきっかけでソニックの友となる。そして、熊襲太鼓をビッグ・ジョーと2人で叩き、ジョーと親友になった。彼はこの事件を経て後にNY消防局SOC(スペシャル・オペレーションズ・コマンド)のチームに所属することになる。


 次第にまた夜になっていく。コンボイ達残りのトレーラーも既に入ってきており、ツアー用に保管していた食料や水を皆で分け合って食べた。ツアーはというと中止とならざるを得なくなった。本当は2日目のアポロ・シアターでのライブがとっくに終わって今頃はデトロイトだったが、この事件で全てお蔵入りになってしまっていた。現地の新聞記者やジャーナリスト達がこの事件の情報を話しているのを聞きながら皆瓦礫を片付けていた。どうやら中東イスラム勢力のテロだと話しており、ほぼ確実だそうだ。ソニックは夜空を見ながら


(宗教っていう名のドラッグに犯されて、世の中を走り狂っている連中の仕業だろうな。エデンの連中と変わんねーな・・・)


(このテロ事件はまるで夜空に今までの歴史がばらまかれてくようだ・・・21世紀も戦争かよ。全くこの人類は懲りねーよな。どの時代も戦争戦争・・・これからまたどっかで戦争が始まるんだろうな。この狂った戦いはいつまで続くんだろーな?ほんと世の中やってらんねーよ。)


 こうして2002年5月、全ての瓦礫が撤去された。ソニックやWatts Towersはツアーを全て中止し、このままLAに帰ることになった。この地は後年「グラウンド・ゼロ」と呼ばれるが、ここでNY市長から


「帰る前に君達のライブをここでやってくれないか?」


と打診された。この事件でいろんなミュージシャンの曲に自粛がかけられ、「Sonic Los Angeles」の楽曲はほぼ全て引っかかっていた筈だが、何故頼むのかと不思議がっていた。皆で話し合った結果


「2日目にアポロ・シアターでやる予定だったんですが、それ終わってからで。」


ということになった。真意はわからない。何故「Battle Music」と呼ばれている「Sonic Los Angeles」が指名されたのか。引き受けたソニック達Watts Towersだったが、その日のライブでソニックは世界中を揺るがすタブーを言いまくり、世界中が様々なことを考え直すきっかけとなっていく。


直接的な「Sonic」が使えない今、熊襲太鼓を通じて「Sonic」を放つ能力を初めて使います。

熊襲太鼓の能力や意思を持つ設定は架空の物です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。