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第27話 獣から人に戻った日

ソニックが菜月を育てるために大人になっていく話です。

また、菜月がこの話を機に大きく成長していきます。

 菜月がアメリカに来てからもう1年3ヶ月が経っていた。去年のグラミー賞に古賀達「Try Flyers 」を招いた際、「なみや」の焼け跡から出てきた菜月の産まれたばかりの頃から撮ってきた写真を探しだして復元し、菜月に手渡した。その写真は菜月の部屋と、若草家のPCの中で大事に保管されている。


 菜月の写真はアメリカに来て沢山撮った。想い出を全て失われた菜月にとって、これから想い出を沢山作ろうと若草家の女性陣が写真を撮りまくっていた。正月の晴れ着、ディズニーランド、サンタモニカやベニスでの海水浴、学校での風景、ハロウィンやクリスマス、バレンタインで友達の家に行った時の写真等。日本で撮った時より沢山撮った。それらは菜月の部屋中にテディベアを囲むように飾られていた。


 3月、LA は日本と違いちょうど折り返しの時期。ソニックは今日初めて菜月の授業参観に行く。流石にスカジャンは菜月が恥かくだろうと、ソニックは初めてスーツを着た。若草家で


「菜っちゃん。どうだ?似合うか?」


ソニックは、古着屋を立ち上げたトニーニョ、ジウ、バズが作ってくれたスーツを着ているが、それは3つボタンの黒いモッズスーツだった。ネクタイの結び方は史郎や鉄治が散々教えたが、上手く結べず桜が絞めてくれた。菜月は


「カッコいいよ。兄ちゃん。」


と言ったが若草家の女性陣は


「似合わないなー。菜っちゃんに恥かかさないでよ。」


と不安な様子。菜月は先に通学バスに乗り、ソニックは4時間目に行く予定である。

 

 そして、菜月が通う日本人学校に着いたソニック。菜月は4年生のクラスにいる。近所のお母さん達に混ざり、かなり浮いているソニック。教壇には茜がいる。何か不思議な気分。どうやら日本語(国語)の授業で順番に作文を読む事になっているらしい。菜月の番が来た。菜月はソニックへの感謝の文を読み上げる。菜月の一言一言にソニックは目頭を熱くさせる。菜月が読み終わると、茜が小声で


「菜っちゃん。後ろ後ろ!」


と言って菜月が振り返ると、何とソニックが泣いていた。子供達に


「あー!ソニック泣いてるー。」


とからかわれ、涙が止まらないソニックは、


「う、うるせえよ・・・!」


と照れていた。その場にいた子供達や保護者は、


「なんだ。ソニックもただのお兄ちゃんじゃない。」


と安心していた。


 後日、茜の要請でソニックは月に1回菜月の学校で特別授業を依頼された。グラミー賞を取ったソニックはLA では英雄である。茜達教師はそんな英雄の話はちゃんと聞くだろうと打診した。子供は純粋だから傷つけないようにしようとソニックは色々考えた。特に菜月の世代からは現実を直視していく年頃の為、夢と現実を上手く織り混ぜながら話す。


例えば「サンタクロースは本当にいるのか」


「サンタクロースはいるよ。アメリカじゃインディアナ州ってとこにサンタクロースの村がある。冬限定だけどちゃんといるよ。信じてる子なら必ず会えるよ。」


朝御飯を食べて来ない子供達には


「朝はちゃんと食った方がいいよ。朝飯食べねーって事は、その日一日を無駄にするようなもんだからな。それを毎日続けてっとその年1年無駄になるし、無駄な人生を送ることになる。みんなには充実した人生送ってもらいてーからな。みんな朝から勉強とか遊んだりするだろ?そのエネルギーは朝御飯食わないと出ねーんだぞ。」


有名人になりたいと言う子供達に


「有名人になりたいなら、街中を素っ裸でダッシュすりゃ誰でもなれるよ。有名人なんてそんなもんだよ。大したことねーよ。めんどくせーだけだよよ。」


お金持ちになりたいと言う子供達には


「それなら今学校で習ってる勉強をして、大人になったらそれを自分の考えで使いこなすんだ。特に言葉と数字。日本語や英語、算数は必ず使うから、兄ちゃんも苦手だけどちゃんとやるんだぞ。お金って丸ごと貰えないからな。世の中税金ってのを引かれる決まりになってるんだけど、それ間違えるとお巡りさんに捕まっちゃうからきちんと出来るようになるんだぞ。」


かっこよくなりたいと思う子には


「かっこよくなりてーかあ・・・兄ちゃんもかっこいい男ではねーんだけど、まずは誰でもいいから人に好かれることかなあ?みんなが嫌がることやってたらまずかっこ悪いと思うな。例えば弱い者苛めする奴は確実にかっこ悪いよな。だって嫌がることしたら嫌われるだろ?それよりその苛められてる子を助けられる事が出来たらかっこいいよなあ。それって誰でも出来ることじゃねーしさ。まあ、自分にしか出来ない事をやりながら夢や目標にひたむきに生きてる奴らは黙っててもみんなかっこいいと兄ちゃんは思うなあ。」


ソニックは出来るだけ分かりやすく話した。全て実体験をほどいた話だ。


(アメリカに来て、鰐や野鳥や熊を狩って食べたなんてとても言えやしないが、それやってなきゃここにもいないしなあ・・・)


(この子供達、今勉強しないと俺達みたいになっちまうよなあ・・・)


と思っていた。


 それからしばらくして、学校でマグロの解体をやる事になった。ソニックが市場で購入した冷凍マグロを男の先生方に手伝ってもらい捌いた。男の子は興味深く見たり手伝ったりするが、後ろで菜月や女の子達が可哀想だと泣いていた。ソニックは彼女らに


「なあ、みんな。これ見て可哀想だと思うか?」


菜月達は泣きながら頷く。


「そう思うんなら、食べる前にでっかい声でいただきますって言うんだ。それで一つも残さず食べて、食べ終わったらまたでっかい声でごちそうさまって言うんだぞ。それでチャラになるから。肉も魚も野菜だって生きてるんだから。俺達人間は他の生き物の命を貰って生きられるんだ。忘れんなよ。」


その日から彼女らは食べ物に対する礼儀を学んだ。


 アメリカでの運動会はField Dayと呼ばれ、ソニックが保護者代表で参加する。ソニックは毎朝、若草家のあるトーランスから、アナログ・キングダムのあるレイク・ウッドまでロードワークやトレーニングを行っており、窓香の父親を始め、皆目撃している。更にソニックは22歳と若く、やる気満々だった。その時先生が


「はーい。ソニックの兄ちゃん若くてハンデがあるから、今日は助っ人呼んでまーす。皆さーん!入場して下さーい!」


そこに現れたWatts Towersの面々。助っ人として茜が呼び出した。


「げっ!何でオメーらが?!」


茜が


「皆あんたに敵うわけないでしょ?ハンデあげなさいよ。」


と言いくるめた。ソニックは


「・・・いいけど子供達に選ばせてよ。」


(やべーなあ・・・ファルコン、アポロ、ニコ、アニマル、ゴブは俺より足速いからなあ・・・)


結果はファルコンのいるチームが勝った。ソニックは「見かけ倒し」と言われ悔しがった。


Watts Towersは昼休みにジャッキーのDJでダンスを踊った。ファルコン、アパッチ、ロッキー、ガービー、ジャイロ、ドミンゴがブレイクダンスを披露した。ビッグ・ジョーやブライ、クローバー、マック、コンボイが小さい子供達を肩車した。レオやジウが宙返りを披露すると歓声があがり、ロブやマルコがジャッキーに合わせてラップを披露する。この時には、Watts Towers数名は所帯を持ってアナログ・キングダムから離れて暮らしていた。Watts Towersも子供達に大人気だった。あのスラムを生き抜いた男達が、ようやく社会にそしてこの幸せな世の中に溶け込んだ。


 菜月ももうすぐ進級する6月のある日、また菜月達は5人揃って上級生に苛められて帰ってきた。今度は地元の中学生だった。菜月は泣きながら


「兄ちゃん。兄ちゃんの名前出してもダメだった。皆のこと、守れなかった。」


この後、菜月が今までなら考えられない事を頼む


「兄ちゃん。あたしあいつらやっつけたい!だから技教えて!」


ソニックは


(あの泣いてばかりの菜っちゃんがそんな事言うなんて・・・)


と驚く。ソニックは鉄治やニールに教わった護身術や「Sonic」しか知らない。困ったソニックは


「うーん。兄ちゃんプロじゃないしなあ。別の道場探してやるからそこに通ったらどうだ?」


そうこう探していると鉄治が


「黒澤豪がLAで道場開いてるらしいぞ。」


ソニックはテレビや映画を観ないので知らなかった。


「誰それ?」


と鉄治に聞くと


「お前、日本に生まれて黒澤豪知らねーのかよ。日米でも有名なハリウッドのアクション俳優だぞ。和製ジャッキーチェンみてーな人だよ。」


ソニックは考える。


(・・・菜っちゃんこっち来てから習い事してねーからなあ。友達作りにいいだろ。嫌なら辞めりゃいいし。)


菜月の友達、窓香はピアノ、由香里はバレエ、望美は水泳、千尋はスキーと生け花を習っていた。ソニックは道場に連絡すると


「一度見学においで。」


と誘われる。バカンスに入り、菜月を連れて見学に行った。道場はLAのサンタモニカ近郊にあった。道場に入ると黒澤が


「待ってたよソニック!」


と歓迎される。どうやらソニックの事を知っているようだ。黒澤は明るく


「この娘が君の妹さんか?こっちおいで。」


と道場内へ菜月を連れて行く。アメリカの菜月くらいの子供達がバク宙の練習をしていた。ソニックは思わず


「・・・スゲー。」


と言うが、黒澤は


「君の方が凄いだろ。毎日この辺まで歌が響いてるよ。それよりソニック、私と一本立ち合ってみないか?」


と誘われる。ソニックは


「我流で良ければ・・・」


と承諾し、道着を借りた。相手はよく知らないがプロだ。既に隙がない。


始めは剣道で勝負した。因みにソニックは剣道をやった事はない。せいぜい鉄パイプ振り回したのと、後は中学生の頃に盗んだ日本刀振り回したくらいだ。作法も何も知らず、試合が始まる。ソニックは勘で、残された左眼を閉じる。片方しかない眼で追うより、音楽で鍛えた耳を頼りにした。黒澤はこの時、ソニックから一切の隙が無くなったのを感じたその瞬間、ソニックの「籠手」が綺麗に決まり、続けて「突き」が決まった。ソニックはアメリカに来てからは、ほとんどの人間が武器を持っていたためか、条件反射で打ち込んだ。門下生から拍手が飛ぶ。黒澤が次は素手で勝負したいと持ちかけた。だが、ソニックは、


(・・・今一瞬「Sonic」使いそうだったからなあ。素手で大丈夫かなあ?この人めっちゃ強いから手抜き出来ねーよなあ。)


と思いながら、今度はフェイスガードをして勝負をした。さっきと同じく左眼を閉じた。今度は向こうに隙がない。黒澤がハイキックを入れた瞬間、ソニックの右手が伸び、思わず「Sonic」を出してしまった。


《ビュン!斬!バコーン!!!》


(やっべー!)


と思った直後、黒澤の背負い投げが綺麗に決まった。その背後には「Jet」で斬られた壁が崩れてしまった。ソニックは


「すいません!壁壊しちゃって・・・」


黒澤はどうやら「Sonic」を間近で見たかったらしく


「これが噂の「Sonic」か。想像以上に凄いな。」


と、特に壁を破壊した事は気にしていない様子。門下生は全員固まっていた。その後、見学が終わった菜月がニコニコしながら


「兄ちゃん!あたしここ通う。いい?」


ソニックはまだ「Sonic」を出した事を気にしながら


「・・・え?あ、ああ。いいよ。は、ははは。」


と返事をする。菜月はこの日から、この黒澤道場に通うようになる。菜月は後年、ここで大きく成長し飛躍する事になるのだが、まだ2人はそこまでわからなかった。


 後日、ソニックと菜月はビバリーヒルズの黒澤邸に招かれた。「Sonic」の秘密を聞きたかったらしいが、言葉で説明出来るものではない。そしてソニックは、自分が教えるとああなる事がわかってしまったので、改めて黒澤に菜月の指導を頼んだ。音楽に乗せての「Sonic」は制御可能だが、生身の人間には制御不能なのがあの試合でわかった。


2000年はこうして静かに穏やかに過ぎていった。この閃光の止まない街で、今まであらゆる者を敵と見なしていたソニックという「獣」が「人間」へと戻っていく年であった。



子供を育てることになったソニックは尖った生き方を捨てるようになります。

それはWatts towersも同じで、世間から認知された事により周囲と溶け込む生き方を選択しました。

また、菜月も兄に頼らず自ら強くなる生き方を選択しました。


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