第26話 啓示をはね除けた夜
ソニックが栄光を掴むと同時に菜月を託される話です。
熊襲太鼓が来てからというもの、ソニックは連日連夜悪夢にうなされている。夢の中に翼の生えた白い姿の顔が見えない何者かがソニックに告げる
(汝~に行って~をしなさい。さすればあなたは救われる。あなたは神になれる。あなたは天使になれる~)
夜寝てる間に延々と繰り返されるこの夢。しかも毎日同じ夢を見ていてソニックはうんざりしていた。寝ても2時間置きにこの夢を見ては起こされる。そのような毎日を送っていた。心配した桜が
「ソニック、最近随分うなされてるけど大丈夫?」
ソニックは汗をびっしょりかきながら
「夢んなかに毎日うるせーのが出てきてよ。」
同じく起きていた緑が
「それ、啓示じゃない?イエスとかジャンヌ・ダルクなんかが聞いてたってやつよ。」
ソニックはそれを聞き、戦争を思い浮かべた。UCLAの授業で習い、それを夢で聞いた者達の末路を知っていたからだ。よりによって何で俺の夢ん中に出てくんだと思い
「へっ!馬鹿馬鹿しい!あんなもん誰が聞くか!うざってー!薬中しか乗らねー地下鉄と変わりゃしねー。」
ソニックは特に気にせず過ごしていた。
熊襲太鼓がこの国に来てもう半年が過ぎ、大分慣れてきた。この太鼓と唯一心を通わせる事が出来るソニックはある日、熊蘇太鼓を叩きながら、心の中で熊襲太鼓に尋ねた。
(よお、最近俺はしょっちゅう変な夢を見るんだ。あれはお前が何か伝えようとしてるのか?)
と。熊蘇太鼓は
(・・・わからないが、近い内にお前の周りで何か大きな災いが起こる予感がする。その時になったら俺の力を貸してやる。)
と響かせた。
そんな日々が続き、ソニックは寝不足になっていた。ある日、菜月達5人が公園で遊んでいると、地元に住んでいる白人の少年達に苛められて、5人で泣きながら帰ってきた。ソニックは菜月達に特徴を聞き、仕返しに行く。すると、そこに待っていたのは白人至上主義者の両親だった。少年達も親たちも悪びれる素振りもない。
「俺達白人は何したって許されるんだよ!」
と少年達は教育されていた。彼らは以前ワッツ・タワーに来ていた「KKK」の仲間だった。奴らの懐には拳銃が所持してある。終いに
「お前ら黄色い猿が・・
と話している最中にソニックは完全にキレた。その少年達の父親全員の顔面に「Volt」を食らわせ、顔面を焼き尽くした。
《ビカッ!バリン!》
「ギャアー!!!」
と悲鳴を上げる毒親共。意識はあるが全身火傷で真っ黒焦げの白人の父親達。その襟首を掴み、少年達にいい放つ。
「おい!クソガキ共!テメーらの親父の肌は今何色だよ?あ?何色だって聞いてんだよ!」
更に母親達の顔面を鷲掴みにし、歯を全部砕きながら
「黒くたって色は付くんだよ!オメーらの鶏サイズの足んねー頭じゃわからねーだろーがな!何ならオメーらの肌も黒くしてやろーか?」
その間にWatts Towersが到着。そしてソニックは彼らにいつもの台詞を言い放つ。
「おい、オメーら!今すぐこの国から消えるか、今すぐこの世から消えるか、好きな方選べ!消えなきゃフライドチキンにすんぞ!」
「俺にとって妹とそのダチはな、俺の弟妹と同じなんだよ!このLos Angelesの住民は俺の家族なんだよ!二度とこの街に近づくな!肉骨粉にすんぞ!」
彼らは逃げるようにして去った。その後警察に行ったらしいが、相手にされなかったらしい。彼らはソニックやWatts Towersを恐れている。あの一件の後LA 市警は再編され、これから世間の信用を取り戻そうとしていた。その間、彼らの家をソニックが「Jet」で粉々にし、「Volt」で大きな穴を開け、二度と住めないようにした。
菜月達には内緒にした上で優しく話す。
「あいつらがもう菜っちゃん達の前に現れることは二度とねーよ。心配すんな。」
といいながら泣いている菜月を抱き締めた。以来奴らの姿はこの街では見ていない。ソニックは「あの夢はこれの事か?」と思う。
2000年1月。「Sonic Los Angeles」は初めてグラミー賞の会場に赴く。場所はLAのステイブル・センター。そこにはWatts Towersも壇上に上がることになる。参列者には菜月を含めた若草家、「Burning Gear」社長の塚原、更に「Try Flyers」のメンバー古賀、手嶋、木村も招待した。ソニック達Watts Towersは全員揃いのスカジャン、鉢巻、チタン製の手甲にアーミーシューズとカーゴパンツ姿で登場。入り口で全員係員に止められるが、
「これが俺達のバトルジャケットだ!文句あんのか?」
といい放つ。しばらくすると別の男性が
「入りなさい。」
とソニック達を中に入れた。
第42回グラミー賞受賞式が始まる。ソニック達は明らかに浮いていたが、気にしていない。そして遂に「Sonic Los Angeles」の名前が呼ばれる。壇上に上がったのはソニックではない。今回は8部門授賞との事で、別の8人が上がった。コンボイやハック達は
「俺らは加入が遅れたから後でいい。」
と言っていたので、GTを除いた52名の中からくじ引きて選んだ。ファルコン、ジャイロ、ダン、レオ、ブライ、ジャーマン、ロケット、そしてビッグ・ジョー。彼らが壇上に上がった。会場は
「何でソニックが上がらないんだ?」
とどよめくが、ソニックが大声で
「これが俺達「Sonic Los Angeles」の流儀だ!俺達全員が主役なんだ!」
と観衆に説明した。だが、最後に「特別賞」があり、これにはソニックが壇上に上がるべきだとWatts Towers全員が促した。これは去年辞退した代わりの物だった。カメラを止めるよう鉄治とWatts Towersが間に入る。壇上に上がるソニックに
「去年の話は君の仲間達から全部聞いてるよ。いい恩人だったんだな。これは去年の分だ。世界中の皆で話し合って決めた事だ。受け取ってくれないか?」
と囁かれる。ソニックは涙を堪えながら
「・・・はい、ありがとう御座います。」
と返答し、深い御辞儀をして受け取った。
その後、記者会見が行われた。カメラはNGという条件で行われた。様々な質問があった中で去年の辞退の事は「個人的な理由」とだけ答えた。また、一番影響を受けたミュージシャンは?という質問に、ソニックははっきりと答えた。
「俺が一番影響を受けたのは、日本のインディーズロックバンド「Try Flyers 」です。」
これを間近で見ていた古賀、手嶋、木村は泣いて喜んだ。古賀は龍司の遺影を持って来ていた。
その後、コンボイ達のトレーラーでパレードを行った後、身内だけでパーティーを開催した。場所は俺達の城、アナログ・キングダムの敷地内。ここにはメディアも関係者も入れず、あくまで身内だけ呼んだ。菜月の友達や近所の人達も一緒だ。その時ソニックは古賀達「Try Flyers 」を仲間に加えたいと考えていた。日本での活動が出来ないため、彼らに日本でのPR活動やセールスをしながら、こっちでもまた一緒にやれないかと誘った。最初は断られたが、数年後に彼らは引き受けてくれる事となり、彼ら3名は日本とアメリカを往復する毎日を送ることとなる。
また、「Burning Gear」社長の塚原から、今回の成功を機に、「Burning Gear America」を立ち上げるプロジェクトを本格始動させる話をし、このLAを拠点にアメリカにミュージシャンを売り込もうとしていた。それにソニックや史郎、Watts Towersも乗った。第一号として「Sonic Los Angeles」が所属することになり、Watts Towersは主力となり、この会社の中軸を担うことになる。社長には鉄治が就任することも発表され、主なプロデュースは史郎が手がける事になった。あのワッツ・タワーのスラムで過ごした全員が前に進んだ。そんな感覚であった。後に「Try Flyers 」のメンバーはこの会社の重役として活躍することになる。また、海外挑戦したい日本のメジャーミュージシャン達の受け皿として発展する場所にもなっていった。そのパーティーの中、菜月が
「ねえ、兄ちゃんのこと、学校で自慢してもいい?」
と尋ねられる。ソニックはにっこり笑って
「当たり前じゃん。菜っちゃんは俺の大事な妹なんだから。また苛められたら兄ちゃんの名前出すんだぞ。菜っちゃんも早く大きくなって綺麗なレディになってくれよ。兄ちゃん楽しみにしてるからよ。」
と伝えた。菜月はソニックに抱きかかえられ、頬を赤らめじっと顔を見ていた。
ソニックがグラミー賞を取った時、周囲は彼を「天才」と称した。だが、ソニックはそんな事は全く思っていない。何故ならソニックは
(俺は天才じゃねー。ただの馬鹿だ。馬鹿でクズな人殺しだ。それより、そんな馬鹿な俺をここまで見捨てなかった死んだおっちゃん、おばちゃん。今ここにいる菜っちゃん、鉄兄い、塚原社長、ビッグ・ジョーやWatts Towersのみんな、若草ファミリー ・・・馬鹿な俺を見いだし、付き合ってきた皆こそが本当の天才なんだろうな。)
と思っていた。そして、天国にいる龍司に誓う。
「俺もいつか、そんな天才を見いだせる人間になろう。」と。
ソニックはその夜、再びあの時のような夢を見る。だが、顔がはっきり見える。死んだ筈の龍司だった。
「・・・おっちゃん?」
「よお、坊主。でかい事したなあ。元気そーじゃねーか。生きてて良かったろ?」
「生きてて良かったけどよ・・・何であんたは生きててくれなかったんだよ?菜っちゃん1人にしやがって!」
「菜月だけはどうにかしよーと思ってよ。咄嗟にお前を思い浮かべたんだよ。今のお前なら何とかしてくれると思ってよ。」
「そうじゃねーだろ?俺は生きてるあんたに恩返ししたかったんだよ!何で死にてーって思ってた俺が生き延びて、生きろって言い続けてたあんたが死んだんだよ?訳わかんねーよ!」
「・・・これが運命ってもんよ。俺はもう死んだんだ。それがどういう事かこれからお前が生きて考えるんだ。菜月はお前に託したぞ。じゃあな。Sonic Los Angeles!」
夜中にソニックはガバッと起き上がり、1人静かに涙した。
「・・・さよなら。おっちゃん。」
それを部屋の外で桜が見ていた。ソニックは
「・・・頼む。今は1人にしてくれねーか?」
と頼んだ。桜は朝までソニックの部屋の外で眠っていたらしい。その優しさに気付いたのは大分後のことだった。
翌朝、菜月が思い悩むように起きてきた。ソニックが理由を尋ねると、菜月の夢の中に死んだ両親が出てきたと話す。それを聞いてソニックは
「菜っちゃんの夢にも?・・・兄ちゃんもだよ。」
2人共言葉を失った。ソニックには何かの暗示かもと思うが、菜月に諭す。
「これはお別れじゃねー。菜っちゃんのここ(身体)と兄ちゃんのここ(身体)にずっといるんだ。俺達2人が本当に困った時にまた現れるよ。2人だけの秘密だな。」
2月に入り、大分学校やアメリカでの生活にも慣れた菜月が明日、窓香の家に泊まりに行くといい、ソニックが事前に挨拶に行った。
そして翌朝、菜月を迎えに行ったソニックだが、菜月は何かもじもじしている。
「どうした?」
とソニックが尋ねると、菜月が
「・・・・兄ちゃん、これ、バレンタイン。」
と、でかい紙袋からチョコを取り出した。昨晩泊まった理由はそれだった。あまり眠らず夜中までかかったそうだ。更に菜月は、若草家全員分のチョコを作ったと話し、皆に配ってほしいと頼んだ。火事にあい、火が怖いと思っていたソニックにとって、そのチョコの意味が深く伝わった。通勤中の車中、そのチョコをかじるソニック。
「菜っちゃんすげーな。あんな怖い思いしたのにもう克服してる。もういい女になっちゃってるな。」
と呟く。菜月が学校から帰ると、緑、桜、菫が
「これ全部菜っちゃんが作ったの?凄く美味しいよ。」
と皆感心していた。遅れて茜と葵も駆けつけ、久しぶりに賑やかな家庭になった。
自信の付いた菜月は翌日から自ら料理を手伝うようになった。以降、若草家の弁当はほぼ毎日菜月が緑と作っている。その夜、ソニックは照れくさそうに桜に話す。
「ごめん。もうちょい待ってくれるか?時が経ったら必ず・・・」
今度はソニックから桜の唇を奪った。
それにしてもこれまでの夢はいったい何だったんだろう?龍司以外の謎の奴らは俺に何を言いたかったんだろう?それが明らかになるのは、翌年の全米ツアー中に起こる世界を揺るがす大事件に繋がる。
この話はこれからのソニックの戦いに重くのしかかっていきます。
菜月はかつてソニックがラーメン屋を掃除したように自分に出来る事をやり成長していきます。




