第18話 因縁の再会と祝福された再会
世に出たソニックを否定する人々と愛する人々がそれぞれ登場します。
CDデビューし順調に事が進んでいた頃、ソニックにある来訪者が現れる。ソニックの実の長姉だった。彼女はソニックがライブを行っているライブハウス「エデン」にやって来た。ソニックは身構えていた。
「どの面下げてここに来たんだ?」
と。やっぱり全く変わっていなかった。長姉はソニックを否定するような発言を次々と発した。
「こいつ昔は~」
「こいつ馬鹿だから~」
「こいつダメな奴だから~」
そんな具合である。そしてライブ終了後に再びソニックに接触する。ソニックの怒りは頂点に達した。ソニックは長姉を襟首を掴み、無言のまま殴り倒した。エデンのあるストリートが次々と彼の放つ「Sonic」で破壊されていく。鉄治や史郎、Watts Towers52名全員がかりで押さえつけても止まらなかった。うめき声を上げ、横たわる長姉。それでも攻撃しようとするソニックに、盟友ビッグ・ジョーがソニックの顔面を思い切りぶん殴る。
「おい!オメー!何で俺らにやらせねーんだ?」
昔の自分と思いが重なったギャリーが続く。
「オメーがムカつく奴だと思う奴は、俺らにとってもムカつく奴なんだよ!いつまでも1人で暗い過去背負ってんじゃねー!」
更に同じく家族に迫害されていたジャーマンとランボーが
「俺達は、ようやく走り出したばかりじゃねーか?こんな馬鹿ほっとけ!」
鉄治がしゃがんで煙草を吹かしながら長姉に話す。
「おい!ねーちゃん!足動くんだろ?とっととこの国から消えろ!」
最後にマフィアの父を持つバルカンに
「こいつに悪口言われるより、こいつに全員背中向ける方が効くだろ。」
とソニックを諭し、皆でなだめながらぞろぞろと去って行った。
長姉を引き取りに来たソニックの実父と次姉がLAにやって来た。LA の住人達には、ソニックの過去に彼らから迫害を受けていたのを聞かされており、皆彼らを白い眼で睨み付ける。
「俺達の仲間を罵倒しやがって!」
LA 国際空港近く、ワッツ・タワーに残っていたソニックの仲間GTがポケットから何かを取り出し、彼らの足下に投げつけた。それはチョコレートバー(板チョコ)である。GTはソニックに聞かされていた。
「奴の自慢は、お前らアメリカ駐留軍に物乞いしたことだ。Give me Chocolate!ってよ。マジで情けねーよ。」
GTが日本語で口火を切る。
「おい!おっさん!拾わねーのか?」
更にGTの仲間、「ジョーカー」ことジョニー・カーネルが日本語で続く。
「欲しいんだろ?Give me Chocolateって言えや!」
GTが再び日本語で怒鳴りつける。
「あいつは、ソニックは、この国に来てから一度もそんなことしなかったぞ!こんなもんでマウント取りやがって恥ずかしくねーのか?」
そしてGTの仲間、「ベック」ことベネディクト・ウィットモアが止めの一言を日本語を言い放つ。
「もうあいつとオメーらとじゃ住む世界が違うんだよ!夢追ってる奴の邪魔すんな!あいつらから光を奪うんじゃねー!」
凄まれた彼らは、慌ててチョコレートバーを拾い、2人で走り去って行った。ワッツ・タワーの住民やLA の住人達に嘲笑されながら長姉の入院している病院へ向かった。ソニックの実父は怒りが収まらず、地元警察に相談し裁判にかけようとするが取り合わない。そのソニックに以前痛めつけられていたからである。かなり大きな事件だったがそれすら知らなかったという。そして彼らは2度とLA に来る事はなかった。その後は病院側からも早くLAから出ていくよう促され、救急車で陸路メキシコまでたどり着いた後、しばらくして帰国したらしい。因みにその病院は葵の務めている病院であった。
その日本でも、「恥ずかしい奴ら」と見下されたと聞く。何でもLA の住人や、ワッツ・タワーの住民を「土人」と発言したことが、日本やアメリカで蔑視として問題になったという。彼らの地元、ソニックの生まれ故郷にまで波及し、今やその街は誰も寄り付かない日本のゴーストタウンになっていった。地元で過去のソニックを知っている者達に取ってソニックの話は禁句となっていった。この先ソニックが有名になればなるほど日本で世間で居場所を失い、人知れずひっそり暮らしているという。まるで「平家の落人」のように。
苛めや虐待とは、自分の光を見つけることも出来ず、毎日が退屈で暇を持て余し、光を持つものを遮る障害物のようなものだということだ。
その一件の後、ソニックは複雑な気持ちだった。あの時もしビッグ・ジョーが殴ってくれなかったら、皆が止めてくれなかったら今頃、元の人殺しに戻っていただろうと。
そんな中、ソニックとWatts Towersに大きな仕事が入ってきた。それは、アメリカでミリオンセラーを出している「Skippin`Jackal」というバンドが、彼らをいたく気に入り、「一緒にやらないか?」と誘って来たのである。「対バン」である。スタッフはWatts Towersに一任するとまで言っている。ビッグチャンスだが、肝心のソニックが立ち直っていない。ここで史郎が賭けに出た。
帰宅した史郎は、桜に話す。
「あいつは今、色々あって凄く落ち込んでいる。救ってやってくれないか?桜の力が必要なんだ。」
史郎から詳しい話を聞いた桜は承諾し考えた。そして
「あの人のライブに行きたい。」
そう伝えると、史郎は桜に対バンのチケットを与えた。だが一緒にソニックの事情を聴き、やっぱり心配な若草家は
「1人で行ったら危ないから、あたし達も行く。」
と言って史郎は全員分のチケットを配った。
対バン当日。まだソニックの顔は浮かばれない。今日のステージはWatts Towersの主導で、まずソニックがやり、次に「Skippin`Jackal」がやるという順番。ただ、「Skippin`Jackal」にはドラマーがいないので、ドラムはソニックが継続してステージに上がるよう要請されていた。
会場のハリウッド・ボウルにオーディエンスが全員入る。約2万はいるだろうか?その中に今日は、桜や若草家の一同も初めて聴きに来た。ほぼ満員のハリウッド・ボウル。ソニックがアメリカに来て一年が過ぎていた。1月の冷えた空気。初めての野外ライブ、エデン以外でのステージ。そしてほとんどが「Skippin`Jackal」のファンで、ソニックのライブを観るのは初めての状況。そんな中、ソニックが入場するのだが・・・・
ソニックは客席から列を成して入って来た。今日はギターの日である。ギターを右肩に担いで乗せ、いつものスカジャンで姿を表す。
《ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!ゴッ!ガシャッ!》
鉄の入ったアーミーシューズと、腰に下げた2本のドラムスティックが重なる音が場内に響き渡る。オーディエンスが声援を送るが、ソニックはピクリとも反応しない。険しい表情で入場してくる。
「緊張してんのか?Boy?」
と心配する者を他所に演奏が始まった。ソニックは、
(俺が緊張するって事は、「死」を意味するってのと同じ事なんだよ!)
と思っていた。エデンで散々思い知らされたからだ。そして初めての「Sonic」、爆音のギターサウンドに乗った「Jet」を食らい、一瞬の旋律の直後、オーディエンス達は暴れ狂った。
《ギュイーーーン!斬!!ズバン!ビュン!》
「・・・これが噂の「Sonic」か!」
次々と「Jet」「Volt」「Burst」を炸裂させる。この戦う歌詞にかき鳴らされる轟音。ブロック塀を石で削るようなベースに和太鼓とタイヤが加わったズシンと重い独特のリズム。ソニックは野外では初めてではあるが、むしろ解放されたこのステージが活きるのではとステージ横にいる史郎は感じていた。こないだまで落ち込んでいたソニックはというと、このステージで全てを発散させていた。
(これでも食らえ!)
と言わんばかりに「Sonic」を浴びせまくった。音速のジェット気流、スタンガンような稲妻放電、体内の導火線に着火したダイナマイトを次々と食らわす。何が起きているのかわからない。尺は1時間設けられていたが、あっという間の出来事。こうしてソニックの出番は終わるが、次のバンドのヘルプでドラムに入る為、1人ステージに残り、左腰に下げてる長いドラムスティックを刀のようにスルッと抜き、次のバンドが入場するまで単独で激しく力強い「Sonic」の効いたドラムロールを繰り広げていた。相変わらず険しい表情のままだった。2万人が熱狂する中、ただ1人桜だけがソニックをじっと見つめていた。
「・・・・何か、あの人苦しそう。」
「Skippin`Jackal」のリーダー、ショーン・レイ・ハワードを筆頭に、ソニックのドラムロールとメンバー紹介で続々とステージに上がってくる。だが、オーディエンス達は、まだ「Sonic」に酔いしれており、それすら気付いていない。もう一度ソニックがメンバー紹介をやり直し、ようやく我に返った。「Skippin`Jackal」の演奏中にショーンが自分達の曲でも「Sonic」を使っていいと話し、全力で「Sonic」を放った。ライブ後にショーンはソニックに
「最高のライブだったよ。ありがとうな。また一緒にやろう。」
と握手を交わし賛辞を送ってくれた。
ライブ終了後、Watts Towersと一緒に場内の片付けとゴミ拾いをするソニック。ゆっくりと帰って行くオーディエンス達だったが、そこから立ったまま動こうとしない者達がいた。若草家の人々だった。ソニックはごみ袋とモップを持ちながら桜に近づき、元気の無い声で英語で話しかけた。
「あの・・・今日は来てくれてありがとう・・・」
ソニックは話を続ける。
「あの・・・俺、実は・・・日本で大勢人殺した奴なんだ・・・・だから、名前も捨てて、この顔も見られたくなくて、この国に来たんだ・・・・だから・・・君のお姉さん達の言うとおりだよ。俺みてーな危ねー奴に・・・・これ以上関わらない方がいいよ・・・・」
不器用なソニックは嘘がつけない。まだ、観客がそこそこ残っており、皆がソニックの話を聞いていた。すると、桜はソニックに顔を近づけてそっと唇を合わせた。
「大好き。」
びっくりしたソニックが声を荒げて
「俺の話聞いてたのか?だから!俺は国で人を大勢・・
再び桜がソニックを真っ直ぐ見つめ、頬を赤くして唇を重ね合わせた。
「大好き!」
その瞬間ソニックは涙が止まらなくなった。生まれて初めて誰かにここまで愛された。あの化け物が大声で泣いている。若草家の一同がびっくりしている。桜は姉妹の中で一番大人しい娘だったので、この行動に全員仰天していた。それを見ていた鉄治や史郎、Watts Towers、ショーンや残っていた大勢の観客達から祝福の拍手が送られた。鉄治が話す。
「よお、ソニック。お前まだ17歳だろ?お前だって青春する権利あるんだぞ。」
それを聞いたショーンが
「え?こいつまだ17歳だったのか?」
と、その場にいた全員が驚く。WattsTowersも初耳だった。それを聞いた緑は安心した顔で
「何だ。普通の男の子じゃない。」
とほっとしていた。
ソニックの過去の異物が、桜の口づけで一瞬に木っ端微塵にされた夜。あの因縁の再会の後に、ここにいる全員から祝福された。1996年1月11日。ソニックがアメリカに来て丁度1年。この記念すべき日と、その場にいた全員が一生忘れられない夜となった。
ソニックが過去の家族と決別し、新たな家族となる人々を手に入れました。愛のない家族、愛してるように見えて実はおもちゃやロボットみたいな扱いをする家族は他人と認識した話でした。この話での前半はWatts Towers、後半は若草一家を含めたライブに来ていたみんながソニックにとっての本物の家族と言えるでしょう。この話からしばらくソニックの新しい家族がまだ登場します。




