第13話 ハリケーンを吹っ飛ばした男
ソニックは前科があり、あまり他人に近づこうとしません。
また、不器用な一面を覗かせています。
『それでは天気予報です。数10年ぶりにLAを襲ったハリケーンが午後3時過ぎ、突如太平洋へ過ぎ去り、同じ時間帯に南米チリを通過したサイクロンと衝突。南太平洋沖で温帯低気圧に変わりました。』
ソニックは、毎日自らに秘められた謎の力「Sonic」をモノにしようとあらゆる楽器を使い、コントロールしようとワッツ・タワーの近くにある倉庫にいる。エレキギターを使い、近くのホーソーン空港を通るジェット機のような
《キュイーーーン!斬!!!ズバン!》
という音や、ワッツ・タワーの下でドラム缶や古タイヤを叩きながら
《ビカッ!ドーーーン!バリバリ!ダン!バン!》
と落雷を落とし、ビーチに向かってエレキベースで身体の内側から
《ボワッ!ボッ!ゴッ!ボオッ!》
と血が沸騰するような炎を燃やそうとしている。そのベースとドラムなのだが、最近しっくり合うようになってきた。
《ドゥン♪ドゥン♪ドゥン♪ドゥン♪ドドドゥンドゥンドゥン♪ドドドゥン♪ドゥンドゥン♪ドドドゥン♪ドゥンドゥン♪》
という重いベースと
《ドン!カッ!ドン!カッ!ドドカッ!ドン!カッ!ドボカッ!ドン!カッ!ドボカッ!ドン!カッ!》
という乾いたドラムのリズムが見事に合致し、独特のリズムを生んだ。このリズムはまるでブラジルのサンバのように、今後このLA 一帯に住む人々全てのリズムになっていく事となる。このリズムに乗り、ワッツ・タワーの住人達がダンスを踊り出す。言葉で言い表すのは難しいがもうすぐ「Sonic」が完成に近づいていった。鉄治達やWatts Towersも、いつソニックがエデンに行っても大丈夫な準備を毎日行っていた。
ソニックからギターやベースを借りて、ソニックに弾き方を教わりバックバンドで共に弾く。ソニックの曲も全てコピーし、臨戦態勢は既に整っている。ゴッグ達が作ったスピーカーやアンプ、ピンスポットライトが毎日手入れされ、トニーニョ達が仕立てたスカジャンも100着程あり皆で取り替えて着たりしてる。あとは「Sonic」の完成を待つばかりであるWattsTowersは、ソニックが起こす奇跡に期待する毎日を送っていた。
もう夏になっていた。LAの夏は暑い。雨も降らないと聞いていたのでたかをくくっていたが、その日は嵐が吹き荒れ、土砂降りとなった。LAでは有り得ない天気だったそうだ。完全に計算外だったが、ソニックはそれでも通った。
(もう一息であの娘が出てくる、今止めれば一からやり直しだ。)
と考えていた。土砂降りの中演奏が終わると、緑がソニック達に傘を差し出す。既にずぶ濡れだったソニック達。一旦断ろうとするソニックが何やら閃き、緑から傘を借りた。すると、ソニックは傘を閉じたまま両手で逆さに持ち、柄の部分を上にして何かをしている。何やら力のような気のような物を貯めているようだった。ソニックが空を見上げる。止まない豪雨にソニックの左眼がカッ!と開き、傘を持った右腕を上空に振りかざし、傘の柄の部分から出たビームのような光を上空の雨雲に突き刺した。傘の柄の部分からレーザー光線のような物が発射され、雨雲を貫通し、柄の形になった光で雨雲に引っかけ、両腕で強引に掻き回していった。連れの9人がソニックの引っ張られる身体を押さえている。そしてソニックが
「うっ!がっ!くっ!!がっ!あがっ!うががあっーー!!!!!!!!」
と叫ぶと、雨雲が西の方角へ吹っ飛んでいき、雨が急にピタリと止み、青空になった。だがソニックは傘をガシャッと落としてしまい、「うっ!」と言って右肩を押さえて両膝を突きうずくまる。すると鉄治が何食わぬ顔で
「これ、今治せるぞ。お前ら、ソニックの身体抑えてろ。ソニック、痛いけど我慢しろよー?」
と言ってソニックの肩をバコン!とはめた。鉄治は元警察官で柔道をかじっている。どうやらソニックはさっきの衝撃で右肩を脱臼したらしい。ソニックは、
「兄貴すげーな。腕治っちゃったよ!」
と驚く。鉄治達は
「ハリケーン吹っ飛ばして脱臼で済んだオメーがすげーよ。」
とソニックをからかう。するとソニックは
「あれがハリケーンか?ただの台風だと思ったぜ。」
と言って笑い飛ばす。てっきり日本の台風だと思っていたソニックは、台風の目を狙い、感覚で「Sonic」を出し、台風の目をかき混ぜて吹き飛ばそうとしていたのだ。それが成功してソニックは皆で笑って帰って行った。その姿を見て緑は
「あの子ってちゃんと笑えるのね。可愛い男の子じゃない。」
とまるで子供の様なソニック達を見て、彼らをただの人間として見守っていた。帰り際、今日ソニックと一緒にいたメンバーが史郎に呼び止められる。
「君達、ソニックと一緒に世界を取るんだろ?それならやって貰いたい事が山ほどある。これからそれを全部教えてやるよ。一緒にやろうか?」
と話しかける。一同はもう覚悟は出来ており、その最終段階であることを伝える。本格的に動き出すにはどうしたらいいかわからずにいた。更に史郎はバンドメンバーを紹介するとも言ってきた。するとソニックは、
「バンドは要らねー。こいつらから選ぶ。一通り俺が教えた。もう弾けるのも半分くらいいるし。出来ない奴らはスタッフに回ってもらう事になってる。もうみんな準備は整っているんだ。俺はこいつらとずっと一緒にやって行きたい。一緒に世界に出たい。俺の大事なファミリーだからな。だからみんな、これからも俺に力を貸してくれよ。頼む。」
言われるまでもねーとWatts Towersは口々に話す。そして、ソニックは、
「あの娘が部屋出たら正式にあんたに付くよ。それでいいだろ?ちゃんと塚原のおっさんにも連絡しておくよ。俺、こう見えても一応日本の「Burning Gear」でプロ契約してっからよ。」
と伝える。その件に関しては史郎も考えていた。
「ああ、彼には俺から頼みに行くつもりだ。きちんと彼の会社から一緒に曲を出そう。」
と約束して帰った。2人の天才が心を通わせた瞬間だった。因みにソニックが吹き飛ばしたハリケーンは、同時期に南米チリを通過したサイクロンと南太平洋で衝突し、温帯低気圧に変わったと翌日のニュースで伝えられた。LA ではあり得ないハリケーンをただの少年の片腕が吹き飛ばしたという事は誰も知らない。
そして3日後の土曜日、ソニックはたった1人で若草家に訪れた。どうやらあの力「Sonic」が完成したようだ。自信を持ち新曲を携えてやってきた。土曜日ということもあり、若草家の前に近所の客が大勢集まった。ここ1ヶ月の間にソニックはこの町の住人から認められていた。ソニックは新曲のロックナンバー、「一羽の鴉の日々」を歌う。凄まじい曲だった。しゃがれた声で歌い、バリバリのRock'n'rollをかき鳴らす。すると部屋から彼女が恐る恐る出てきた。
「パパ、ママ、皆。」
「桜ちゃん!」
集まった観客達は、部屋から出てきた桜を温かく迎え、史郎は桜を強く抱き締めた。桜は史郎の胸の中で泣いた。そこには若草ファミリーが総出で桜を涙ながら抱き締めた。
観客の歓喜が響く中、ソニックはその場から姿を消す。気づいた茜は
「あれ?あいつどこいったの?」
と探そうとしたが、既にどこにもいない。史郎は
「あいつはまた来るよ。それより桜、守ってあげられなくて、つらい思いさせてすまなかったな!」と号泣する桜を抱き締めながら詫びを入れた。
この日から、ソニックとWatts Towersはしばらくこの町に姿を現さなくなる。この町での戦いは終わったからなのだが・・・
実際LAではハリケーンは来ませんが、ソニックの超能力を際出させるために敢えて出しています。
ソニックのボトムはドリフの髭ダンスがモチーフです。




