第12話 若草一家の涙
遂に名前を手に入れたカタメこと「Sonic Los Angeles」。
この話に出てくる人物は後にソニックの生活の中心となる人物達の物語を並行しています。
Watts Towersに平和で自由な毎日が戻ってきた。ソニックは相変わらずワッツ・タワーの下で路上ライブをしながら商売をして生活している。
最近裁縫が得意なトニーニョやジウ、JJ、ジャーマン、バージルはソニックの着用しているスカジャンに興実を持ち、自分達にも作れないかと模索している。物資はアポロが調達してきた。
機械や電気に強いアパッチ、ゴッグ、エディ、ハウンド・ドッグ、ディアブロ、GT、シャフト、ルーク、トマホーク、エースは発電機やスピーカー、アンプを作り始めた。
シャムロックの口利きでビッグ・ジョー、レオ、ブライ、ロッキー、ブル、バルカン、アニマルは建築作業のバイトに入りながら建築の勉強をしている。
ファルコン、ロケット、キッド、ニコ、バロン、ベガ、ムスタング、ゼブラは自転車での宅配業に勤しんでいる。
アル、パイレーツ、ギャリー、コブラ、ジャイロ、ゴブは飲食店で働き、イビル、ダン、ロブ、ガービーはソニックの路上ライブのチケットを売りさばく。
マックとサージェントは他にライブが出来る場所を探しに出てる。
ジャッキー、ランボー、ボスは鉄治にマネジメントを教わる。
イミダス、アレックス、ドクターは経理の勉強をしている。
みんなソニックの楽曲を世に出す為に充実した毎日を送っている。ようやく働くという選択肢が与えられた皆が働いて金をもらうようになっていった。Watts Towersはいまや、それぞれ助け合い、敬い、補う一つのファミリーとなっていた。
あれはあの事件の判決が下った直後だろうか?ニールがまた別の人物を連れてきた。ルディをこの街へよこした張本人で、例の襲われた日本語を話す女の子の父親である。
彼の名前は若草史郎。音楽業界で「奇才」と呼ばれる人物であった。娘を救ってくれたWatts Towersにお礼を言いたいと訪れた。そんな史郎はソニックに話す。
「・・・あの日から、うちの娘が部屋から出て来ないんだ。」
ソニックは
「あの娘、怪我はなかったのかよ?」
史郎は
「それは大丈夫なんだが、メンタルをやられて、ご飯も食べないし、学校にも行けなくなってしまって・・・」
ソニックの演奏を聴いていた史郎は
「それより君はミュージシャンか?いい曲じゃないか!もし良かったら俺と組まないか?」
と突然ハイテンションになり、ソニックに話した。するとそこでソニックが史郎の襟首を掴んで怒り出す。
「だったらこんなとこ来るんじゃねー!あの娘の側いて抱き締めんのがあんたの役目だろーが!こんな薄汚ねー奴構ってる暇あんならさっさと帰れ!」
「ったくどいつもこいつも他人のガキばっか可愛がりやがって!そんなにテメーのガキ可愛くねーなら女抱くな!迷惑なんだよ!」
史郎は寂しげな顔をして皆に礼を言い、立ち去っていった。何度かソニックの方を振り返り、物欲しそうにしながら・・・・
ここで動いたのが鉄治率いるジャッキー、ランボー、ボスのマネジメント組。ソニックにバレないよう、史郎の後を追いかけて呼び止めた。ニールも交え、6人で近くの喫茶店に入る。そこで史郎にソニックの経緯や事件のこと、過去のことを伝える。ニールもあの事件でソニックに不思議な力が宿っていると感じていた。すると史郎が
「彼のその特別な力と彼のあの音楽が組み合わされば、誰も出来ない最高の音楽が出来るんだがなあ。あの音楽の才能は私が今まで聴いてきた中で群を抜いている。君、鉄治君っていったな。頼む、俺にも力を貸させてくれないか?彼を世界最高のミュージシャンに育てたい。」
鉄治は史郎のことはよく知らない、ニールに小銭を借りて、契約している「Burning Gear」の塚原に連絡し確認を取る。どうやら史郎はあまりの奇才ぶりに日本には自分の才能に合うミュージシャンが見つからず、18年前に日本を飛び出し、UK経由でアメリカに渡っていた事を伝えられる。鉄治は再び史郎に具体的な話を聞く。そして、鉄治は史郎が塚原と話がしたいと言い、電話を代わった。史郎は、
「詳しい話は私がそちらに伺ってきちんと説明したいが、今は家庭の事情で動けない。それがきちんと解決したらお伺いしたい。」
と約束を交わし、鉄治に電話を返す。鉄治達マネジメント組と史郎、ニールはひとまずその娘を何とか元の暮らしに戻そうと密約を交わし、鉄治と史郎が名刺を交換し、解散した。史郎は帰り際
「彼の曲調どっかで聴いた事があるような・・」
と振り返っていた。
ワッツ・タワーに帰ると、ソニックに尋ねられる。
「あんたら、何処行ってたんだ?」
鉄治は機転を利かせ
「お前の力が必要なんだとよ。俺達で何か協力出来ねーかな?」
するとソニックは
「ほっとけよ、そんなもん。よその家の問題だろ。首突っ込むもんじゃねーよ。」
と冷めた様子。するとジャッキーが
「あの娘怖がらせたのは俺達の責任でもあるんじゃねーか?あんだけ暴れたんだからよ。目の前で犯人の腕ちぎったり、倉庫ぶっ壊したのはお前だろ?」
この言葉にソニックはしばし無言のまま考え、答えた。
「・・・そうだな。確かに俺のせいだよな。それで俺は何すればいいんだろ?」
傷ついた人間に敏感なランボーが答えた。
「お前の曲、あの娘に聞かせてやれよ。俺達何人か付いていくからよ。」
そして翌日、鉄治が交換した史郎の住所を頼りに、ソニックとマネジメント組、マック、サージェントの地理感のある2人を加えた9人で若草家に向かう。ソニックはふと思った。
「・・・何かこの辺、何度か通ったような気がする。鉄兄い、覚えてねーか?」
確かに通っていた。ダウンタウンと完全に逆方向だが、見慣れている景色。何処か見覚えがある道と壁。
取り敢えず若草家に着いた9人。鉄治がチャイムを鳴らす。すると史郎が出てきた。今日は日曜日で家族全員いるようだが、相変わらずあの娘は部屋で泣いているようだ。すると他の家族も出てきた。その中に以前会った事のある女性がいた。
若草葵。ソニックがまだアメリカに来て一週間で3度も運ばれた病院の看護師である。そういえば名字が同じだ。史郎の娘だったのかとソニックは驚く。奥で史郎の妻、緑。長姉の茜、末妹の菫もソニック達を睨んでいた。
「はあ?あんたが若草で娘が4姉妹だ?どこぞの物語と似てんな。」
葵にはあの時のカタメだという事が一発でわかった。部屋で怯えて泣いているのは葵の妹だという。ソニックの顔やあの時
「服よこせ!」
「2度と来るかこんなとこ!」
と言い放ったソニックの印象を強烈に覚えており、妹を守るため葵はソニックに言い放った。
「近寄らないでよ!あんたみたいな獣にうちの大事な妹が傷つけられたのよ!絶対に入らないで!」
奥で緑。茜、菫も葵と同じ顔で警戒している。その心情を悟ったソニックはその家の外壁に座り込み、アパッチ達機械組が自作した小さなアンプを置き、カールコードを差し、エレキベースを取り出した。ギターでは刺激が強いとのソニックの判断からだった。そしてソニックは彼女らに話す。
「俺が悪かったよ・・・ごめん。だから尚更ほっとけねーんだ。」
茜や葵、菫は猛反対する。するとソニックは
「中に入んなきゃ文句ねーだろ。なんならマスクも被ってやるよ。この面凶悪だからな。」
「物投げてーなら投げろよ。別に仕返ししねーからよ。そーいうの俺はもう慣れてんだよな。」
そう言ってソニックは演奏を始める。曲はこの国に来て、自らが傷ついた身体で知らない街を歩き、たまたまそのピアノが耳に入り美しいと感じたドビュッシーのアラベスク。その音は流れるように清らかでそしてソニックの力強さを兼ね備えていた。その曲を聴きながら3人の罵声は止まり、若草ファミリーは静かに聴きいっていった。そしてソニックは、次の曲の前に史郎に尋ねる。
「よお、おっさん。あの娘の名前なんてんだ?」
史郎は「桜だけど?」と答えると、直ぐさま演奏を再開した。日本の童謡「さくら さくら」を演奏した。その演奏はとても童謡に思えないほど力強く、ダイナミックに響いた。演奏が終わるとソニックは立ち上がり、帰ろうとする。去り際に史郎に話す。
「・・・俺の責任でもあるからな。明日また来る。俺なりに何とかやってみるよ。1人の泣いてる女の子振り向かせないよーなら、エデンの猛者共相手に出来ねーと思ってよ。」
そう言って9人はここを去って行った。
あれから毎日のように史郎の家を訪ねては、2曲ずつ外壁に座り自作の曲を演奏した。その曲は本来ソニックの荒々しいRock'n'rollとは程遠いバラード調の物ばかりだった。それでもソニックは弾き続け、歌い続けた。通りには小学生くらいの女の子や老人まで、ちょっとした路上ライブ会場のようになっていった。その様子を見て茜がソニックにバイオリンを渡す。
「あんたなら弾けるでしょ!」
と少々喧嘩腰だが、感覚だけで引いてみせる。すると、今度は菫がアルトサックスを渡す。間接キスだと一度は拒むソニックだが、それすら感覚で吹いて見せた。2人は
「こいつ、本物じゃん・・・」
と驚いていた。因みに若草家は全員楽器が弾ける音楽一家である。
また、この頃にソニックの演奏に変化が起き始めていた。あの倉庫での一件で解き放った3つの力
【音速で空を斬る/Jet】
【熱で燃やす/Burst】
【放電する/Volt】
力が楽曲に染みこむように練習に練習を重ねていた。ここに来て、ようやく片鱗が見え始めていた。ソニックはここ何日も寝る間も惜しんで練習していた。更にここに通うごとに精度を増していった。ソニックは帰った後、その隠された不思議な力を解放する事が最大の壁だと鉄治から聞かされたいた。自分の音楽とその未だに謎の隠された力の融合。それこそがエデンの連中との勝負の鍵を握る事だと考えていた。そんなひたむきなソニックを史郎と緑は認め始めた。毎日のように通うソニック達を見て緑が
「良かったら夕ご飯でもどう?」
とソニック達を誘う。するとソニックが
「おい、飢えた獣に餌差し出すなや!腕ごと噛みちぎるぞ!」
と凄んだ。奥で葵達が
「ママ、止めなよ。あいつ頭おかしいんだから。ピストルで撃たれて手術した直後に暴れ出したり、重い電動ベッドごと起き上がって引き摺ったり、麻酔注射の針を筋肉でへし折るようなやばい奴だよ?関わらない方がいいよ。」
とソニックを化け物でも見るような警戒心で遠ざけた。実際にソニックはこの時かなり無理をして神経が尖っていた。だが、次第に外壁越しに人の気配を感じた。もう一息であの娘は部屋からもこの社会からも飛び出せるようになる。そう信じてソニックは歌い続けた。
若草一家のモデルは、若草物語と、サウンド・オブ・ミュージックを合わせた物ですが、キャラクターを若干いじっています。




