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第6話 条件付きの庇護

 翌朝、修道院の鐘が鳴る頃、俺とフランチェスカは修道院長に呼ばれた。


「孤児院へ向かいます。

 フランチェスカ、あなたの身柄について正式に報告しなければなりません」


 フランチェスカは小さく頷いた。

 その横顔には、不安と決意が入り混じっていた。


 俺は黙ってその後に続いた。


 街はまだ朝靄に包まれている。

 石畳の道を歩くと、遠くで市場の準備をする声が聞こえた。


(……ここで、生きていくのか)


 そんな思いが胸の奥に沈んでいく。


 孤児院は修道院から少し離れた場所にあった。

 白い壁と赤い屋根の、質素だが清潔な建物だ。


 扉を叩くと、年配の修道女が顔を出した。


「まあ……フランチェスカ!」


 修道女は驚きと喜びの入り混じった声を上げ、少女を抱きしめた。


「生きていたのね……! 本当に……」


 フランチェスカは静かに頷いた。


「……ただいま戻りました、シスター」


 その言葉に、修道女は涙を拭った。


 だが、すぐに俺へと視線が向く。


「こちらの方が……?」


 修道院長が説明する。


「フランチェスカを助けてくれた方です。

 しかし身元がはっきりしないため、扱いに困っているのです」


 修道女は俺をじっと見つめた。

 その目は優しさと警戒が同居していた。


「あなたは……どこから来たのです?」


 またその質問か。

 だが、ここで嘘を重ねるしかない。


「ピサからサンマリノへ向かう商人の付き添いでした。

 主人は山賊に殺され……私は逃げ延びました。

 旅費もなく、行く当てもありません。

 働きながら、しばらく身を置ける場所があれば……」


 修道女は修道院長と視線を交わした。


「……この街で働きたいのですね?」


「はい。力仕事でも何でもします」


 修道女はしばらく考え、やがて言った。


「フランチェスカ。あなたはどうしたいのです?」


 フランチェスカは迷いなく答えた。


「……この方を、私が面倒を見ます」


 修道女は驚いたように目を見開いた。


「あなたが?

 ですが、フランチェスカ――」


「分かっています。

 でも……この方がいなければ、私はここに戻れませんでした。

 だから……私が責任を持ちたいのです」


 その声は震えていたが、揺らぎはなかった。


 修道女は少女の手を取り、静かに言った。


「……分かりました。あなたは優しい子です。

 ですが、未婚の少女と成人男性が同じ屋根の下で暮らすのは、本来なら許されません。

 世間の目もありますし、孤児院としても責任があります」


 フランチェスカは唇を噛んだ。


「……それでも、私は……」


 修道院長が手を上げ、静かに制した。


「ですが、他に預け先がないのも事実です。

 そしてあなたが強く望む以上、私たちも無視はできません」


 修道院長は俺へと視線を向けた。


「ただし――条件があります」


 その声は厳しく、しかし公平だった。


「フランチェスカは孤児院の籍のまま。

 あなたは彼女の“保護者”ではなく、“共同生活者”として扱います。

 私たちは定期的にあなた方の生活を確認します。

 フランチェスカの安全が最優先です」


 修道女も続ける。


「収入が得られるようになるまで、孤児院が最低限の支援をします。

 ですが、あなたも働き、生活を立て直す努力をしなければなりません」


 修道院長は最後に、静かに問いかけた。


「……それでも、あなたは共に暮らす覚悟がありますか?」


 フランチェスカは迷わず頷いた。


「はい」


 俺も深く頭を下げた。


「……必ず、責任を果たします」


 修道院長はゆっくりと頷いた。


「では――条件付きで、共同生活を許可します。

 フランチェスカの意思と、あなたの誠意を信じましょう」


 その言葉は、思いのほか重く、そして温かかった。


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