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第3話 石畳の街へ

 霧が薄くなり、木々の向こうに開けた道が見えた。

 土の獣道ではない。

 灰色の石が敷き詰められた、古い街道だった。


 観光地の再現でも、テーマパークのセットでもない。

 石の角の欠け方、苔の生え方、轍の深さ――

 どれも“本物”の時間を感じさせた。


「……これが、街道?」


「はい。ピストイアへ続く道です」


 フランチェスカは迷いなく歩き出す。

 俺はその背中を見つめながら、胸の奥にざらついた違和感を覚えていた。


 スマホは圏外のまま。

 地図アプリは固まって動かない。

 電波塔の影も見えない。


(……本当に、どこなんだここは)


 だが、立ち止まるわけにはいかなかった。

 山賊が追ってくる可能性はまだある。


 俺たちは石畳の街道を歩き続けた。


 やがて、霧が完全に晴れた。


 視界の先に、灰色の城壁が見えた。

 高い塔。

 尖った屋根。

 門の両脇には槍を持った男たちが立っている。


 中世の街――

 そうとしか言いようがなかった。


「……あれが、ピストイア?」


「はい。街の門です」


 フランチェスカは安堵したように微笑んだ。

 その表情は、救いを見つけた者のそれだった。


 だが俺は、足が止まった。


(いやいや……これは……)


 観光地の復元でも、映画のセットでもない。

 石の積み方、門の木材の質感、鉄の錆び方。

 どれも“本物”そのものだった。


門番の一人がこちらに気づき、槍を構えた。


「そこの者、止まれ!」


フランチェスカが慌てて前に出る。


「待ってください! 私はフランチェスカ・プレーラティです!

 モンタニャーナの村が山賊に襲われ、逃げてきました!」


門番たちの表情が変わった。


「……プレーラティ? あの孤児院の……」

「無事だったのか……!」


彼らは急いで門を開け、フランチェスカを中へ通した。

だが、俺の前に槍が突きつけられる。


「そいつは誰だ? その……鉄の棒は何だ?」


「この方は……私を助けてくださった方です!」


「助けた? だが、その物は……見たことがない。

 杖か? 道具か?」


門番の視線が俺の猟銃に向く。

その目には、警戒というより“理解できないものへの恐怖”が宿っていた。


(そりゃそうだよな。しかしそうなると俺が取るべき振る舞いは……)


「この方は悪い人ではありません!

 山賊から私を救ってくださったのです!」


 逡巡しているとフランチェスカが必死に訴える。

 その声は震えていたが、真剣だった。


 門番たちは互いに顔を見合わせ、やがて一人が言った。


「……とにかく、修道院へ連れていこう。

 あそこなら事情を聞いてもらえる」


 フランチェスカが俺の袖をそっと掴む。


「大丈夫です。修道院なら……きっと」


 俺は頷き、彼女の後に続いた。


 街の中は静かだった。

 人影が少ない。

 山賊の噂が広まっているのだろう。


 石畳の道を進むと、白い壁の大きな建物が見えてきた。

 鐘楼のある、古い修道院だ。


 門番が扉を叩く。


「フランチェスカを連れてきた! 生きていたぞ!」


 中から慌ただしい足音が聞こえた。


 重い木の扉が、ゆっくりと開く。


 暗い回廊の奥から、黒いヴェールをかぶった修道女が一人、静かに歩み出てきた。


「……その子を連れてきたのは、あなたですか?」


 修道女の視線が、まっすぐ俺に向けられた。


 その瞳には、恐れとも、疑いともつかない光が宿っていた。

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