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第2話 霧の山道

 霧は相変わらず濃かった。

 木々の影が揺れ、風が吹くたびに白い靄が形を変える。


 俺とフランチェスカは、山道らしき獣道を慎重に下っていた。


「……歩けるか?」


「はい。大丈夫です」


 少女は震えてはいるが、足取りはしっかりしている。

 修道院で育ったと言っていたが、山道に慣れているようには見えない。


 俺は銃を肩に担ぎ直し、周囲を警戒しながら歩いた。


「さっきの山賊……仲間を呼びに行くって言ってたな」


「はい。あの者たちは、村を襲った本隊の一部です。

 逃げた者を捕まえるために散開していました」


「本隊は何人くらいだ?」


「……分かりません。ですが、村を焼けるほどの人数です」


 フランチェスカの声が震えた。

 その震えは寒さだけではない。


 俺は少し歩調を落とし、彼女の横に並んだ。


「無理に話さなくていい。今は下山を優先しよう」


「……ありがとうございます」


 少女は小さく頭を下げた。


 歩きながら、俺はずっと違和感を抱いていた。


 言葉は通じる。

 だが、彼女の言葉遣いはどこか古い。

 “自警団”という単語も、現代ではまず聞かない。


 そして――。


「しかし、君、どうしてこんな場所に?」


 少女は少し迷い、震える声で答えた。


「私は……モンタニャーナの村に来ていました。

 ピストイアの顔料屋の主人に同行して、教会の聖画の修復に……。

 でも、村が山賊に襲われて……主人は……」


 言葉が途切れ、少女は唇を噛んだ。


「君は……その顔料屋の家に?」


「はい。私はピストイアの孤児院で育ちました。

 修道院に通っていましたが、顔料屋の家に身を寄せて働いていました」


「となると、帰る場所は……」


「ありません」


 少女は小さく震えた。


 俺は平静を保って会話ができていたのだろうか。

 正直、自分の正気を疑った。


 山賊、自警団、顔料屋、孤児院育ち――。

 並べてみれば、どれも現代で出てくる単語ではない。

 恐らく、とんでもない事態に巻き込まれている。


 それでも取り乱さずにいられたのは、俺の精神力ではなく、隣で怯える少女にこれ以上の負担をかけまいとする矜持のおかげだろう。


 しばらく歩くと、木の根元に黒い跡があった。

 焚き火の跡だ。


 まだ温かい。


「……さっきの連中か?」


「はい。ここで休んでいたのだと思います」


 フランチェスカが怯えたように俺の袖を掴む。


「彼らは、必ず戻ってきます。

 仲間が殺されたと知れば、怒り狂うでしょう」


「だから急ぐんだ。街まで行けば安全だろう?」


「山を下りれば街につきます。

 街には自警団がいます。彼らなら、山賊を追い払ってくれるはずです」


 フランチェスカの声には、わずかな希望が混じっていた。


 しばらく沈黙が続いた後、フランチェスカがぽつりと言った。


「……あなたは、不思議な方ですね」


「不思議?」


「はい。

 山賊を一瞬で倒し、

 私を助けてくださった」


 彼女は俺を見上げる。


「まるで……神が遣わした方のように思えてしまいます」


 その言葉に、俺は思わず苦笑した。


「そんな大層なもんじゃない。ただの猟師だよ」


「ですが……」


 フランチェスカは言葉を飲み込んだ。

 その瞳には、恐怖ではなく“信仰に似た光”が宿っていた。


(……誤解されてるな)


 だが、否定しても彼女は信じないだろう。


「……まぁ、先ずは身の安全の確保が第一だ。街への道を急ごう」


「……はい」


 フランチェスカは素直に頷いた。


 霧が少しずつ薄くなり、木々の向こうに開けた道が見えた。


「もうすぐ街道に出ます。

 そこまで行けば、山賊も追ってこられません」


「よし、急ごう」


 俺たちは歩みを速めた。

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