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※すいません 予約投稿日時を間違えました  第20話 作られた安全地帯

 ギルドからの帰り道。袋の底で銀貨が触れ合った。

 フランチェスカはそれを抱えながら、小さくつぶやく。


「……思ったより、軽いですね」


「黒は安い。十瓶じゃ、こんなもんだ」


 借家に戻り、銀貨を机に並べた。

 数えてみれば、一週間持つかどうかの額だった。


「……これだけ、ですか」


「贅沢しなければ、十分だろう」


 そう言いながら、俺の指は止まった。

 修道院から課題のたびにもらっていた小袋。

 あれは、この銀貨より多かった。


「……そうか」


 思わず漏れた声に、フランチェスカが首をかしげる。


「どうかしました?」


「いや……」


 銀貨の列を見つめたまま、言葉を探す。


「黒十瓶で、この程度だ。

 なのに、修道院からは……もっと、もらっていた」


 フランチェスカの表情が固まる。


「それって……」


「ああ。俺たちは“仕事の対価”をもらっていたんじゃない。

 ……守られていたんだ」


 借家。食事。顔料を作る時間。

 全部、俺たちの力じゃない。

 修道院が、生活が潰れないように支えていた。


「私たち、ずっと助けられていたんですね」


 フランチェスカが、かすかに笑った。

 その笑みは、どこか寂しげだった。


「そうだな」


 俺は銀貨を一枚つまみ上げ、指の間で転がした。

 この一枚を得るのに、どれだけ砂鉄を選り分けたか。

 それでも――一週間分にも満たない。


「返さないとな」


 気づけば、そう口にしていた。

 フランチェスカが目を瞬かせる。


「修道院に、ですか?」


「ああ。借りっぱなしは性に合わない。

 いつか、ちゃんと返せるようにならないと」


 その「いつか」がどれだけ遠いかも分からない。

 それでも、言わずにはいられなかった。

 フランチェスカは少しだけ目を伏せる。


「……あなたらしいですね」


 その声には、安心と痛みが混ざっていた。

 夕方、二人で市場に出た。

 銀貨の半分を食料に、残りを膠と布に替える。


「本当に、これでよかったんですか?」


 フランチェスカが膠の包みを見つめながら問う。


「黒を作れなきゃ次はない。

 次がなきゃ、返すこともできない」


 フランチェスカは小さく笑った。


「やっぱり、あなたらしいです」


 借家へ戻る道すがら、夕焼けが石畳を赤く染めていた。


 風が少し冷たい。


「守られていたって、気づくのは……少し、痛いですね」


「そうだな」


 その言葉に、俺は横顔を見た。

 彼女の瞳は、どこか遠くを見ていた。


 夜、工房代わりの一室で砂鉄の袋を見つめる。

 黒十瓶で一週間。

 修道院の支援は、その何倍もあった。


「もっと、作らないとな」


 独り言が漏れる。

 フランチェスカは隣の部屋で灯りを落としている。


 守られていた日々は、もう戻らない。

 ならば――返すしかない。


 俺は砂鉄の袋に手を伸ばした。

 まだ、この手は足りない。

 この黒も、まだ足りない。


 だが、気づいてしまった以上、立ち止まるわけにはいかなかった。

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