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第16話 黒を作る工夫

 ギルドから黒の依頼を受けて翌日。

 俺は修道院の外の小道で、黒い砂の山を前に腕を組んでいた。


「……やっぱり、量が足りないな」


 黒そのものは難しくない。

 だが、ギルド長が求めているのは“安定した黒”だ。

 粒が揃っていなければ、すぐに見抜かれる。


 手作業での選り分けには限界がある。

 俺は鉄分の多い黒い砂を指先でつまみながら、ため息をついた。


「もっと効率よく分けられればいいんだが……」


 そのとき、背後から声がした。


「どうかしましたか?」


 フランチェスカが、修道院の門の前でこちらを見ていた。

 彼女は修道院の敷地から出てきたところらしい。


「黒の材料を集めているんだが、量がな……」


「そんなにたくさん必要なのですか?」


「ギルド長が求めているのは“均一な黒”だ。

 粒が揃っていないと、色むらが出る」


 フランチェスカは黒い砂を覗き込み、首を傾げた。


「見た目は同じに見えますけど……」


「職人の目は鋭い。誤魔化しは効かない」


 そう言いながら、俺は砂を握りしめた。

 粗い粒と細かい粒が混ざっている。

 これを均一にするには、篩い分けだけでは不十分だ。


「……磁力で分けられればいいんだが」


 思わず口に出た言葉に、自分でハッとした。


 磁力。

 鉄は磁力に反応する。

 ならば、粒の大きさによって引き寄せられ方が変わるはずだ。


「……電磁石、か」


「でん……? なんですか、それは?」


 フランチェスカが不思議そうに目を瞬かせる。


「鉄を引き寄せる仕組みだ。

 ただの石じゃない。工夫すれば、黒い砂を選り分けられる」


「魔術、ですか?」


「違う。ただの工夫だよ」


 俺は笑ってごまかした。

 青髭の部屋――言えないことは言わない。

 だが、必要なことは伝える。


 問題は材料だ。


 電磁石を作るには、鉄芯、銅線、電源が必要になる。


 銅線は……買う金がない。

 そもそも売ってすらいないだろう。

 だが、銅そのものなら修道院にあるかもしれない。


「……フランチェスカ。修道院に古い銅器は残っていないか?」


「銅器……ですか? どうして?」


「これを細く伸ばせば、使える。

 ただ、買う金はないからな。修道院に余っているものがあれば……」


 フランチェスカは少し考え、言った。


「修道院長に聞いてみます。

 古い器具なら、処分予定のものがあるかもしれません」


「助かる」


 ---


 その日の夕方、フランチェスカが戻ってきた。


「修道院長が、古い燭台なら譲ってもいいとおっしゃいました。

 もう使われていないものだそうです」


「本当か?」


「はい。倉庫に案内します。ただ……」


「ただ?」


「外部の方が倉庫に入るのは、本来は許されていません。

 でも、修道院長が“必要なものだけ持っていくなら構わない”と」


「ありがたい話だ」


 俺は頭を下げた。

 修道院の資産を外部に渡すのは、本来ならあり得ない。

 それだけ、修道院長が俺を信頼してくれているということだ。


 ---


 倉庫は薄暗く、古い道具や壊れた器具が積み上げられていた。

 フランチェスカが灯りを掲げ、奥を照らす。


「このあたりが、処分予定のものです」


 その中に、緑青の浮いた古い燭台があった。


「……これだ」


「これ、使えるんですか?」


「銅は銅だ。これを細く伸ばせばいい」


 ただし、問題はここからだ。

 銅線を作るには、鍛冶屋の線引き板が必要になる。


「鍛冶屋に頼むしかないな……」


「でも、お金が……」


 フランチェスカが不安そうに言う。

 当然だ。俺たちには余裕がない。


「材料を持ち込めば、工賃だけで済む。

 銅を渡せば、断られはしないだろう」


「……なるほど」


 フランチェスカが感心したように頷いた。


「鍛冶屋は素材を喜ぶ。銅ならなおさらだ。

 これを持っていけば、話は通る」


 俺は燭台を手に取り、埃を払った。


「よし。鍛冶屋に行ってみよう」


「はい。……きっと、うまくいきます」


 フランチェスカの言葉に背中を押されるように、俺は倉庫を後にした。


 黒を作るだけなら簡単だ。

 だが、ギルドに認められる黒を作るには――

 工夫と、少しの勇気が必要だ。


 そのための準備は、ようやく整い始めた。

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