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第15話 画家ギルドの眼

 修道院長から紹介状を受け取った翌朝、俺はフランチェスカとともに街の中心へ向かった。

 石畳の道は朝露で光り、行き交う人々の声が重なる。修道院とは違う、都市のざわめきだ。


「……緊張していますか?」

 隣を歩くフランチェスカが、小さく問いかけてきた。


「まあな。ギルドというのは、どこも閉鎖的なものだ」


「でも、修道院長が紹介してくださったのです。きっと大丈夫です」


 そう言って微笑む彼女の顔は、どこか自分よりも落ち着いて見えた。


 やがて、目的の建物が見えてきた。

 外観は質素だが、扉の上には筆とパレットを象った木製の看板が掲げられている。


 画家ギルド。


 扉を開けると、油と木枠と石膏の匂いが混ざった、独特の空気が流れ出てきた。

 中では数人の職人が作業をしており、俺たちが入ると同時に手を止めてこちらを見る。


「……誰だ?」

「修道院の子か?」


 ざわつく視線に、フランチェスカがわずかに肩をすくめた。

 俺は彼女の前に立ち、紹介状を掲げる。


「修道院長の紹介で来た。ギルド長に取り次いでほしい」


 職人の一人が渋々と奥へ通してくれた。


 ---


 ギルド長の部屋は、壁一面に絵具の瓶と木枠が並び、机の上には書類が積み上がっていた。

 中年の男が椅子に座り、こちらを値踏みするように見ている。


「……修道院長の紹介状か。見せてみろ」


 俺は封を切らずに差し出した。

 ギルド長は封を破り、内容を読み進める。


「黒と灰を作った、とあるな。黄土と赤土も……ふむ」


 その声には、驚きよりも警戒が混じっていた。


「来歴不明の職人を、簡単に信用するわけにはいかん。

 だが、修道院長の名は軽く扱えん。……見せてもらおうか」


 俺は持参した小瓶を机に並べた。

 灰、黄土、赤土。どれも自分なりに最善を尽くしたものだ。


 ギルド長は無表情のまま蓋を開け、指先で少しすくってみる。

 しかし、その背後にいた若い職人が、目を見開いた。


「……これ、粒が揃ってる。どうやって……?」

「黄土の色も濁りがない。洗浄の仕方が……いや、こんなの見たことない」


 ギルド長がちらりとその職人を見る。


「お前が言うほどか?」


「はい。これは……本当に良いものです」


 部屋の空気がわずかに変わった。

 警戒は残っているが、興味が混じり始めている。


 ギルド長はしばらく黙り、瓶を一つずつ丁寧に戻した。


「……悪くない。いや、むしろ良すぎると言ってもいい。

 だが、いきなり大きな仕事を任せるわけにはいかん」


 当然だ。俺は黙って頷いた。


「まずは小さな仕事を任せよう。黒を持ってきてもらいたい。

 この瓶を十ほどだ。色むらが出ないか確かめたい」


 フランチェスカが胸に手を当て、ほっと息をついた。


「……わかりました。引き受けます」


「よし。では一週間後に持ってこい」


 ギルド長はそれ以上何も言わず、手を振って退出を促した。


 ---


 ギルドを出ると、フランチェスカが大きく息をついた。


「……よかった。怒られなくて。

 あの職人さん、あなたの絵具を見て本当に驚いていました」


「そうだな。あれなら、次に繋がる」


 俺は空を見上げた。

 黒を作るだけなら簡単だ。

 だが、ギルドに認められるには――もう一工夫必要だろう。


「……さて。どうやって量を確保するか、考えないとな」


 フランチェスカが不思議そうに首を傾げる。


「量、ですか?」


「ああ。黒は質も量も重要だ。……工夫がいる」


 その言葉を聞いて、フランチェスカは小さく笑った。


「あなたなら、きっとできます」


 その笑顔に、少しだけ肩の力が抜けた。


 次の仕事は、黒をそこそこの量。

 だが、それは新しい工夫への第一歩でもあった。

 ――ギルドに認められるための、確かな一歩だ。


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