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第14話 街に根を下ろす者たち

 オーカーを納品してから二日後。

 修道院から、また使いがやってきた。


「写本室より。

 黄土と赤土、いずれも良好。

 次の話をしたいので、修道院へ」


 フランチェスカは胸に手を当て、ほっと息を吐いた。


「……よかった。

 ちゃんと、使えたんですね」


「ああ。

 これで、次に進める」


 俺は羊皮紙を折りたたみながら、胸の奥に静かな緊張を覚えていた。


 ――修道院長は、何を話すつもりなのか。


 ---


 修道院の応接室。

 修道院長は、いつもの落ち着いた表情で俺たちを迎えた。


「黄土と赤土、写本室で試しました。

 どちらも扱いやすく、線が乱れません。

 粒が揃っているのが良いのでしょう」


 フランチェスカは嬉しそうに微笑んだ。


「本当によかった……」


 修道院長は、俺たちを順に見つめた。


「白は難しい色です。

 しかし、あなた方は“代わりに何ができるか”を考え、

 誠意を示した」


 その声は、責めるでも褒めるでもなく、

 ただ静かに評価している響きだった。


「……あなた方の姿勢は、信頼に値します」


 フランチェスカが小さく息を呑んだ。


 俺は、胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。


 ---


 修道院長は続けた。


「黒、灰、そして黄土と赤土。

 あなた方の技術は、確かに良いものです。

 しかし――」


 そこで一度言葉を切り、

 俺の方を静かに見た。


「あなた方は、危険な技術を持っているわけではない。

 背後に怪しい者がいるわけでもない。

 ただ、少しばかり“腕が良い”だけのこと」


 その言葉に、

 俺は思わず息を止めた。


 ――見抜かれている。


 だが、追及する気配はない。

 むしろ、安心したような表情だった。


「ですから、これ以上“修道院が直接あなた方を抱える”必要はありません」


 フランチェスカが不安そうに俺を見た。


「……それは、もう仕事をいただけないということでしょうか?」


 修道院長は首を横に振った。


「いいえ。

 むしろ逆です」


 ---


「あなた方は、この街で職人としてやっていける。

 そう判断しました」


 修道院長は、机の上に一枚の羊皮紙を置いた。


「これは、画家ギルドへの紹介状です。

 あなた方の技術と誠意を保証するもの」


 フランチェスカは目を見開いた。


「ギルド……!」


「ええ。

 今後、修道院への納品はギルドを通して行うことになります。

 あなた方のような者は、正式な職人として扱われるべきです。」


 修道院長は穏やかに微笑んだ。


「街に根を下ろすというのは、こういうことですよ」


 その言葉は、

 俺たちの未来を静かに照らす光のようだった。


 ---


 修道院を出ると、フランチェスカは紹介状を胸に抱きしめた。


「……すごいです。

 本当に、ギルドに……」


「ああ。

 これで、正式に“職人”として扱われる」


 フランチェスカは嬉しそうに笑ったが、

 その目には少し涙が滲んでいた。


「ここまで来られたのは……あなたのおかげです」


「いや、お前が頑張ったからだ」


「ふふ……そう言うと思いました」


 夕暮れの街を歩きながら、

 俺は静かに息を吐いた。


 ――これで、ようやく一歩目が終わった。


 黒。

 灰。

 黄土と赤土。


 積み重ねた小さな色たちが、

 俺たちの生活を支える“基盤”になった。


 ---


 次はギルドだ。

 この街で生きていくための、次の扉。


 まだ道は続く。

 だが、確かに前へ進んでいる。

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