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第13話 黄土と赤土の道

 ――時間は、白の失敗より少し前に遡る。


 白の調合に挑戦し、

 石膏も白亜も鉛白も駄目だと分かった日の夕方。


 フランチェスカは、机の上に並んだ白の試作品を見つめていた。


「……どうしましょう。

 このままでは、修道院に何も持っていけません」


「そうだな」


 俺も腕を組んだまま、深く息を吐いた。


 白は無理だ。

 材料も、設備も、危険性も、すべてが足りない。


 だが――

 何も持っていかないのは誠意に欠ける。


 修道院長は白の失敗を織り込み済みだろう。

 しかし、だからこそ“こちらの姿勢”が問われる。


「……代わりに、何か持っていくか」


「代わり……?」


「白じゃなくても、写本室で使えるものなら」


 フランチェスカは小さく首を傾げた。


「そんなもの、ありますか?」


「探してみる価値はある」


 俺は立ち上がった。


 ---


 夕暮れの街は、商人たちが店を閉め始める時間帯だった。


 俺とフランチェスカは、道具屋や染料屋を回りながら、

 写本に使える素材を探した。


 だが――


「白は扱っていませんねぇ。高いですし」

「石膏なら建材屋に……でも粉は粗いですよ」

「写本用の白? そんなもん、ギルドに聞きな」


 どこも同じ答えだった。


 フランチェスカは不安そうに俺を見上げた。


「……やっぱり、白の代わりなんて……」


「いや、まだだ」


 俺は街外れの道を指さした。


「土を見に行く」


「土、ですか?」


「ああ。

 色の基本は“土”だ。

 黄土や赤土なら、写本にも使える」


 フランチェスカは目を瞬かせた。


「……そんなもの、使えるんですか?」


「粒を揃えればな」


 ---


 街の外れにある小さな丘。

 雨で削れた斜面に、黄みがかった土が露出していた。


「……これ、黄土ですね」


「だろうな」


 俺は指で土をすくい、光にかざした。


 粒は粗いが、色は悪くない。

 これなら写本の下地や装飾に使える。


「フランチェスカ、袋を」


「はい!」


 二人で黄土を集め、次に赤みの強い土を探した。


 少し歩くと、鉄分の多い赤土が見つかった。


「これが……赤土」


「レッドオーカーだな」


 フランチェスカは目を輝かせた。


「こんなところに……色があるんですね」


「色は、どこにでもあるさ」


 ---


 家に戻ると、俺たちは土を水に沈め、

 細かい粒だけを取り出す作業を始めた。


 粗い粒は沈む。

 細かい粒は浮く。


 それを何度も繰り返す。


「……大変ですね、これ」


「だが、やる価値はある」


 フランチェスカは袖をまくり、真剣な顔で土を濾した。


「あなたが言うなら……きっと、意味がありますね」


「あるさ。

 白の代わりに、これを持っていく」


 フランチェスカは小さく笑った。


「……誠意、ですね」


「ああ」


 ---


 そして――

 白の失敗を告げたあの日へ、時間は戻る。


 ---


「……白の代わりに、別のものを――」


 修道院長がわずかに眉を上げた。


「別のもの?」


 俺は壺の蓋を静かに開けた。


「はい。

 黄土と、赤土です。

 粒を揃えて、写本にも使えるように調整しました」


 修道院長の目が、わずかに見開かれた。


「……オーカー、ですか。

 この街では、あまり扱われないはずですが」


「白は駄目でした。

 ですが、何か役に立てればと思いまして」


 修道院長はしばらく黙って壺を見つめ、

 やがて静かに頷いた。


「……興味深い。

 白は難しい。

 しかし、あなた方は“誠意”を示した」


 その声は、どこか柔らかかった。


 その言葉に、フランチェスカは深く頭を下げた。

 そして俺は、修道院長の“評価”が変わったのを感じた。


 ――危険ではない。

 ――背後関係もない。

 ――だが、腕は良い。

 ――誠意もある。


 修道院長の視線は、

 もはや“値踏み”ではなく、

 “次の段階”を見据えるものだった。


 ---


「では、この黄土と赤土……

 写本室で試してみましょう」


「ありがとうございます」


 フランチェスカが深く頭を下げる。


 修道院長は、俺たちを見つめながら言った。


「白の件は、これでよいのです。

 あなた方の働きは、十分に伝わっています」


 その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなった。


 ---


 修道院を出ると、フランチェスカが小さく息を吐いた。


「……怒られなくて、よかったです」


「ああ。

 でも、まだ終わってない」


「え?」


「オーカーがどう評価されるかで、次が決まる」


 フランチェスカは不安そうに俺を見たが、

 やがて小さく頷いた。


「……信じています。

 きっと、大丈夫です」


 ---


 白の失敗は、

 俺たちにとって初めての“影”だった。


 だが、オーカーがその影を照らすかどうかは――

 まだ分からない。

後書き


11話の後書きの回答です。

灰色の課題は修道院長にとっては予定外でした。


修道院長は黒で基礎技術の確認、白で背景の確認を行う予定でした。


だが主人公達が想定外の品質の黒を提出した為、技術の再現性確認の必要が生まれました。


なお、白がクリア出来ていたら次は難易度を上げる予定で最終的に青を要求する予定でした。


ラピスなんて一般人が用意できるわけないだろがってね。


なお、白の失敗の後、そもそもオーカーも課題となる予定でした。

主人公達は先回りしましたが、結局は修道院長の想定内。


組織の長ってなんだかんだで怖いですね。


まぁだから主人公が裏で暗躍する思考にも寄っていくのですが…

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